039 別れ
「見付けたぞ!」
冒険者ギルドに入って来た男は大声を出しながら、ミッラと長話をしていたタピオを指差す。
「トウコってのは、あいつのことだろ?」
「はい。面識あったのですね」
「ちょっとな」
親指でトウコを指差してミッラから確認を取ったタピオは、腕を組んでいるイロナと共にトウコに近付く。
「賭けは俺の勝ちだろ?」
賭けの商品は特にないのだが、タピオの条件に「今後一切タピオたちに関わらない」があるので、これだけは確認しなくてはならない。
「そうです。完敗です……ですが、僕は諦めません!」
「諦めないって……約束を
タピオがイロナに話を振ると、睨みながら頷いていた。
「い、いや、約束を破るわけじゃなくてですね。もう一回勝負できないかとお願いしに来たのです」
「勝負する必要はないんだがな~」
「そこをなんとか!!」
結局はトウコがうざがらみしてくるので、ギルドから早く出るにはタピオが折れるしかない。
「上級ダンジョンのタイムトライアルでどうだ? 俺たちのタイムを超せなかったら、もう近付いてくるなよ」
タピオの案に、トウコは不敵に笑う。
「フフフッ……最短記録二位は僕たちだと知らないのですか。わかりました! この勝負、受けて立ちますよ!!」
こうしてハーレムパーティのトウコは、高笑いして去ってて行くのであった。
「おい、主殿……あいつは馬鹿なのか? 完敗したルールなのに嬉しそうに帰って行ったぞ。また賞品も決めて行かないし……」
「馬鹿なんだろ。扱いやすくて助かるよ」
イロナとタピオは呆れながらギルドを出て行くのであったとさ。
それから二日後、タピオたちは上級ダンジョンに挑み、クリアに要した時間は前回よりさらに一時間早いクリアとなった。
この記録はハーレムパーティの出した一週間を倍以上更新したので、衛兵から違法が無いかと疑われることとなった。だが、タピオの持ち帰った数々のアイテムを見ては信用せざるを得ない。
ダンジョンボスの魔石だけでは別のダンジョンから持ち込んだと疑われただろうが、S級の剣が偶然出たことで、なんとか信用してもらえたのだ。
冒険者ギルドに書類を提出しても、対応は一緒。今回手に入れたアイテムを広げて見せ、売る予定ではないS級の剣も見せて、ミッラを宥めていた。
「嘘はなさそうですね……」
「当たり前だろ。驚き過ぎだ」
「だって、勇者パーティが出した記録より早いんですもん」
「勇者? この国にも勇者はいるのか??」
「どの国でも一人はなれるのですから、そりゃいますよ。教会が認めた騎士様や貴族様、実力のある冒険者が転職できる職業ですからね」
「意外と簡単になれるんだな」
「簡単ではありません! 勇者の職業は一度決まると、その人が死ぬまで他の人が転職できないんですからね! 慎重に慎重を重ねるので、勇者を決めるまでには物凄く時間が掛かるらしいのです!!」
タピオも勇者システムはある程度知っていたのだが、なれるかなれないかわからない職業にはあまり興味がなかったようで、圧の強いミッラにたじたじ。
しかし、勇者が死んだら次の勇者が現れると聞いて、いまごろ母国でも勇者が選ばれて魔王と戦っているのではないかと、少し気分が晴れていた。
「それより通行証と買い取りを早くしてくれよ~」
「勇者様をそれよりって……」
「頼むって~」
ミッラはお金だけでなく肩書きにも弱いらしいので、査定の間、勇者物語を聞かされたタピオ。ただ、勇者に対して恨みしかないタピオは、ほとんど聞き流していた。
ただし、イロナは勇者の所在地を聞き、王都にいると知ってミッラを震えさせていた。イロナは笑顔なのだが、その笑顔は殺人鬼のそれと大差なかったので怖かったみたいだ。
それから通行証とお金を受け取ったタピオは、ミッラに「これからも頑張ってください」と言われていたが、適当に返事して冒険者ギルドを出る。
その足でヨーセッピ老人の店に行き、前回手に入れたダンジョンボスの魔石を売り捌く。
「また同じ値段なのか?」
「はい。何個あっても足りないようでして……」
「なんに使うかわからないけど、それならもう一個もギルドで売るんじゃなかったな」
「え……この短期間に、上級ダンジョンを三回もクリアしたのですか!?」
ヨーセッピがあまりに驚くので、タピオは内密にするようにお願いしていた。
「それと、世話になったから、いちおう別れの挨拶をしておくよ」
「どこか違う町に行くのですか??」
「まぁな~」
「そうですか。ようやく借りを返せると思っていたのに、もう行ってしまうのですか……」
タピオが移住先を濁すと、ヨーセッピは深くは聞かずに悲しそうな顔をする。
「十分よくしてもらったよ。ありがとな」
タピオが右手を出すと、ヨーセッピは両手で掴んで握手を返す。タピオが少しだけ心を開いてくれたので、ヨーセッピも笑顔で別れるのであった。
そして翌日は奴隷館に顔を出し、支払いの相談。偽名で契約していることもあり、いつまでこの名前を使うかわからないので、残りを一括で払っていた。
まさか革の胸当てを付けているみすぼらしいオッサンから、金貨千枚近くもの大金が出て来るとは思っておらず、テーム館長だけでなくイロナも驚いていた。
これでイロナは完全にタピオの物。テームは驚きながらも、嬉しそうにサインをしていた。
その翌日、タピオは一ヶ月ほど滞在したハミナの町をイロナと共に出た。
「主殿は、本当は金持ちだったのだな」
「まだ言ってるのか? 無理したんだから、これから倹約していくぞ。馬車も無しだ」
「うむ。それでこれから王都に向かうと言っていたが、どうして逆から出たのだ?」
「俺は逃亡者だから、念のためだよ。それじゃあ行こうか」
こうしてタピオは腕を組むイロナと共に、カーボエルテ王国の王都に向かって歩き出したのであった。
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