182 ルオスコの町3


 家族を救出したヤルモは、アルタニア帝国に戻って馬車に乗り込んだ。


「主殿は意外と泣き虫なんだな」

「うっうぅ。カッコ悪いところばかり見せてすまない。うぅぅ」

「まったくだ。次泣いたら罰ゲームだ」

「何するかだけ先に教えてぇぇ~!!」


 イロナからどんな罰があるのか、マジで怖いヤルモ。戦闘、性的な奉仕、どちらが来ても必ず痛いので、必死に涙を堪えようとしている。


 そんな二人を見続けるマルケッタは、こんなことを考えていた。


(なんですのこの茶番は……まるでヤルモが本当に冤罪のように見えますわ。わたくしの夢をくじいておいて、よくもまぁそんな顔ができましてね)


 どんなに感動的なシーンを見せても、マルケッタのひん曲がった性格は直らず。心の中で嫌味を言い続けている。

 そうして再び領主邸に戻ったヤルモたちが応接室に入ったら、腹を擦った勇者パーティがいた。もうすでに正午は過ぎているから、勝手に食べ終えていたようだ。

 ヤルモたちもメイドに食堂に案内してもらい、バカ食いしたら応接室に戻る。そこで話し合いをしようとしたが、領主や執事やメイドも揃っていたので、マルケッタに追い出してもらった。



「さてと……誰が仕切る?」

「俺に決まってるだろ!」


 ヤルモが話を振ると、勇者オスカリが手を上げたので任せる。


「本丸は帝都だろ。襲われたムオニノって町も気になるな。んで、皇帝がいるケミヤロビ……ちょうどここからみっつの町を通るルートになっているし、皇帝に会うのもちょうどいいな。このルートで皇帝に会ってから、ムオニノ、帝都奪取といこう。それでいいか?」

「ああ。俺も手紙を渡さないといけないからそれでかまわない」


 ヤルモが同意すると、勇者パーティも頷く。


「それにしても、魔王の動きが気になるんだよな~……」

「だな。どうしてムオニノを襲ったんだろう?」

「俺も魔王と戦ったことがないんだよな~……」


 オスカリがイロナを見るのでヤルモも見たが、イロナは首を横に振っていたから、ダンジョンから出た魔王の情報は無いと受け取った。


「俺たちはこないだ、カーボエルテで魔王を倒して来た」

「なんだと!? どんなヤツだった!?」


 いちおうこれは協同作戦なので、ヤルモはカーボエルテの魔王とアルタニアの魔王の情報を勇者パーティと共有する。


「魔王って、喋るのか……」

「俺も驚いた。なんだか学習してたりしてたんだよな~。てか、最初の印象は、馬鹿っぽかったかも??」

「学習か……」


 ヤルモから得た情報で皆が考え込んでいると、賢者ヘンリクが口を開く。


「嫌な予想だが……」

「ん?」

「魔王は魔王で、情報を手に入れたりしていないかと……自分に攻撃を仕掛けて来たのは何者か、その者を追いかける習性があったり……」

「まさか……そんなに賢いのか? ただのモンスターだろ??」

「普通のモンスターならな。しかし、ヴァンパイアってのは気になる。知能は元々高いし、眷属を増やせるかもしれない」


 ヘンリクの予想の厄介さにオスカリが反論していたら、ヤルモが逸早く気付く。


「まさか、帝国兵が眷属に……」

「おいおい。そんなの、仲間を増やし放題だぞ」

「それよりも、情報を引き出されるほうがマズイ。武器、兵士、戦略……魔王が軍を作って、他国に侵略するかもしれない」


 これまでの歴史でワースト3に入りそうな魔王発生で、ヤルモと勇者パーティは息を飲む。人間の使っていた物をそのまま使える魔王だ。このまま野放しにしていると、未曾有の被害が出るとわかったのだろう。


 しかしその時……


「クックックックッ……」


 イロナが不敵に笑うので、周りの空気が凍てついた。


「なるほど。学習か……人族の強みを学習すればするほど魔王が強くなるって寸法なのだな。合点がいった。クックックックッ」


 どうやらダンジョンから外に出た魔王が強くなるという噂の真相がわかったから、イロナは笑っているっぽい。もっと放置すればさらに強くなると思って……


 そんなイロナの考えは全員に筒抜けなのか、勇者パーティがヤルモに「魔王の笑みを止めろ」的な目を送って来たので、嫌々声を掛けてみる。


「あの……魔王は倒したいんだけど……」

「うむ。もうすでにそこそこ強くなっているだろうから、味見にはもってこいだ。その次は、どれぐらい期間をおこうか……クックックックッ」

「あ、えっと~……大丈夫っぽいぞ?」


 イロナが魔王を倒す宣言らしいことを言ってくれたので、勇者パーティは心の中でガッツポーズ。

 しかし、イロナは次のことまで考えていたので、魔王が発生した場合はどこででも自分たちが飛んで行って、ダンジョンから魔王を出さないと心に誓う勇者パーティであった。



「ま、こんなものか……」

「あっ! もうひとつ忘れてた」


 話し合いを終えて、オスカリが締めようとしたらヤルモが割り込んだ。


「どうした?」

「魔王は裏返りだったのを言い忘れていた」

「そりゃまたレアなことになってんな……まぁ、魔王はヤルモたち担当なんだから俺たちには関係ないか」


 トップ冒険者のオスカリには説明がいらなかったのでヤルモはさすがだと思ったが、ヘンリクには不安があるようだ。


「眷属に受け継がれている可能性がある。聖属性の防御アイテムは用意するべきだ」

「あ~……だな。いまから買いに出るか」


 用意周到。勇者パーティはおごることなく、最悪のケースを想定して行動する。ヤルモも同じく心配事を潰すタイプなので各種アイテムを買い足し、この日は領主邸にて一夜を過ごすのであった。

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