100 特級ダンジョン3


「ふざけるな!」


 ヤルモに正論を叩き付けられたクリスタが泣き出すと、テッポがいきどおる。


「何が勇者様が最下位だ。ただのオッサンが勇者様や侯爵家の俺様を評価できるわけがない! 発言を取り消せ!!」

「なんで教師を任されている俺が評価しちゃダメなんだ?」

「平民だからだ! 勇者様はこの国の王女様でもあらせられるのだぞ。それに俺様は侯爵家だ!!」

「お前な~……」


 ヤルモが苛立った顔を見せると、クリスタが二人の間に割り込む。


「ゴメンなさい。私が全て悪いの……」

「勇者様!?」

「テッポ君は黙って」

「で、でも!」

「これは命令……」

「はい……」


 テッポを睨み付けたクリスタはヤルモに目を戻す。


「それで……私はどうしたらいい?」

「切り替えが早くて助かる。そこはプラス材料だな」

「茶化さないで」


 ヤルモは真面目に採点したのだが、クリスタには不真面目に見えたようだ。


「実はこの班分けは、勇者がどうやってダンジョンを進むかを見ていたんだ」

「……どういうこと?」

「わざと俺は助言しなかった。人数も減らして指示しやすくした。その結果、勇者はダンジョン攻略のド素人ってのがわかったわけだ」

「うっ……それはわかりきっていたことでしょ~」

「まぁな。でも、実際に見ないことにはわからないこともあるってもんだ。教えるにも、実力がわからないと教えられないだろ?」

「そうだけど……」


 クリスタが反論の言葉を探していると、ヤルモはニカッと笑う。


「ここからは、一から教えてやる。ただ、俺は教え方がわからないから、目で見て覚えろ。気になった点は質問しろ。わかったな?」

「はい!」

「お前たちもだからな?」

「「はい!」」

「チッ……」


 クリスタに続き、残りの三人にも確認を取ったら、オルガとリュリュはいい返事。テッポは舌打ちしていたが、ヤルモは無視してコソコソと付け足す。


「あと、イロナがお怒りだ。不甲斐ないところを見せると酷い目にあうから気を付けろ」

「「はいぃぃ~~~!!」」

「「??」」


 イロナが怒っていると聞いて、クリスタとオルガは悲鳴のような返事。リュリュとテッポはその声の意味がわからなかったが、その先の部屋で少しはわかることとなった。


「え……これをイロナさん一人で?」


 大量のオーガジェネラルがダンジョンに吸い込まれる姿を見て、リュリュはヤルモに尋ねた。


「そうだ。とりあえず、ドロップアイテムを回収してくれ」


 クリスタたちが動き出すと、ヤルモはイロナに近付く。


「遅い!!」

「すまん。ちょっと話し込んでしまった」

「ただでさえ足が遅いんだ。喋っている暇はないぞ」

「ああ。こっからスピードを上げる。イロナは……」


 ドロップアイテムが回収できたら超片寄った班分け。イロナ以外は全てヤルモ班となって、リュリュが大丈夫かと質問していたが……


「これでもイロナに勝てない」

「「うんうん」」


 ヤルモの台詞にクリスタとオルガがめっちゃ同調するので、信用するしかなかった。



「じゃ、行こうか」


 イロナと腕を組んだヤルモを先頭に出発。最後尾にはクリスタを置いて、全体を見るように歩かせる。

 ヤルモは道が分かれている場合は足を止めて、慎重に辺りを見回してから先を進んでいるので、いつもより進行速度が遅くなっている。しかし、それがイロナには気に食わないようで、ヤルモの腕が締め付けられる。


「こないだまで、そんなに慎重に動いてなかっただろう?」

「まぁここ最近は、ここまで慎重じゃなかったな。でも、昔はこうやって進んでたから、それを勇者たちに見せているんだ」

「そういえば……我も同じようにやっていた時期があった。懐かしいな」

「ホントに……角を覗き見た瞬間、同じことやっている奴がいて、お互いめちゃくちゃ驚いたこともあったぞ」


 なんだか駆け出し時代の話で盛り上がる二人。ヤルモはできるだけ面白い失敗談を出して、イロナの機嫌を取っているだけだが……


 そんな二人を見て、リュリュはオルガに質問していた。


「あの二人、慎重に進んでいるように見えますけど、緊張感がないですね」

「二人は慣れていますからね。本当はあんな進み方しなくても、モンスターや罠のある場所なんて気付いているはずです」

「そうなのですか?」

「前回一緒に潜った時なんて、知ってる道かってぐらい無防備に歩いていましたよ」

「ほへ~。あ、だから勇者様も、あんなに無防備に歩いていたんですね!」

「私って、そんなに無防備だったの!?」


 突然、後ろからクリスタの声が聞こえて、リュリュは焦って言い訳する。


「違います違います! その……違いますからね!!」

「リュリュ君までひど~い」

「違うんです~~~」


 いや、まったく言い訳が思い付かず同じ言葉を連呼して、クリスタの心にダメージを入れるリュリュであったとさ。

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