181 ルオスコの町2
「兄貴……無事で何よりだ」
両親との再会で号泣していたヤルモの涙が止まったところで、細マッチョな弟ヘイモが前に出て来た。
「お前……ヘイモか? じゃあ、あっちのは……ヘルッタ?? おっきくなって……うぅぅぅ」
「それは俺の娘だ。妹はあっち。何歳だと思ってるんだよ」
「うおぉぉ! 長男より先に結婚してるぅぅぅ!!」
「どっちで泣いてんだ」
兄弟とも涙の再会のはずが、ヘイモが結婚しているほうがヤルモはショック。嫁や娘まで居るので、大ダメージのようだ。
またしばらく泣いていたヤルモであったが、オスカリたちがなんとも言えない顔で見ていたので、ようやく泣き止んだ。
ひとまず、家族水入らずにさせてくれと頼んだら、マルケッタから順に応接室に向かい、イロナだけが残って近くの椅子に腰掛けた。
「それで……あいつらに酷いことされなかったか??」
ヤルモ家族は、兵士に剣を向けられて怖い思いをしたようだが、素直に従ったので暴力は振るわれなかったとのこと。マルケッタから預かった人質ということもあり領主も殺すわけにもいかなかったから、食事も普通に出て来たようだ。
「多少窮屈だったが、普段食べている物より豪華だったからわりと快適だったぞ」
「そうそう。二日に一回はお風呂にも入れてくれたしね」
領主邸の暮らしは村での暮らしより意外と快適だったらしく、両親はあっけらかんとそんなことを言って皆を笑わせていた。
「そういえば、俺の冤罪は誰から聞いたんだ? 勇者からか??」
「あ~。くっちゃんって覚えてるかい?」
「お隣のお姉さんがどうしたんだ??」
「あの子もヤルモより先に冒険者になっただろ? お前が三度目に捕まって数年経った頃に戻って来てね」
母が言うには、どうやらくっちゃんという女性は冒険者をしていたが村に戻った時にヤルモの話を聞いて、そんなことをするはずがないと調べてくれたそうだ。
そこでひとつ目は
そこでヤルモの名誉を守るために、裁判所に証言をまとめた物を提出したのだが、本人も居ないのにと門前払い。レポートすら目も通してくれなかったそうだ。
「あいつらは何様なんだよ。あんなヤツらに人を裁く資格はまったくないよ。それよりヤルモ……あんたも悪いよ。まったく捕まらないって、くっちゃん困ってたんだから」
「俺が?? なんかごめん……」
裁判所に対して怒っていた母に言い訳しようとしたヤルモだが、母には勝てないのかすぐに謝っていた。
「そんなことをしてたら聖女様が来てね。あんたが勇者様を殺したと言うじゃない? あたしたちも何かの間違いだと訴えたんだけどね。集めた証拠も燃やされてしまったの……アレさえあれば、勇者様を殺した罪も冤罪だとわかってもらえたのに……ヤルモ。ごめんね」
母がまた涙ぐむので、ヤルモは元気付けようとする。
「もうそんな罪、どうでもいいんだ」
「そんなわけ……」
「俺、いまはガーボエルテ国民なんだ。その国の王女様が守ってくれるから大丈夫だ」
「王女様がかい!?」
「ちなみに俺、書類上は貴族だぞ。信じられるか??」
「貴族様だって!?」
驚く母に、まったく信用しない家族。こんな時のために渡されていたわけでもないのに、ヤルモはS級冒険者カードや貴族カード等を見せびらかしていた。
「あんた……詐欺師になって偽造なんてしてないわよね?」
「「「「うんうん」」」」
「するか!!」
書類上の人物はヤルモから掛け離れていたので、なかなか家族に信用されないのであった。
「ところで、ずっとそこに座ってる綺麗な子は、あんたのなんなんだい?」
「あ~……パーティメンバーだ」
「いや、妻だぞ」
家族には性奴隷を買ったと言えないので誤魔化したら、イロナが嘘の設定を告げてしまった。なのでヤルモが訂正しようとしたら……
「イロナ、いまはそのせっ……」
「「「「「ないないないない」」」」」
食い気味に否定。
「そんな全力で否定しないでくれないか??」
家族はまったく信用していないので、訂正する必要はなかったのであったとさ。
「もういいだろ! どうせ俺はモテねぇよ!!」
家族から今までのモテないエピソードを披露されたヤルモは逆ギレ。せっかく涙の再会を果たしたヤルモだが、一刻も早く家族と別れたくなってしまった。
「とりあえず、ユジュール王国の王様が、お袋たちを匿ってくれることになってるんだ。そっちに向かうぞ」
ヤルモがぶっきらぼうに話すと家族はまた信じられないような顔をしたが、マルケッタを呼びに行こうと部屋を出ようとした時に、イロナが腕を組んでいたほうがめちゃくちゃ驚いていた。
それからマルケッタと共に戻り、待たせてあった馬車に分かれて乗り込む時もヤルモとイロナは腕を組んでいたから、家族はずっとコソコソやっている。
国境の門に着くと、マルケッタの権力で手続き無しにアルタニア帝国から脱出。ユジュール王国側の門まで家族を送ったら、ヤルモはゴソゴソとアイテムボックスから出した皮袋を、父とヘイモに手渡した。
「なんだこれは?」
「生活費だ。金貨千枚もあったら、当分持つだろ」
「そんなに!?」
「S級は言い過ぎだけど、これでも俺はトップクラスの冒険者だ。気にするな」
父が驚いているなか、ヤルモは最後の言葉を残す。
「魔王を倒したら戻って来るから、身の振り方を考えながら待っていてくれ。それじゃあな」
「魔王だと!?」
「ヤルモ!!」
こうして家族を救出したヤルモは、父と母たちが驚いているのにも関わらず背を向け、イロナが組んでいる腕とは逆の手を振り、アルタニア帝国に戻るのであった……
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