329 結婚式
ヤルモから手紙を受け取った人々がカーボエルテ王国の王都に集まった二日後、厳かな式典が行われる。
「「「「「綺麗……」」」」」
教会の扉が開かれ、ウェディングドレスを身にまとったイロナが入場すると、誰もが見惚れて息を飲む……
そう。今日はヤルモとイロナの結婚式だ。
このために両家の両親や、ヤルモとイロナの友人がカーボエルテ王国に集まり、赤い絨毯を一歩一歩進むイロナに祝福の言葉を送っている。一部は、イロナの父親であるトピアスの四角く膨らんだスーツ姿に釘付けになってるけど……
そして壇上に立つ白いタキシードを着たヤルモにイロナが手渡されると、神父による結婚の儀式が始まった。
「
「誓います」
「汝イロナは、いついかなる時も、新郎ヤルモを愛し続けると誓いますか?」
「誓います」
「では、この場で永遠の愛を誓う口付けを行いなさい」
ヤルモはイロナのベールを上げると、イロナの唇に自身の唇を合わせる。
「これでこの二人は晴れて夫婦となりました。皆様、この新しい夫婦を温かく見守り続けてください」
「「「「「おめでとうございま~す」」」」」
こうしてヤルモとイロナの結婚式は、割れんばかりの拍手と、祝福の言葉に埋め尽くされたのであった。
結婚式が終わると、二次会はガーデニングパーティー。二人の元へ祝福の言葉を述べる人が集まり、厳かにやっていたが、酒の入ったオスカリたちが騒ぎ出してからは酒盛りに変わっていた。
「がっはっはっはっ。なんだ。全然いける口じゃないか」
「弱いなんて言ってないだろ。まだまだいけるぞ。勝負だ!」
「おお~? 俺に勝とうって言うのか? 酒、持ってこ~い!!」
ヤルモとオスカリの飲み比べが始まると騒ぎ声が大きくなり、やんややんやと応援する一同。しかし、ヤルモを応援する声が多いので、オスカリは「俺にも黄色い声援くれよ~」とかブーブー言いながら酒を
そんな二人を温かい目で見ているクリスタとオルガは、笑いながら喋っていた。
「ヤルモさんはこの一年で、さらに丸くなったね」
「本当に……人間不信だったのが嘘みたいです」
「あんなに楽しそうにして……やっぱり男の友情には勝てないね~」
「どうでしょう……一番最初にヤルモさんの心を動かしたのは勇者様ですし、負けてないんじゃないですか?」
「そう? ……よし! 私もその戦い、参戦するわ! 酒、持ってこ~い!!」
「勇者様は王女様でもあるんですよ~」
クリスタも飲み比べに参戦。はしたないと止めるオルガの制止はきかず、オッサンたちも「来い来い」言って止めもしない。
しかし、さらに熱い飲み比べとなるかと思ったら、クリスタは5杯でギブアップ。ヤルモの膝に頭を乗せて寝入ってしまった。
それからもヤルモとオスカリの戦いは続いたが、お酒が尽きてしばしご歓談。その頃にはクリスタがヤルモの膝の上で目覚めた。
「起きたか……」
「はれ? 私、なんでこんなところで……」
「勇者は酒癖悪すぎんぞ。3杯目辺りから抱きついて離れなかったんだからな。引き離そうとすると泣くし
「あっ……あはははは」
「起きたなら離れろよ」
クリスタにも少しは記憶に残っていたからか照れくさそうに笑っていたが、一向に起き上がる素振りはない。
「ねえヤルモさん?」
「ん?」
「ヤルモさんって、私のことを名前で呼ばないじゃない。どうして??」
「特に意味は……聖女も聖女って呼んでるし」
「え~! オスカリさんたちのことは名前で呼んでるじゃな~い。私も名前で呼んでよ~」
クリスタがおねだりして頭をグリグリ押し付けるので、ヤルモは優しく頭を撫でる。
「二人はなんっつうか……特別だからだ。勇者たちに出会わなかったら、たぶん俺は、こんなに多くの人に祝福してもらえなかっただろう」
「ヤルモさん……」
「こんなひねくれたオッサンに説教してくれてありがとうな。お前は俺の勇者様だ……なんか言ってて気持ち悪いな」
確かに女性が言うなら締まりそうな言葉を、こんなムキムキのオッサンが言ったら気持ち悪い。しかし、クリスタは……
「うっぐ……ううぅ……ヤルモさん……うわ~~~ん!!」
ヤルモにしがみついて大泣き。涙をヤルモの大事な部分で拭ったりしている。
「黙って見ていたら、我の旦那の股間を狙うとは……」
それを見ていたイロナは激オコ。太ももまでは許していたみたいだ。
「わっ! イロナ! 泣いてるだけだから許してやってくれ。な?」
「主殿も喜んでいただろうが……」
「そんなことないっす! いだっ!? なんでこっち??」
ヤルモが止めても標的が変わっただけ。頑丈な頭のほうが殴りがいがあるのかな?
