325 トゥオネタルの魔王14


「イロナ~~~!!」


 サタンが大爆発に巻き込まれ、その余波で吹き飛ばされたイロナの元へ、キャタピラを回して走るヤルモ。


 そう。サタンへのラストアタックは、ヤルモの仕業。イロナの戦女神が解除された瞬間、ヤルモは下の階へ飛び下り、キャタピラモードで爆走。

 そして、ロケット弾を同時に数多く着弾するるようにナビに頼み、走りながら何百発ものロケット弾を時間差で発射して、全てを弱ったサタンに着弾させたのだ。


「イロナ!?」

「ぐっ……」


 なんとかイロナが地面に叩き付けられる寸前にヤルモはキャッチ。


「もっと優しく受け止められないのか。痛いではないか」

「す、すまん。あと、爆発に巻き込んだことも許して……」

「もういい。サタンの元へ連れて行け」

「はっ!」


 ヤルモはイロナを吹き飛ばしたことを恐れていたが、イロナは許してくれたようなのでいい返事。しかし、気になることもある。


「サタンって死んだのか?」

「たぶんな。もう一押しのところを、主殿に横取りされた」

「ごめん! 俺も必死だったから……許して……」

「もういいと言っておろう。さっさと連れて行け」

「はっ!」


 これ以上遅れるとイロナがキレそうなので、揺らさないようにイロナを運ぶヤルモ。でも、キャタピラモードは振動があるようで、全身筋肉痛のイロナが痛がって「殺すぞ」と脅されたので解除していた。

 それからお姫様抱っこでイロナを運んだヤルモは、全身がバラバラになったサタンの頭の元へと歩を進めた。


「口惜しや戦女神……」


 肩を借りて立つイロナを睨み殺さんばかりに睨んだサタンは、次はヤルモを睨む。


「最後の攻撃はお前か?」

「そうだ。我の主殿は凄いのだ」


 ヤルモは首を横に振っていたけど、イロナが答えてしまった。戦女神みたいにサタンから恨まれたくなかったようだ。


「お前の職業はなんだ?」

「いちおう重戦車だけど……」

「重戦車だな。覚えたぞ」


 ヤルモは言ってよかったのかと思ったが、名前じゃないから「まぁいっか」と一人で納得する。


「戦女神だけならば余の勝利だった……戦女神、重戦車。今回は余の負けだ。だが、余は再びこの地に復活し、地上の全てを破壊し尽くしてやる。その時まで楽しみに待っているのだな。クァ~ハッハッハッハッ」


 サタンが最後の言葉を残すと……


「貴様との戦い、楽しかったぞ! 次は一対一で勝ってやるから覚えておけ!!」


 イロナは超偉そう。そして無謀。


「俺たちが生きているうちに復活するのか??」


 ヤルモは頭にハテナマーク。数百年前に現れたサタンなのだから、再戦はありえないと思っている。あと、自分が死ぬまで出て来るなとも祈っていた。



 そんな二人の言葉を最後に、サタンは光の粒子となってダンジョンに吸い込まれたのであった……



 それからサタンがいなくなった場所には、信じられないほど巨大な宝箱があったのでヤルモは目が爛々らんらん。イロナを優しく地面に寝かせて、宝箱を開けたら微妙な顔。

 成人男性ぐらいのとんでもなくデカイ魔石が入っていたのはいいことなのだが、レジェンド装備が無かったから納得がいっていないようだ。

 その魔石を無理矢理アイテムボックスに押し込んでいたら、イロナの家族がやって来て、イロナとヤルモを褒め称える。ヤルモは魔石のことを聞かれるかと思ってヒヤヒヤしていた。


 そして、ダンジョンからの帰還。セーフティーエリアの転送魔法陣はイロナとサタンのせいで吹き飛んでいたが、現在ダンジョンは大穴を塞ぐ作業でエネルギーを多大に使っているせいで、モンスターを生み出すことができない。

 そんな機能を知るよしもないヤルモたちは、先行して帰還していたトゥオネタル族がモンスターを倒していたので、20階上がるのに一体もモンスターが出て来なかったことに不思議に思っていた。


 半日掛けてダンジョンから出た皆は、魔王軍との戦闘でお疲れモード。丸一日、泥のように眠り、次の日……


「宴だ~~~!!」

「「「「「ヒャッハ~~~!!」」」」」


 トピアスの音頭で宴会が始まった。酒とさかなは、ヤルモのおかげで腐るほど持ち帰っていたので困ることはない。

 トゥオネタル族は、一時は滅亡まで覚悟していたので、涙を流しながら料理を頬張り、酒をあおっている。


 本日の主役はイロナとヤルモ。感謝する者が絶え間なく現れ、あのイロナでさえ困った顔をしている。

 ヤルモに至っては、迷惑そうな顔。トゥオネタル族は決まって背中をバシバシ叩いて行くからうっとうしいようだ。あと、女性がヤルモの柔らかい体に興味を持ち、チヤホヤして触るから、イロナが怖くてだらしない顔ができないらしい。


 そうして朝から晩まで宴が行われ、深夜まで突入しそうになったら、主役の二人は消えていたのであった……



「「はぁ~~~」」


 宴会の場から消えたヤルモとイロナは、イロナの秘密基地で疲れを落とす。聖なる泉に入った瞬間、開放感で同時に気持ち良さそうな声が漏れていた。


「なんだか大変な里帰りになったな~」

「うむ。さすがに里が滅びそうになっていたとは我も驚いた」

「わはは。イロナにも郷土愛があったんだな」

「フフフ。本当に驚きだ」


 ヤルモが笑うとイロナも笑う。自分の郷土愛が信じられなかったみたいだ。


「主殿……」

「ん?」


 そんななか、イロナが急に真面目な顔になったのでヤルモは首を傾げる。 


「今回サタンに勝てたのは、主殿のおかげだ。ありがとう」

「いや、どう考えてもイロナのおかげだろ?」

「我だけでは無理だった。里の者を、我を説得して作戦を決めたのは主殿だ。協力して戦ったからこその勝利だ」

「イロナまで……もうみんなから感謝の言葉は受け取ったからやめてくれよ」

「我からの感謝も受け取ってくれ。我を守り続けてくれた主殿もかっこよかったぞ。惚れ直した」

「あっ……」


 イロナは優しくヤルモを抱き締め、ヤルモと唇を合わせる。そんなイロナを優しく抱き締めたヤルモは、静かに目を閉じるのであった……

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