021 中級ダンジョン3


 中級ダンジョン地下19階。若手冒険者パーティがオークの群れと戦うなか、タピオとイロナは地下へと続く階段の目の前にいる大剣と鎧を装備したオークジェネラルと対峙していた。


「お~。こいつは知ってるぞ。地下一階に大量に出るブタだ」

「トゥオネタル族のダンジョンは、一階だけでもかなり稼げそうだな」


 イロナはオークの上位種を見ても、弱者認定。タピオにはトゥオネタル族のダンジョンを想像して金勘定をしている。


「では、我が相手しよう」

「う、うん……」


 久し振りにダンジョンに潜っているからか、イロナの戦闘熱に火がついてらしい。その顔が少し怖いから、イロナに譲ってしまうタピオであった。



 イロナはダッシュでオークジェネラルに近付くと、大剣が降って来るが、それよりも素早いパンチでぶっ飛ばす。そして追い討ちの飛び蹴り。たった二発で、オークジェネラルを沈めたのであった。


「むう……こんなに弱かったか?」


 タピオに譲ってもらったのに、浮かない顔のイロナ。そこに追い付いて来たタピオが声を掛ける。


「レベルが違うんだろ」

「そんなのあるのか?」

「こいつも上級ダンジョンの中層に行けば、強くなっているんだ」

「なるほど……我が楽しむには、もう少し掛かるのか」

「まぁここさえクリアすれば、次は上級だ。さっさと下りてしまおう」


 タピオは階段に向かおうとするが、イロナが止める。


「そこに落ちている魔石と剣は拾わないのか?」

「あいつらは苦戦していたとはいえ、いちおう横取りみたいなものだからな。置いていってやろう」

「人族には面倒なルールがあるのだな」

「これは俺のルールだ。相手するのが面倒なだけだよ」


 これもタピオの処世術。不可抗力で横取りをしても、アイテムを置いて行けばからまれることが少ないので、無言で立ち去るようにしている。

 しかしイロナは、徹底的に人との接触を避けるタピオにやれやれといった表情で腕を組んでいた。



 オークジェネラルが倒れたことによって、オークの群れは統率が乱れ、タピオたちが半分近くも倒したこともあり、若手パーティも大詰め。

 タピオたちが階段に向かった頃には残りのオークは三匹ほどになっており、なんとか生き残ることができたのであった。



 タピオたちは地下20階に到達すると、景色が変わる。このフロアは丸々全部セーフティエリア。ダンジョン内だというのに明るく、緑や泉なんかもある。

 辺りを見渡すと一組のパーティがテントを張って休んでいる姿があったので、タピオはできるだけ距離を取って目立たない場所に陣取った。

 そこで昨日買ったテントを出し、動かないように固定したら料理の準備。カセットコンロのような物と鍋を取り出して料理するようだ。


 タピオは今日ドロップしたオーク肉を雑に切ると、火にかけていた鍋にぶちこむ。少し焼き目がついたら雑に切った干し肉もぶちこみ、水を注いでしばらく蓋をする。

 煮立ったら固形スープの元を入れてかき混ぜ、堅いパンも雑にちぎってぶちこんだ。


 ザッツ、男メシ。タピオは食にさほどこだわりが無いので、すぐに作れるこのメニューしか作れないのだ。


「味はボチボチだけど量だけはあるから、好きなだけ食ってくれ」


 器に取り分けてイロナに渡すと、タピオはイロナの食べる姿を見続ける。しかしイロナには、お昼に食べたメニューがふやけただけにしか見えないので、それほど美味しそうに思っていない。


「どうだ?」


 イロナがスプーンでスープをすすると、タピオは嬉しそうに質問する。


「う~ん……昼メシの倍ってところだな」

「それは……うまいのか??」

「点数でいったら20点……百点満点でだ!!」

「失礼しました……」


 たまにはイロナも気を使うらしく、ボカして言ったのにタピオがしつこく聞くので怒ってしまった。ただ、食べる物はこれしかないので、腹に掻き込むイロナ。

 昼メシよりは不味くはないし、これだけの量があれば満足感はあるようで、何度もおかわりをしていたから「本当は美味しいのでは?」と、タピオは勘違いしていた。



 そうして二人でがっついていたら、とある冒険者パーティが近付いて来た。


「さっき、俺たちの獲物に手を出したのはお前たちだよな?」


 タピオとイロナが助けた若手パーティだ。リーダーである剣士の少年シモが声を掛けた。


「知らん。人違いだ」


 タピオはからまれることを恐れて、目も合わせずにとぼける作戦に出た。


「素手で戦う男と女だけのパーティなんて、お前たち以外いないだろ!!」


 当然、その作戦は失敗。ただでさえ場違いな二人なのに、覚えられていないと思うほうがおかしい。そのせいでシモを怒らせてしまっている。


「リーダー。違うでしょ? お礼を言いに来たんでしょ??」

「あ、ああ」


 シモがキレると、僧侶の少女アイリが止めに入り、いまだに若手パーティを見ないタピオに深々と頭を下げる。


「先程は、助けていただき有り難う御座いました。こちらは、あなた方が倒したオークのドロップアイテムです。どうか受け取ってください」


 アイリは布袋に入れたドロップアイテムをタピオの近くに置くが、タピオはいまだに目を合わせない。


「知らないと言っているだろ。俺たちにかまわないでくれ」

「でも……」

「そんなに感謝したいなら、何か作ってくれないか?」


 タピオは突き放すが、イロナは割って入る。


「イロナ!」

「主殿もそんなに気を張ることもなかろう。そっちの男は礼儀を欠くが、女はまともだ」

「女のほうが厄介だ」

「それは、我に対して言っているのか?」

「ち、ちがっ……もういい。好きにしてくれ」


 イロナに睨まれては、タピオも折れるしかない。何せ、この場を凍らせるほど、イロナが殺気を放って怖いから……

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