125 マッピング7


「よし! 行くぞ!!」


 機嫌のいいイロナの掛け声で、勇者一行は元気に出発。地下61階に向かう。


「ヤルモさん。また細くなってるけど大丈夫?」


 ただ一人元気のないヤルモはクリスタたちに心配されていた。


「これ、お前たちのせいでもあるからな?」

「恩に着ます!」


 昨夜、イロナの奉仕フルコースを自分から要求したのは、ヤルモがしてほしかったわけではなく、クリスタたちに泣き付かれたからだ。

 今までも怖かったイロナを怒らせたからには、イロナブートキャンプの難易度が確実に上がる。なので、ヤルモの元に陳情が来たのだ。


 そこで、ヤルモもイロナブートキャンプの数に含まれていたし、イロナとヤルモ以外が全滅になりかねないと考えた。

 そうなったら、王女、勇者、聖女を殺した極悪人として裁かれる。だからヤルモは自分の体を売ってイロナの機嫌を取ったのだ。

 その効果のほどは上々。イロナのお肌はピチピチで、鼻歌も漏れている。出会ったモンスターは小間切れ。笑顔で斬っているからちょっと怖い程度。ヤルモたちには譲ってもくれない。


「てか、何したらあんなに機嫌がよくなるの?」

「聞くな。聞かないでくれ。頼むから……」

「う、うん……」


 イロナの上機嫌の理由はヤルモの口から語られることがないと悟ったクリスタ。顔が真っ赤とかなら冷やかして聞けたのだろうが、真っ青だから聞けないようだ。


「でも、このままじゃ、全部イロナさんの経験値になってしまいそうよ」

「あ~……そういえば、ちゃんと説明してなかったな。イロナが遊んでいる間に作戦会議するぞ」


 今回の班分けは、イロナ以外はヤルモ班。先行して歩くのは、シーフのヒルッカと護衛のヤルモ。モンスターの発見や罠の解除を行う。最後尾はクリスタとリュリュを配置し、バックアタックを警戒させる。

 中央のオルガがマッピングをしてくれるので、今まで通ったことのない道と宝箱があった場所を教えてくれる。

 戦闘では、ヤルモとクリスタが前衛。その他は後衛で、補助魔法や遠距離攻撃を当てさせる。


 準備が整ったら戦闘の終わったイロナに声を掛け、戦闘は交互にする約束を取り付けた。その時、イロナから「今晩もどうだ?」とかヤルモは誘われていたが、「不能になるから明日以降に頼む」と、機嫌が悪くならないように断っていた。

 その甲斐あって順調にマッピングは進み、クリスタたちも気持ち良く攻略ができているようだ。


「シーフがいるとすっごく楽! ヒルッカちゃん。入ってくれてありがとね」

「いえ……こんなのシーフなら誰でもできますので……それに、戦闘では役立たずなので感謝されるようなことはしていません」

「一回目はそんなもんよ。聖女様だってリュリュ君だって、この階からずっと役立たずだったんだもん」

「勇者様だって役立たずでしたよね?」

「あ……あははは」


 クリスタとヒルッカが喋っていたら、ムッとしたオルガに怒られて笑うしかない。戦闘に関しては勇者ぐらいしかダメージにならなかったし、下に行くにつれてそのダメージも減っていたのだから。


 そうして喋っている間に、ヒルッカがモンスターに気付いてヤルモ班は戦闘に突入する。


「俺と勇者で倒す。後衛は初級魔法でMPは抑えて行くぞ。ヒルッカは撃ちまくれ」

「「「「はい!」」」」


 オーガジェネラルの群れに突撃するヤルモとクリスタ。後方から支援魔法が届き、二人は力が漲る。

 その力を惜しみ無く使い、ヤルモは剣で吹き飛ばし、大盾でオーガジェネラルを押し返す。

 クリスタは盾で受け、素早く剣を振り、オーガジェネラルのトドメまで持って行く。

 リュリュとヒルッカは、ヤルモの吹き飛ばしたオーガジェネラル狙い。立ち上がる間際に狙いを定め、魔法や鉄の玉をぶつけていた。


 そうこうしていたらオーガジェネラルの群れは沈黙。ヤルモが六割、クリスタが三割、残り一割の経験値は三人で分け合って終了となるのであった。



「なかなかよくなってきたな」


 戦闘が終わり、珍しくヤルモがクリスタを褒めると照れている。


「まぁ二人のおかげでなんとかね。あとはレジェンド武器のおかげかな~?」

「その剣、よく斬れるもんな。でも、動きが悪くちゃ使いこなせない。この短期間で頑張ってるほうだ」

「えへへ。この調子で頑張るよ!」


 ヤルモに褒められたクリスタはノリノリ。次の戦闘でも張り切り、巨大なヘビ、ジャアイントアナコンダに突っ込んで行った。


「待て! 前に出すぎた!!」


 ヤルモが止めても時すでに遅し。クリスタが剣を振ったところで、死角から飛んで来た尻尾に吹き飛ばされた。


「全員最大攻撃! 一瞬でいいから気を引け!!」

「「「はい!!」」」


 クリスタは盾での防御は間に合ったようだが、壁に激突して気絶中。倒れた場所が悪いので、一斉攻撃で気を引いてからヤルモは走る。

 といっても、気を引けた攻撃はヤルモの投げた鉄球だけ。リュリュの広範囲魔法は意に介していないが、ヤルモは気にせずジャアイントアナコンダとの戦闘に集中する。


 クリスタの前に立ったヤルモは飛び掛かるジャアイントアナコンダの顔を剣で叩き斬り、死角から来た尻尾は大盾で止める。

 その時、尻尾が変化して巻き付かれてしまい、オルガたちの悲鳴が聞こえたが、これはヤルモの狙い通り。全身くまなく巻かれたところで、ヤルモは力業で引きちぎった。

 体が半分以下になったジャイアントアナコンダならば、あとは煮るなり焼くなり。ヤルモは前に出て、中華包丁みたいな剣をぶちこんでHPを削り切るのであった。



「ゴメン……」


 戦闘が終わると、オルガの治癒魔法で治してもらったクリスタは平謝り。


「もう、勇者のことは褒めない」

「はい……」


 ヤルモも褒めたことでクリスタが調子に乗ったと反省しているので、素直に受け入れるクリスタであったとさ。

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