328 誰も知らない歴史
時は数百年前のアルタニア帝国草原……
「こんなところにいたのですか。捜しましたよ」
大岩に座る白髪の美女の元へ、シスター風のマッチョな女性が駆け寄った。
「マルちゃ~ん。また振られたよ~」
美女はマルヤッタに泣き腫らした目を向ける。
「戦女神様では、そんじょそこらの男じゃ釣り合いが取れないんですって。もう諦めたらどうですか?」
「ヒドイ!? それに戦女神って言わないでよ~。私にはイリナって名前があるんだから~」
「そう言われましても、国や教会で決まりましたので、私の一存ではちょっと」
「二人きりの時ぐらいいいでしょ~う」
イリナは隣に座ったマルヤッタに泣き付く。そして、ついさっき振られた男について愚痴っている。
「向こうから付き合いたいって言って来たのよ? 顔はいいし領地持ちのこんな優良物件、運命だと思ったのに~」
「はあ……まだそんな命知らずがいたのですね……」
「それなのに、ちょっと触っただけで『ポーショ~~~ン!!』とか言って逃げて行くのよ? 残された私はどうしろっちゅうねん!!」
「心中お察しします」
「でしょ!!」
マルヤッタが察した心の中は、男のほう。それに気付かないイリナは、これまでの連敗を愚痴りまくる。
このイリナ、お察しの通りイロナと同類。サタンを倒してモテ期が来たまではよかったのだが、男のシンボルをちぎりまくったので「男根鬼」と恐れられている。
それからは教会が隔離していたのだが、脱走したところに久し振りに男が寄って来たので、またやってしまったのだ。理由はイリナが……
「私だって、エッチした~~~い!!」
けっこうお盛んなお年頃だからだ。てか、そんな言葉では足りないぐらい欲が溢れてるっぽい。
「ですから、私でよかったらいつでもご奉仕しますよ? 女どうしでも気持ち良くなれるのですから……是非、私と一夜を共にしてください! 私が目覚めさてみせます!! ハァハァ……」
そして、マルヤッタはそっちの趣味全開。こんなに目を血走らせているから、イリナにドン引きされている。
「ありがとう。でも、まだ男なんて腐るほどいるでしょ? マルちゃんは最終手段で取っておきたいの。その時まで待ってて」
ドン引きしているわりには、イリナは乗り気。ていうか、このままでは恋人の一人もできないのではないかと心配なので、体がトンでもなく頑丈かつ最強の治癒魔法の使い手のマルヤッタという切り札は捨てられない模様。
でも、洗いざらい言って酷いな。
「はい! 純潔を貫いていつまでだって待ちます!!」
それなのに、マルヤッタは嬉しそう。そう遠くない未来には、自分のところに転がり込むと確信しているのだろう。
ちなみにマルヤッタのこの言葉から、教会では純潔が守られるようになったんだとかならなかったんだとか……
「これからどうしよっかな~」
イリナがまだ見ぬ彼氏に想いを馳せていると、マルヤッタが策を与える。
「世界中から巡礼者が現れるここで待っているほうが懸命じゃないですか?」
「そうは言っても、貴族みたいな権力者ぐらいしか長旅なんかできないじゃない?」
「そんなことありませんよ。世界中に溢れたモンスターと戦った男性も、戦女神様に会いに来てたじゃないですか」
「ああ。あいつらね……すぐに逃げて行った……アレ? それじゃあこれって詰んでない??」
マルヤッタの策とは、イリナが帝都を離れないようにしていたみたいだが、イリナは気付いちゃった。
「そ、そんなことありませんよ! まだまだ男なんて腐ってるんですから!!」
「いや、それを言うなら腐るほどいるでしょ? てか、その巡礼者も最近さっぱりじゃない??」
「いや、ほら、一年前ほどじゃないけど、チラホラ……」
「やっぱり! こうなったら……」
イリナは突然立ち上がって宣言する。
「私が直々に捜し出してやるわ!」
だが、それをマルヤッタは許せない。
「やめたほうがいいんじゃないかな~? 誰かに怪我させて訴えられても、教会が守れないし……それに、どこを捜すつもりですか? 待ってるほうがいいと思うな~??」
「ほら? 北に死の大地とかいうすんごい所があるじゃない? あの先はまだ誰も行ったことがないんだから、きっとイケメンがいるはず!!」
「いや、誰も行けないから誰もいないんじゃないですか??」
「そうとなったら善は急げよ! ちょっと行って来るね!!」
「戦女神様~~~……」
こうして戦女神ことイリナはまだ見ぬ彼氏を求めて、全力疾走で去って行くのであった。
イリナの全速力には追い付けないとわかりきっているマルヤッタは、追うこともせずにほくそ笑む。
「ま、すぐ戻って来るでしょ。だってあの子の力に耐えられる男なんていないもん。そこを慰めて、今度こそ戦女神様の蜜を……ジュルッ。さて、私ももっと凄い技を考えよっと」
いや、エロイ顔でよだれを拭ってるよ。
こうして今生の別れと知らず、マルヤッタはイリナとのイヤらしい本を執筆しながら、イリナの帰りを首を長くして待つのであった……
* * * * * * * * *
「ガーーーン。なんもないじゃん!」
死の大地の竜巻群は、戦女神化してビュンッとひとっ飛び。たった一日で北の果てに着いたイリナは、岩だらけの土地にガッカリしていた。
「ん? アレは……ダンジョン??」
イリナはこんな場所にもダンジョンがあるのかと、翼をバッサバッサと羽ばたかせて着地した。
「あ、やっぱりダンジョンだ。でも、こんな誰もいない場所じゃ、すぐに魔王が発生しちゃうんじゃ……」
そうして階段を少し下りた所で、イリナは人間の若い男のような生き物を発見する。
「モンスターかしら? カクカクした筋肉ね」
イリナは最強といっても過言ではないので、震える青年に無防備に近付いた。
「お、おまえ……ト、トリ?」
「あ、喋れるんだ。でも、お姉さんは鳥じゃなくて天使様だよ~?」
青年はイリナが空から舞い下りるシーンから見ていたらしいので、イリナはしれっと嘘をつきやがった。
「天使様……キレイ……」
「あらやだ。そんなことあるわよ~。オホホホ。君もよく見たらいい体してるわね。どう? お姉さんとしてみない?」
「シテミナイ??」
「いいからいいから。お姉さんに任せて」
展開が早過ぎるイリナ。人間に近い生き物なら何でもいいのか、無知な青年を言葉巧みに押し倒したのであった……
それから十年……
「みんな~。ごはん狩って来たよ~」
「「「ヒャッハ~~~!!」」」
「「おっにっく、おっにっく♪」」
イリナは三男二女の母となっていた。
これは、青年と出会ってから毎日毎晩子作りしていた結果。驚くことに、青年は戦女神の攻撃を耐えることができたのだ。
実はこの青年、ダンジョンから出た魔王。人間のいない土地で、初級ダンジョンぐらい階層の少ない場所でたまたま生まれてしまった出来損ないの魔王なのだ。
この青年の場合、記憶も曖昧で人間にも出会うこと無く十年近く地上で過ごしたので、地上征服といった使命を忘れてしまい、モンスターが主食となってしまった。
ダンジョンが生まれた当初はこんな事態が数多くあり、現在の兎耳族や猫耳族やドワーフといった亜人は、こうやって人族の領域で繁殖したのだ。
「あなた~。今晩も頑張りましょうね」
「お、おう。お手柔らかに……」
こうして性欲の権化の戦女神と魔王が毎日頑張ることで、トゥオネタル族の歴史が人知れず幕を開いたのであった……
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