101 特級ダンジョン4


 無駄口を叩いて進んでいたら、ヤルモがストップを掛けてイロナと相談。通路の角からモンスターをチラッと確認したイロナは、ヤルモに押し付ける。


「もっと大きい犬なら撫でがいがあるんだがな~……ちっさい犬ころは主殿たちでやれ」

「わかった。勇者、こっちこい」


 クリスタを呼んだヤルモは、通路からモンスターをチラッと見させて話し合う。


「ちっさい犬ころって……私たちが苦戦したバトルウルフなんだけど……」

「そんなことはどうでもいい。いまの一瞬で何匹いたか数えたか?」

「え? 数えてないけど……10匹ぐらい?」

「イロナ。答えてくれ」

「16だ。見えない場所があったから、プラスアルファ2から5ってところだ。勇者はこんなこともわからんのか」

「俺もイロナと同意見だからな?」


 クリスタと同時に睨まれたヤルモは、怖くなってすぐに話を戻す。


「長時間見ると相手にバレやすくなるから、短時間で種類と数を把握できるようになれ」

「うん」

「数が確認できたら、次は作戦だ。俺のやり方だと、大まかな作戦を決めて、戦闘中に微調整って感じだな。綿密に決める奴もいるけど、そこは仲間次第かな? 勇者のようにいきなり戦闘を始める奴は、まず死ぬ」

「うっ……反省してます」

「ならいい。それじゃあ、作戦を言い渡すぞ」


 ヤルモが作戦を告げると、戦闘開始。息を合わせて通路から全員飛び出したら、リュリュとテッポが広範囲魔法。多くのバトルウルフを巻き込んで決まったが、たいしてダメージになっていなかった。

 しかしそれで足止めになったので、ヤルモとクリスタは同時に突撃。クリスタには普通に戦うように指示を出したヤルモは、リュリュとテッポに自分が弾き返したバトルウルフを狙わせる。

 その結果、ほとんどヤルモとクリスタの活躍で、バトルウルフの群れは撃沈するのであった。


「ヤルモさんの指示のおかげですぐに終わりましたね。それに、かなり魔力を節約できました」

「うぅぅ……聖女様まで厳しい~」


 オルガの心ない言葉に、クリスタはまた自信を無くすのであったとさ。



 イロナ以外の全員でドロップアイテムを拾うと、クリスタを先頭に前進。先ほど進み方は教えたので、一度やらせてみるようだ。

 クリスタは少しキョロキョロし過ぎだが、ヤルモが教えた通りに行動し、通路を越えた所でオークジェネラルを発見した。クリスタは二度ほど見て何匹いるか報告するが、及第点。

 ヤルモはチラッと見て数を確認したら、イロナを解き放った。


「え……勇者様は15匹、ヤルモさんは20匹以上とか言ってませんでしたか?」


 イロナが突撃すると、リュリュが心配するような声を出す。


「何度も言うけど、イロナより強い奴はいないから大丈夫だ。いちいち心配するな。それより、さっきの反省会だ」


 ヤルモはそう言うと、この時間を使って先程の戦闘の反省点を説明する。ついでにクリスタの移動や本来ならばの攻略法も説明していたら、イロナが戻って来た。


「ヤルモさんの手助けが必要になったんですね!」

「いや、もう終わった。喋ってないで先を急ぐぞ」

「え?」

「「「は~い」」」


 リュリュの心配を他所に、ヤルモとクリスタとオルガはいい返事。事実、角を曲がった先には、大量のオークジェネラルがダンジョンに吸い込まれていたのであった。



 リュリュがキャピキャピイロナを褒め称えて進んでいると、ヤルモは罠がありそうな場所を発見。簡単な見分け方と解除の方法を説明したら、自ら掛かって皆を引かせていた。


「それって……落ちないとダメなの?」


 落とし穴から這い上がるヤルモに、クリスタからの質問。


「どっかに解除ボタンがあるんだけど、俺じゃあわからないんだ。ま、落ちたおかげで、橋みたいのが出て来ただろ?」

「そうだけど……」

「あ、勇者じゃ無理だな。シーフかレンジャー辺りをパーティに入れたほうがいいかも? そしたら索敵もできるし、勇者は戦闘に集中できるだろ」

「本当だ! 次までに探しておくわ!!」


 適材適所。苦手なことをやるより、新規メンバーを入れたほうが楽になると知ってクリスタは興奮する。

 しかし、すぐには見付からない可能性もあるので、イロナが戦っている間にダンジョン講座を開き、戦闘になったらヤルモ主体でクリアする。

 イロナの戦闘も見せてモンスターの特徴なんかも説明していたが、全て一刀両断で倒すので、ヤルモは何度も「めっちゃ強いから弱いと思うな」と付け加えていた。


 そんなこんなで地下10階の小ボス部屋手前まで進み、ヤルモ班の戦闘の時に事件が起きる。


「【ファイアーアロー】!」

「ヤルモさんに当たっちゃう!? 避けて~~~!!」


 テッポが放った攻撃魔法がヤルモに向かったのだ。リュリュが慌てて声を掛けたがヤルモは間に合わず、背中に当たってしまった。


「へ? あれ??」


 しかし【ファイアーアロー】はヤルモの鎧を貫けず、「カンッ」て音を出して弾かれたので、リュリュはとぼけた声を出した。


「俺はいいから全員戦闘に集中しろ!!」


 そこにヤルモは振り向きもせずに指示を出すのだが、テッポはそれが気に食わない。


「チッ……あのオッサン、思ったよりいい鎧を装備してやがる。こうなったら……」

「テッポ君! 何を言ってるの!!」

「【ファイアーストーム】だ~~~!」


 不穏な事を口走るテッポをオルガが止めるが、時すでに遅し。ヤルモにテッポの最大魔法が襲い掛かるのであった。

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