「結婚初日で夫婦喧嘩か~? やれやれ~!!」
それを煽るオスカリパーティ。夫婦喧嘩を楽しみたいみたいだ。だが、それは最悪の一手。二人のケンカは……というか、イロナがヤルモを殴ることが楽しくなりすぎて……
「オスカリ様、止めてください! このままでは教会が崩壊してしまいます!!」
教会の庭はボコボコ。オルガがオスカリに助けを
「いや……あんなんムリムリ。ヤルモまで魔王みたいになってんじゃねぇか……」
「この一年で、どんだけ強くなってんのよ……」
残念ながら、オスカリパーティもクリスタパーティも、2組の勇者パーティが揃っているのに割って入れず。
これは、300階近くもあるトゥオネタルのダンジョンで、ヤルモがイロナブートキャンプに耐えた結果だ。
伝説級のモンスターの群れとも一人で相手させたりしたからには、ヤルモのレベルは爆上げ。現在のレベルは、人族史上の最高レベルを100レベル以上更新した、266。
しかしながら、イロナのレベルも324に上がっているのでまだまだイロナに頭が上がらない。防御するだけでやっとだ。
でも、しっかりガードすればHPは減らないしスタミナも減らないので、イロナの本気の攻撃でもいくらでも受けていられる。夜の攻撃に至っては、快感しか感じないのだ。
「クックックックッ。そろそろ本気の本気を受けて見るか?」
「それはアカン! やめっ……せめて盾を装備させてくれ~~~!!」
カーボエルテ王国に、戦女神降臨。金色の鎧に翼を羽ばたかせるその神々しい姿が空に現れると、国民は祈りを捧げるのであった……
* * * * * * * * *
「あ~。楽しかった~」
ヤルモをあっという間に蹴散らしたイロナは、いい気なもの。集まる国民にクリスタパーティとオスカリパーティで「アレは幻覚。アレは見間違い」と必死に説得しているのに……
イロナもヤルモを見習って、戦女神化を使うようになってスキルレベルが上がり、少しの使用時間なら全身筋肉痛にならなくなっているので、自分で痛め付けたヤルモの頭を膝に乗せて撫でている。
「そういえば、そろそろ奴隷魔法が切れる頃ではないか?」
「あ~。最近は飛ばしていたから、もう切れてるかもな。ま、食い扶持が一人増えたところで、この一年でめちゃくちゃ稼いだから金には困りそうにないな」
ヤルモは老後の心配は解決したようなことを言うと、イロナは首を捻る。
「一人? 毎日あんだけヤリまくっていて、それで済むのか??」
「あ……ちなみにイロナは何人ぐらい欲しいんだ??」
「我は……多いに越したことはない。頑張るのだぞ。パパ」
「うっ……子育てっていくら必要なんだろう……」
イロナにパパと呼ばれたヤルモは、将来設計のやり直し。これまで稼いだお金を計算し直し、子持ちのオスカリパーティに相談したら「子供はめちゃくちゃ金が掛かる」と言われたので、老後の心配が増えるヤルモであった……
おしまい
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