324 トゥオネタルの魔王13


 トゥオネタル族がサタンに飛び掛かり、次々と吹き飛ばされて2分……


 ザザザザーーー……


 突如、金色こんじきの剣が降り注ぎ、サタンに突き刺さった。


「アレは……イロナか? よくわからんけど、全員退避~~~!!」

「「「「「ヒャッハ~~~!!」」」」」


 その瞬間、トピアスは直ぐさま撤退の掛け声。トゥオネタル族は倒れた仲間を抱えて散り散りに逃げる。


「戦女神……ついに本性を現したな、戦女神ぃいいぃぃ~~~!!」


 サタンは金色の鎧を着て羽ばたくイロナを見た瞬間、憤怒の声を上げて突撃する。おそらく、サタンが最後の瞬間に見た戦女神がこの姿だったので、記憶にこびりついているのだろう。


「そう叫ばなくとも、我から行くぞ!!」


 サタンの大声に合わせて、イロナも突撃。その衝突は隕石どうしの衝突かの如く大爆発を引き起こし、ダンジョンの床と天井を破壊したのであった……



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「立てるヤツは救助活動だ! 捜せ! 怪我してるヤツは上の階に逃げろ~~~!!」


 イロナとサタンのせいで、トゥオネタル族はてんやわんや。トピアスの叫び声が響き渡ってる。


 だって、イロナとサタンが衝突した瞬間、全員壁に叩き付けられたんだもん。生きてるのが奇跡。体の頑丈なトゥオネタル族じゃなければ、全員壁に描かれた真っ赤な絵画になっていたに違いない。

 ただし、全員怪我を負っているので、生き残りを捜しているのは数える程度。全員、一斉に上り階段に向かってる。


「ててて……なんちゅう頑丈なヤツらだ……」


 頑丈中の頑丈なヤルモがそう漏らしても仕方が無い。ほとんどのトゥオネタル族が階段に走っているからだ。

 トピアスも捜索を急がずに、点呼を優先している。幸い下の階に落ちた者はいないようだ。


 そんな騒ぎのなかヤルモはポーションを飲みながら、セーフティーエリアの面積を八割は占めそうな大穴の縁に立った。


「うお~。すっげ……」


 大穴の中は、金色の剣が無数に飛び交い、真っ黒な炎が蠢き、衝撃波が絶えず吹き荒れているので、ヤルモの目には地獄に見える。


「アレがイロナなのか……」


 そうしてヤルモが下を見ていたら、隣にトピアスが立った。


「そうだけど……初めて見たのか?」

「ああ。オヤジから聞いていたが、ここまで強いとは知らなかった」


 トゥオネタル族では、イロナの戦女神化を見たことがあるのは祖父だけ。これは昔、イロナが調子に乗って戦女神化を使ったら、モンスターにトドメを刺せずに戦女神化が解けて死に掛けたところを祖父が助けたのだ。

 しかし、ヤルモには関係ないこと。それよりも今後のことを話し合う。


「ま、そんなことより、撤退の準備をしとこうぜ」

「お前……あのイロナが負けると言うのか?」

「怒るなよ。もしものためだ。アレには制限時間があるらしいから、もしも時間が来たら俺がサタンを止める。トピアスさんたちでイロナを逃がしてやってくれ」


 娘が侮辱されたように感じたトピアスはヤルモを睨んだが、ヤルモの覚悟を知って怒りを収める。


「お前一人じゃ無理だろ。俺も付き合う」

「お義父さん……」

「まだお義父さんじゃねえ! 動けるヤツを捜して来るから、お前はイロナの応援でもしてろ!!」

「まだ……」


 お義父さんと呼ばれて怒りが再燃したトピアスであったが、ヤルモはついに認められたと拳を強く握り締めて喜ぶのであった。



 ヤルモがイロナを見守り、トピアスがイロナ救出班と撤退班を決めて回復アイテムで体調を戻し、約半数を地上に向かわせている間も、下の階では世界の終わりかのような戦闘が続いていた。


「「うおおぉぉ~~~!!」」


 その戦闘は互角。戦女神化したイロナはサタンの強力な魔法を複数の金色の剣を放って掻き消し、そのまま突き刺す。接近戦になればサタンの四刀流を金色の剣二刀流で捌き、鋭い一撃を入れている。

 四天王を八体も吸収したサタンの魔法は、先程よりも威力が上がっているので、いくらイロナが金色の剣で散らしたところで余波までは防げない。イロナの体を焦がし、たまに直撃する。

 サタンの四刀流の攻撃も、今までの学習効果で鋭さが増しているので、あのイロナでもたまに掠る。だが、接近戦はイロナに軍配が上がっているので、サタンは距離を取ることが多い。


 開始たった2分で、イロナとサタンの攻撃回数は万を越える。イロナの金色の鎧は所々剥がれ落ち、サタンも体から腕が落ち足が落ち羽が落ち……その都度、自己再生で生やす。


 しかし3分に達すると、ついに勝利の天秤が片方に傾いた。


「わはははははははは」

「グオオォォ~~~!!」


 めっちゃ笑っているイロナに、だ。


 これは、サタンよりイロナのほうが戦闘に関する頭のネジがブッ飛んでいるからの結果。サタンが自己再生に力を使っているのにも関わらず、イロナは金色の鎧を直せるのに攻撃に全ての力を注いでいたからだ。


 こうなっては、もうイロナの独壇場。


 サタンに金色の剣を無数に突き刺し、無数の斬撃を喰らわし、反撃すら許さない。


 その攻撃は一方的に、千を越え、万を越え、その時が来る。


「ゼェーゼェーゼェーゼェー」


 イロナの戦女神化が解けてしまった……


「クハハハ。余を殺すには、いま一歩足りなかったな。クハハハハ」


 息を乱し、両膝を手で押して立っているのがやっとのイロナの元へ、体を治すこともできないボロボロのサタンが笑いながら近付いた。


「これで地上は余の物だ! 戦女神よ!!」


 サタンが意気揚々と剣を振り上げると、イロナはニヤリと笑う。


「まったく……トドメを横取りされるなんて初めてだ。クックックッ」

「グアアアアアァァ……」


 その瞬間、何百発というロケット弾が降り注ぎ、サタンは大爆発に巻き込まれるのであった……

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