03 移動
040 街道
ハミナの町を出たタピオとイロナは元気よく歩く。あまりに元気すぎて、道行く人は二人の速さに驚いていた。しかし、二人にとってはたいした速度ではない。
タピオはけっこう飛ばしているが、三日三晩動いても疲れないスキル【重労働】があるから疲れないし、イロナはタピオよりレベルが倍近くもあるから、この程度の速度はゆっくり動いているのと変わらない。
一般人からしたらトンでもない速度で、先を行っていた乗り合い馬車も追い抜く。その速度でも、イロナとタピオは腕を組んだままぺちゃくちゃ喋っていた。
「やはり、歩きにして正解だったな」
「そうか? 女性は馬車に乗せるのが普通だと思っていたんだけど」
「あんなに遅い乗り物では、王都まで何日かかるか……早くダンジョンに潜りたいから、走りたいぐらいだ」
「イロナが本気で走ったら絶対に追い付けないからやめてくれ」
イロナの逸る気持ちを宥めつつ、王都への道を歩き、昼になると街道の
「あ、そうだ。これからの俺たちの関係だけど、夫婦ってことにしないか?」
「主殿……それは、プロポーズとかいうヤツか?」
「ち、ちがっ! 性奴隷とか言うとからまれただろ? 面倒事は避けたいんだ」
「そういうことか……ならば、合わせてやろう」
「なんで頬を膨らませているんだ? ぐきゃっ!?」
女心のわからないタピオは、イロナの張り手を背中に受けて大ダメージ。地面に転がって、しばらくのたうち回っていた。
ただし、イロナは何故そんなことをしたのかわかっていない。なので、タピオが聞いても答えられないのであった。
食事を終えて再び歩き出し、道行く人に驚かれながら進むと日が暮れて来た。ハミナの町で買った地図を広げて町や村を探すが、予定していたより遥かに進んでいたらしく、野営するしかなかった。
街道から外れ、目立たない場所でテントの準備をしたら、焚き火の前で夕食を取る。簡易スープとパンであったが、保存食としてはそれほど日にちが持たない物なので、味は申し分なかったようだ。
それから寝る準備に取り掛かるのだが、イロナだけテントに入り、タピオは焚き火の前から動かないので、イロナは質問する。
「今日はヤラないのか?」
イロナのキラーワードにタピオのタピオは反応するが、「今日どころか出会ってからまともにヤレた試しがない」と言いたいタピオ。グッと我慢してテントに入らない理由を説明する。
「夜の街道は危険だからな。見張りが必要なんだ。てか、イロナだって旅をしたことはあるだろ?」
「あるけど特に何も起こらなかったな。せいぜい盗賊が襲い掛かって来たぐらいだ」
「いや、十分危険な目にあってるだろ」
「半殺しにしたから、まったく危険ではなかったぞ」
イロナのレベルでは、例え寝ていたとしてても盗賊の攻撃ぐらいでは怪我などしないのだろう。ましては女ならば、
「モ、モンスターが出るかもしれないし……」
「地上に出るモンスターなんて、たいした驚異ではないだろうが……主殿は我とヤリたくないのか?」
違う危険をタピオが指摘するが、イロナには通じないようだ。逆に睨まれてブルッとするタピオ。
「ヤリたいです!」
なので、タピオの答えはこれしか言えない。しかし、こんな場所でHPを減らされたくないタピオは、添い寝だけで勘弁してくれと訴えるのであった。
翌朝……
危惧していた敵襲は何もなく、朝まで爆睡した二人。目覚めたら食事に準備。早々に野営を撤収して歩き出した。
すれ違う人、追い抜く人や馬車。それらに二人は変な目で見られていたが、気にせず歩き続け、夕方ごろ野営の場所を探していたら、大人数の人の前で止まっている馬車に追い付いた。
「ひゃっは~! 上玉の女が向こうからやって来たぞ!!」
馬車が止まっていた理由は、30人を超える盗賊団に襲われていたため。すでに護衛の冒険者は白旗を上げて、武器を投げ捨てていた。
タピオたちは、たんに野営をするために人が出ていたと思っていたらしく、無防備に近付いていた。いや、盗賊であっても自分たちだけなら生き残る自信があったので、気にせず進んだようだ。
「おうおうおう、オッサン。いい女連れてるじゃねぇか。有り金全部と一緒に置いて行けば、オッサンの命ぐらい助けてやるぞ。ぎゃははは」
タピオたちの前に立ちはだかったガラの悪い大男は、イロナの美貌に惹かれて盗賊とはあるまじき破格の条件を出したが、タピオは面倒くさそうに返す。
「俺たちに関わるな。俺の女房に指一本触れるな。俺は助けられないぞ」
「はあ? 誰が助けを求めたんだよ。助けてと言うのは、お前のほう……ぎゃふん!」
大男が話し終わる前にイロナの鉄拳が顔面に突き刺さり、ブッ飛んで行った。
「主殿! これは盗賊だから
「もう殺ってるだろ。はぁ……」
事後報告で面倒事に飛び込むイロナを見て、タピオはため息しか出ないのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます