003 魔王のダンジョン


 勇者パーティに加入したヤルモは、魔王が発生したダンジョンに出発した。


 基本馬車移動なのだが、ヤルモはその馬車には乗り込まずに一人で歩いている。これはヤルモの出した条件なので、イジメというわけではない。

 狭い空間に、見ず知らずの男三人、女二人と一緒にいることが、ヤルモには耐えられないだけ。それに職業補正もあるので、遅い馬車に合わせて丸一日歩いたところで疲れない。

 宿も一人部屋。野営の際も、離れた場所に小さなテントを張り、一人で寝ている。徹底してパーティに近付かないヤルモに聖女マルケッタが何度か差し入れをくれるが、無愛想に受け取り、離れて行く時にケツをガン見しているだけだ。


 そうしてアルタニア帝国帝都にある特級ダンジョン……魔王が発生したダンジョンに潜った勇者パーティプラスヤルモは、最下層を目指す。


 戦闘ではヤルモは勇者ダニエルの指揮下に入り指示通りに動くのだが、いまひとつ腑に落ちない。全てヤルモが倒している。そのことをヤルモが質問すると、勇者は半ギレ。


「俺たちは魔王と戦うまで力を温存しなくてはいけないんだ! わかったかオッサン!!」


 もちろんヤルモは納得いかない。だが、マルケッタから「すご~い」だとか、「かっこいい~」とか言われて張り切ってしまう。



 ヤルモひとりでモンスターを薙ぎ払い、中間層を越えるとモンスターが強くなって来た。

 さすがは魔王が発生したダンジョン。上級ダンジョンの最下層まで何度も行っているヤルモですら手こずっている。


 先頭で戦っていたヤルモを抜けるモンスターが現れ、1匹程度なら勇者パーティも余裕で倒すだろうと、7匹のモンスターを引き付けて援護を待つ。

 しかし援護は無く、倒し終わって振り返ると、勇者パーティはまだ戦っていた。


「おい! 終わったなら早く援護しろ馬鹿!!」

「ヤルモさん! お願いします!!」


 ダニエルの辛辣な言葉に、ヤルモは怒るでもなく首を傾げるしかできない。だが、マルケッタに助けを求められたからには別だ。ヤルモはノリノリでかっこつけて倒していた。

 しかし戦闘が終わると、ダニエルやその他メンバーから責められるヤルモ。どこが悪いのかを聞いても「お前が悪い」の一辺倒。マルケッタも止めるでなく「次は気を付けて」の一言で片付ける。

 それからも同じようなことは何度も起こり、ヤルモも「こいつら本当に勇者なのか?」と疑念を抱くようになった。



 それでもヤルモの孤軍奮闘の活躍で、なんとか最下層に辿り着いたのだ。



「チッ……オッサンのせいで無駄な体力を使ってしまったぜ……」


 四天王まで一人で相手取ったヤルモは満身創痍。勇者たちは疲れた程度。納得はいかないがそのことは口には出さず、このパーティでは魔王に勝てないと判断したヤルモは、帰還を提案した。


「はあ!? そこに魔王がいるんだぞ? いまさら弱気になってどうするんだ!!」


 ダニエルは聞く耳持たず。仕方がないのでマルケッタに説得してもらおうと顔を見るが、意外な答えが返って来た。


「ここまで来れば、もうオッサンはいらないわね。元々私は犯罪者を入れるのは反対だったのよ。ああ、オッサンに聞く前から素性は調べ済みだったの。なのに、お涙ちょうだいみたいな告白は笑えたわね。もう、笑いをこらえるのに必死だったわよ。オホホホホ」

「………」


 急に口調の変わったマルケッタに、今までヤルモをおとしいれて来た者の顔が重なり、言葉が出ない。


「あとさ~……私を見すぎ。キモイのよ。やっぱ犯罪者なんかパーティに入れるんじゃなかったわ。いえ、パーティに入っていなかったわね。というわけで、オッサンの罪は消しませ~ん。オホホホホ」


 どうやらヤルモは騙されていたようだ。


 勇者パーティはすでに人数は埋まっていたので、ヤルモにパーティ申請などしていなかった。遠い昔に何度もしたことのあるヤルモであったが、一人で活動していた期間が長すぎたので、すっかり忘れていたことをいいように使われのだ。


「け、契約書は……」

「無効に決まってるでしょ。ギルマスも了承済みよ」


 ヤルモがなんとか絞り出した言葉も、マルケッタに握り潰される。ここでようやくギルマスもグルだったと気付き、ヤルモは膝を突いた。


 その後、高笑いして魔王の間に入って行く勇者パーティの後ろ姿を放心状態で見送ったヤルモは、ここに居ても仕方がないからと地上に向かう。

 満身創痍でも、足手まといの勇者パーティがいなくなったことで、楽に地上に戻ることができたヤルモであった。

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