327 一年後2


 ヤルモとオスカリがチチクリあっていると、クリスタが声を掛ける。


「このおじ様たちって、ユジュール王国の勇者パーティ?」


 そう。自己紹介も無しにヤルモと仲良さそうにしていたから、クリスタは気になっていたのだ。


「ああ。こいつがユジュール王国の勇者様だ」

「勇者様言うな。お前、絶対に俺のこと勇者と思ってないだろ?」

「んで、こっちの若い女の子が、カーボエルテ王国の勇者様だ」

「ヤルモさん。私のことも勇者だと思ってないでしょ?」


 ヤルモが半笑いで紹介したからには、オスカリとクリスタから苦情。その苦情には半笑いで「勇者だと認めている」とヤルモは言っていたので、二人は呆れて追及は諦めていた。

 それからクリスタパーティとオスカリパーティは、お互いの自己紹介。ヤルモはクリスタパーティが若いので、オスカリパーティから助言をもらうのかと見ていたら、話の内容はイロナがほとんど。

 同じイロナ被害者として、通じ合うものがあるようだ。


「クックックックッ。勇者パーティが2組も揃っているとは壮観だな。どうだ? 久し振りにやりあおうではないか!」

「イロナ! 今日はやめてくれ~~~!!」


 一年間熟成させた勇者パーティ2組を見たイロナは戦闘モード。ヤルモも必死の説得だ。

 ちなみにオスカリパーティは、レベルが上がった以外は見た目に変化はさほどない。クリスタパーティは全員上級職に転職していたから、イロナとしてはクリスタパーティのほうが成長が楽しみだと思っている。



 なんとかヤルモの説得でイロナが引いてくれたけど、先送りにしただけなので結局は解決していない。

 そんな感じで全員震えていたら、大きな声が聞こえる。


「やっちゃん。連れて来たよ~」


 筋肉おかん……いや、戦おかんクラーラだ。そのクラーラはヤルモの両親を引き連れてやって来た。


「クラねえ。こんなに遠くまですまないな」

「いいのいいの。おじさんたちからいっぱいお金貰ったから、こっちも家計が助かるわ~」

「お袋たちは疲れてるとこ悪いけど、中にイロナの両親がいるから紹介する」


 ヤルモは一度席を外すと、食堂にてくつろいでいるイロナの両親に自分の両親を顔合わせ。手紙でもトゥオネタル族のことは説明していたが、ヤルモの両親は実際見るとめちゃくちゃ緊張していた。

 なのに、ヤルモはそんなカチンコチンの両親を残して元の場所へと戻る。


「ムフフ……あの人が初恋のお姉さんなんだ~?」


 すると、下品な顔をしたクリスタとオルガが寄って来た。なので、ヤルモは手をクリスタの目の前に持って行く。


「こうやって体を隠して顔だけ見てみろよ」

「アレ? ……めっちゃ美人じゃん!?」

「本当ですね……うっ。アンバランス!?」


 クラーラの体を隠して顔だけ見たら、清楚な美人そのもの。しかし、体を入れて見ると美人度半減どころの騒ぎではない。だってクラーラのぶっとい両腕には、リュリュとヒルッカがぶら下がっているもん。


「準備できましたよ~~~」


 こうして久し振りに会った一同は、ウサミミ亭の主人、エイニの美味しいバーベキューに舌鼓を打ちながら、夜まで思い出話に花を咲かせるのであった……



「んで……話ってなんだ?」


 その夜、ヤルモとイロナはクリスタの部屋に呼び出されていた。


「いや、オスカリさんまでなんでいるの!?」

「ヤルモばっかり若い子と飲むなんて許せん! 俺にもお酌してくれよ~」

「って、絡まれた」

「はぁ~……真面目な話するんだけど」


 何故か酔っ払いのオスカリまでヤルモにくっついて来たので、クリスタは頭を抱えている。


「てのは冗談だ。なんか世界についての大事な話をするんだろ? 盗み聞きするつもりはなかったんだが、聞こえてしまったからには力になりたいんだ。頼む! 俺にも手伝わせてくれ!!」


 急に真面目な顔に変わったオスカリの話をポカンと聞いていたクリスタは、深々と頭を下げられて我に返る。そしてヤルモに視線を送って、頷いたら喋り始める。


「わかったわ。そうまで言うなら仲間に入れてあげる。ただし、絶対に後悔するから心して聞いてね」

「あ……ああ!」


 クリスタの謎の迫力に押され掛けたオスカリは、自分を鼓舞するように返事をした。


「サタンの話を聞いてから、まず私たちが調べたのは戦女神の発祥地、アルタニア帝国よ」

「サタン……戦女神……へ? そゆこと!?」


 クリスタの発言で、早くも後悔したオスカリ。イロナを見て驚いているから、全てを察してしまったのだろう。


「教会や城にあった古い文献を、虱潰しらみつぶしに送ってもらったわ」


 しかし、クリスタはそんなオスカリを無視して、アルタニア帝国の教会に眠っていた手記を読み上げるのであった。



「……というところで、この手記は終わるの。信憑性はまったくわからないけど、これが事実だとしたら教会はおしまいね」

「確かに、んなもん表に出せないわな。てか、そのシスターの空想じゃねえのか? なんかエロイ描写多いし……」

「エロイとか言わないで! 恥ずかしいの我慢して読んでたんだから!!」


 オスカリがちゃちゃを入れるので、クリスタは顔が真っ赤。二人はわいわいやり始めたがヤルモは深く考え込んでいたので、オルガが質問している。


「ヤルモさん、どうしたのですか?」

「いや……トゥオネタル族の集落の外れに、古い絵があるんだ。その絵が手記の続きだとしたら、合点が行くような気がして……」

「どんな絵だったか覚えていますか? あ、書いてください」


 ヤルモはうろ覚えの絵を紙に書いて行くが、クリスタとオスカリが「下手クソ」だとちゃちゃを入れる。しかし、イロナが「上手い」と言っていたから黙った。ていうか、元の絵が酷い物だったので、ヤルモは上手く書けているほうだ。


 その絵が完成し、ヤルモの解釈を聞いた一同は……


「「「あるかも……」」」


 事実の可能性が上がったので、もう一度手記に目を通すのであった。

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