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326 一年後1
サタン討伐から一年後……
カーボエルテ王国の王都にある、最近ひとつ星の評価をいただいた宿屋「ウサミミ亭」の庭では、芝生に寝転ぶヤルモとイロナの姿があった。
「二人とも、久し振り~」
そこにクリスタパーティが現れて、ヤルモたちと円になって座る。
「もう、ヤルモさんがトゥオネタル族を連れて帰って来てから、ホント大変だったよ~」
クリスタの苦情は、およそ九ヶ月前の出来事から始まる。
いちおうヤルモも、カーボエルテ王国にいきなりトゥオネタル族を多く連れて来ると問題が起こると自覚はあったので、その三ヶ月前にはハミナの町に訪れて、国王宛とクリスタ宛と家族宛の手紙を送っていた。
冒険者ギルドで綺麗な服を着て貴族カードを出して、その手のことを一括でお願いしてみたが微妙な顔をされたので、手紙の内容にあったサタンの馬鹿デカイ魔石を提出したら、あれよあれよ。
伝説になるほどの大きな魔石だったので、取り次ぎは上手く行ったが販売は保留とした。
その他トゥオネタルのダンジョンで手に入れたアイテムは、知り合いの商人、ヨーセッピ老人に頼んでウハウハ。その代金で日持ちのいい食料だけ大量に買い込んで、三日の滞在でトゥオネタル族の里へ戻る。
三ヶ月後には、予定通り四人のトゥオネタル族を連れてハミナに現れたヤルモたち。そのハミナは物々しい雰囲気で兵士が数多く配置されており、クリスタパーティまで呼び寄せられていたから久し振りの再会となった。
何故こんなに兵士が多いのかというと、トゥオネタル族対策。お金とかの知識が無いので無銭飲食が多く、過去にはけっこうやらかしていたようだ。
ヤルモが紹介するとトゥオネタル族は大人しいので、猛獣使いのように思われていた。こちらに来た目的が料理を覚えたいがためだったのは手紙で知っていたが、半信半疑だったので、真面目に勉強する様子を見るまで信じていなかった。
その時はヤルモとイロナは一週間ほど滞在したので、その間にクリスタパーティに土産話。サタンを倒したとも手紙に書いていたのに、全員めっちゃ呆れていた。勇者の仕事を二人に取られまくっているのだから致し方ない。
その後、お腹いっぱいまで土産話を聞いたクリスタから、サタンの魔石についての伝説を聞かされたヤルモ。
どうも前回のサタンの魔石はアルタニア帝国にあったのだが、紛失していたとのこと。伝説ではサタンが復活する時に黒く輝くとなっていたので、現在情報を集めている最中だから、しばらく預かっているようにと説得された。
ヤルモは買って欲しかったようだが、クリスタに何故か止められた。実の父であるカーボエルテ王が信じられないんだとか……ユジュール王と密かに文を交わし、管理を頼んでいる最中らしい……
それから三ヶ月前にまたトゥオネタル族を連れたヤルモが現れ、料理を覚えたトゥオネタル族を連れて帰り、いまに至る。
「何が大変なんだよ。俺のほうがめちゃくちゃ大変だったんだからな」
クリスタの苦情からヤルモの愚痴。それはサタン討伐直後の話から始まる。
サタンが発生した理由はわからないが、地下300階近くもあるダンジョンは野放ししていたら大変なことになるのはヤルモでもわかる。なのでヤルモはダンジョンレベルを下げるために、定期的にクリアすることを提案した。
トゥオネタル族の文化では魔王発生まで放置するのが習わしだったので反対意見はあったようだが、今回は死者を多く出してしまったので、ヤルモ案は渋々だが受け入れられた。
しかし、イロナが大反対。難易度の高い戦闘を御所望なので、「どうしてもと言うのなら我の屍を越えて行け!」と、ダンジョンの前に仁王立ちで陣取る始末。
ヤルモの大変だった発言は、ほとんどここに集約されていた。
「ウソ……イロナさん一人でトゥオネタル族全員を血祭りに上げたんだ……」
クリスタの言う通り、最強の門番が立ち塞がっていたので、誰一人ダンジョンに入れず。この事態には、ウサミミ亭の庭に集まる全員が震え上がった。
だがしかし、イロナだって神ではない。鬼に見えるけど、いちおう人間だ。
ヤルモがトゥオネタル族に策を与えて、みっつのパーティを除いて突撃。さすがにイロナでも、トゥオネタル族全員を相手にしていては鉄壁にも穴が開く。
難なくひとパーティをダンジョンに送り込み、イロナが疲れて寝入っている隙に残りのふたパーティもダンジョンに潜入。あとは、トゥオネタル族を半分に分けて毎日イロナの相手をさせて、3組の帰還を待つだけ。
トゥオネタル族パーティの3組がダンジョンボスの魔石を持ち帰って来ると、ようやくイロナも諦めて、ヤルモと一緒にダンジョンに潜り出したのだ。いや、イロナブートキャンプの始まりともいえる……
「おう! ヤルモ。来てやったぞ。なんの話をしてたんだ?」
そんな会話をしていたら、半年前に手紙を送ったオスカリパーティが到着。さっそく話に加わり、トゥオネタルのダンジョンに興味津々になった。
「どんだけ深いんだ……俺たちも行けないか?」
「アルタニアとユジュールはいいのかよ」
「ああ。アルタニアは落ち着いたし、ユジュールはな~……
ヤルモが詳しく聞くと、アルタニア帝国にあるダンジョンは一通り回って、あとは新勇者パーティと冒険者でなんとかなるとのこと。
アルタニア帝国変革作戦も順調で、来年には第七王子が即位して、平和な国に生まれ変わるそうだ。
問題なのは、ユジュール王国のほう。冒険者が多すぎてリストラしている最中なのに、オスカリパーティがダンジョンに潜ると他の冒険者の稼ぎに影響が出るので、ユジュール王からしばらく帰って来るなと言われているそうだ。
「世知辛いね~。プププ」
「おまっ! 笑いやがったな~」
そりゃ、勇者パーティが真っ先にリストラされていたら、ヤルモのツボに入る。
オスカリは怒っているようなことを言っているが、久し振りに会ったのが嬉しいのか笑いながらヘッドロックしているので、周りから見たらオッサンどうしがチチクリあっているように見えるようだ。
「ヤルモさんが心を許してる……」
「オジサンどうしの愛……萌えますね!」
「え? 聖女様……それはないわ~」
クリスタは二人の関係が羨ましくなっていただけだが、オルガが新しい扉を開けようとしていたので、皆から止められるのであったとさ。
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