102 特級ダンジョン5
「勇者! 俺から離れろ!!」
「うん!!」
ヤルモは後ろを見もしないで指示を出すと、クリスタは大きく跳んで距離を取る。
その直後、テッポから放たれた【ファイアーストーム】にヤルモは包まれた。
「フッ……平民のくせに、勇者様や侯爵家の俺様に命令するから悪いんだ」
「テッポォォ~~~!!」
「がはっ……」
炎に包まれるヤルモをテッポが笑って見ていたら、凄い速さで走って来たクリスタに顔を殴られて吹っ飛んだ。
「なっ……なんで勇者様が俺を……勇者様のためにやったのに……」
「何が私のためよ! 私がいつ頼んだの!!」
「あんなオッサンに命令されたら、勇者様のプライドが傷付くはずです……」
「はあ!? そんな安いプライド、国民のことを思ったら必要ないわ! あなたは何のためにここにいるのよ!?」
「俺は……勇者様のために……」
クリスタの剣幕に押されてテッポの声が小さくなっていくなか、オルガやリュリュも心配して集まって来た。
そうして誰もテッポの味方をしないままクリスタが叱責していると、後ろから声を掛けられる。
「お~い。なに俺一人に戦わせているんだよ」
「「え?」」
「「へ?」」
ヤルモだ。皆が戦闘を離れてしまったので、本気を出してモンスターの群れを一掃し、急いで戻って来たのだ。
暗殺事件の被害者であるはずのヤルモの
「ヤルモさん……体は??」
「あんなしょぼい攻撃、効くわけないだろ」
「あ……そうだった!」
「それより早くアイテムを拾え。イロナに蹴飛ばされるのは俺なんだからな」
当の被害者が意に介さず指示を出すので、クリスタたちは言うことを聞いてドロップアイテムを広い集めるのであった。
それから先を進み、小ボスをイロナが一刀両断した先のセーフティエリアの小部屋にて、休息を取ることにしたヤルモ。
イロナ以外の全員を集めてヤルモは話をする。
「ま、テッポはここまでだ。パーティメンバーに攻撃したんだから異論はないよな?」
「あるに決まってるだろ! 俺様は侯爵家の人間だぞ!!」
「じゃあ、多数決。テッポが邪魔な人~?」
「うっ……」
最後にリュリュがそろりと手を上げると、4対1でテッポのパーティ脱退が決まるのであった。
「くっ……くそ! 父上に報告するからな!!」
捨て台詞を残して転送魔法陣からテッポが消えると、ヤルモは今度はクリスタたちの説教。
「お前らな~。裏切りぐらいで戦闘を止めてどうするんだ。逃げるならまだしも、その場で喧嘩なんかしてたら全滅だぞ」
「え? あ……もしかして、私たちに見せるためにわざと攻撃を喰らったの??」
「そうだ。冒険者なんて、どんなに信じ合っていても裏切る奴がたまにいる。ましては、勇者の元へは利用しようとする者や、最悪、暗殺を
「言ってる意味はわかるけど……」
クリスタは心配しすぎだと思ったが、その言葉は飲み込んだ。
「そんな時、どう生き残るかは考えておけ。生きて帰っての冒険者だ」
「……うん。わかった」
ヤルモの説教が終わったら、夕食の開始。この小部屋は狭いので、携帯食で済ますようだ。
その席で、クリスタは溜め息まじりにイロナを見る。
「はぁ……テッポ君がイロナさんに殺されなくてよかったよ~」
どうやらクリスタは、イロナがテッポを斬り捨てる前に自分から
「10階の小ボス手前で攻撃して来るからと主殿から聞かされていたからな。本当に来たと感心して見ていたのだ」
「そうなの!?」
「理想は一階だったんだけどな~。意外と根気強くて参ったよ」
「まさか……わざと煽っていたんじゃ……」
「だって、これぐらいのことがないと帰してくれないだろ?」
そう。ヤルモは最初から、テッポが気に食わないから追い出したかった。なのでわざと失礼なことを言っていたのだが、その都度クリスタが宥めるので、地下10階まで掛かってしまったのだ。
「はぁ~。嵌められたわけだ……」
「リュリュのほうが魔法使いとして有能なんだから、一人に絞るのは早いほうがいい」
「え? もう審査終わったの??」
「そんなもん、1階で終わっていた。ちなみに索敵は勇者たちより、リュリュのほうが上だからな」
「わざわざ言わなくていいでしょ~」
また貶されてクリスタは肩を落とすのであった。
「とりあえず、ここで一泊だ。リュリュ。こっち来い」
「あ、はい」
女性陣が体を拭くので、小部屋の隅に移動するヤルモとリュリュ。二人ともマントを被って見ていないアピールをしている。
そこで無言で待っていた二人だが、沈黙に耐えかねたリュリュが口を開いた。
「どうして部屋から出ないのですか?」
「この部屋は後戻りできないし、外に出たら戻ることもできないんだ。だから一泊しちゃいけない決まりがあるんだ。ま、冒険者は明日から入るらしいし、今回だけは許してもらおう」
「あっ! 冒険者ギルドで聞いた事があります。後続の迷惑になるからって……」
「よく勉強しているな。勇者と大違いだ」
「いえ、そんな、常識の範囲内ですよ」
「私はその常識がないんだ……」
二人が喋っていたら、体を拭き終えて呼びに来たクリスタに聞かれていたようだ。その声に、リュリュは焦って言い訳。
「違います違います! 違うんですぅぅ~」
「何が違うのかな~? 体を拭いてあげるから、お姉さんに教えてくれるかな~??」
「や、やめてください……ヤルモさん、助けて~」
服を脱がされそうになったリュリュが助けを求めると、ヤルモは……
「ぎゃああぁぁ~~~!!」
本日のイロナのお仕事。もうすでに服を剥ぎ取られ、背中を拭かれて悲鳴をあげていた。
なので、プルプル震えているリュリュは涙目で訴える。
「あんな酷い拷問をするんですか?」
「ないない。アレはない」
やはりリュリュにもイロナの奉仕は拷問に見えるらしく、クリスタもその拷問を見たせいでやる気が萎えるのであったとさ。
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