103 特級ダンジョン6
「ふぅ~。今日もいい仕事をした」
ヤルモの体を力いっぱい拭いたイロナは、やりきった顔。逆にヤルモはげっそりした顔。ついでにリュリュは青い顔で見ている。
「なんだちっこいの。お前もやってほしいのか?」
「ヒィ~!」
どこをどう見たらやってほしく見えるのかわからないイロナの質問で、リュリュは勇者に抱きついて震えている。
「ヤルモさん以外にやったら確実に死ぬよ?」
「勇者なら耐えられそうなんだがな~」
「私も死にます!!」
イロナにロックオンされた勇者は、リュリュを抱えたまま逃げるのであった。
ちなみにリュリュは、勇者とオルガに体を拭かれて恥ずかしい思いをするのであったとさ。
もう時刻は遅いこともあり、寝袋に潜ったら就寝。ヤルモはイロナと一緒に二人用の寝袋に入っていたので、下腹部にダメージを負ってから眠っていた。
そして翌朝、携帯食を食べたらしっかりとパーティを組んで出発した。今回はイロナもパーティ戦に参加していたのだが、そのせいで戦闘はあっと言う間に終わる。
これではクリスタたちのレベル上げがままならないので、ヤルモは「早く撃て」だとか「逃げろ」だとか叫んでいた。
ちなみに「逃げろ」と言っていた理由は、クリスタがイロナの戦闘区域に入って斬られそうになったから。イロナからしたら冗談のつもりだろうが、冗談でもクリスタの首が飛びそうなので致し方ない。
イロナが調子に乗って来たせいで、ダンジョン攻略はスピードアップ。どうも早く戦いた過ぎて、ヤルモのダンジョン攻略講座で時間を取られるのを嫌い、最短距離を歩けと命令されてしまったようだ。
その甲斐あって、地下20階のセーフティエリアは昼前に到着。ヤルモはここで一泊といきたかったが早く着き過ぎた。イロナを見ると剣を抜いていたので、早くメシを食えと言って地下40階を目指す。
そうこうしていたら地下28階でリュリュのMPが尽き、オルガ、クリスタと順番に、地下33階まででMPはすっからかんになってしまった。
「MPポーション飲んどけ。あとは俺たちに任せろ」
「はい~」
勇者もへたり気味なので、モンスターとの戦闘はヤルモとイロナの二人で終わらせると、通路で小休憩。そこで、今後の方針を話し合う。
「MP無しじゃ厳しいから、リュリュと聖女は階段手前だけ参加しよう。それぐらいなら、MPポーションの節約になるだろう」
「私は?」
「勇者は……」
「戦え!」
「だって」
「アハハハ」
クリスタも疲れているように見えたのでヤルモはそれもアリかと考えたが、イロナが怒鳴るものだから、クリスタは空笑い。
「前に使った手で行こう。タイミングよく出ろよ」
「ヤルモさ~~~ん!」
「ちょっ……くっつくな」
ここに来てヤルモがようやく優しくなったので、抱きつくクリスタであった。
「ほう……我の主にちょっかい掛けるとは、元気が有り余っているようだな」
「あ……」
せっかくクリスタが楽ができる案が通ったのに、ヤルモをたぶらかしたからにはイロナブートキャンプのレベルはアップ。モンスターの群れに投げ込まれるクリスタであったとさ。
「そろそろ助けてあげたほうがいいんじゃないかな~?」
30匹のオーガジェネラルの群れに放り込まれたクリスタはタコ殴り。あまりにかわいそうに見えたヤルモが温いことを言うと、イロナの目がキラーンと光った。
「そういえば、主殿は勇者に抱きつかれて顔を崩していたな……」
「そんなことないッス! イロナ一筋ッス!! だから蹴らないで。痛いし……」
どうやらイロナは嫉妬して、クリスタとヤルモに当たっていたようだ。本人はまだこの苛立ちが嫉妬とは気付いていないようだが、遊んでいる場合ではない。
刻一刻と勇者のHPが減っていっている。
「てか、勇者一人にやらしていたら、時間がもったいないみたいな? 早くセーフティエリアに行ってイロナに癒してもらいたい的な?」
「ふむ。それもそうか……今日は6回ヤルぞ!」
「それ、俺がギリ生きてるヤツ~~~!!」
クリスタを救おうと夜の仕事を催促してみたヤルモは、イロナが生き生きしながらオーガジェネラルの群れに突っ込むので、叫びながら追いかけるのであった。
* * * * * * * * *
一方、リュリュとオルガは……
「あの数を一人で耐えた勇者様も凄いですけど、それをボロ雑巾みたいに吹き飛ばす二人はもっと凄いですね……」
リュリュは口をあんぐり開けて見ていた。
「リュリュ君は、誰が魔王を倒したかわかります?」
「え? 勇者様が倒したんじゃ……でも……」
オルガの問いにリュリュは嘘の情報だったと気付いたようだ。
「そうです。私たちだけじゃ辿り着けなかったのです。それも、37階で力尽きていました」
「じゃあ、ヤルモさんが倒したのですか?」
「二人で戦っていましたけど、ほとんどイロナさんです。魔王も一人で倒せるほど強いのです」
「魔王を一人で……」
「ヤルモさんたちは目立ちたくないみたいですから秘密ですよ」
「は、はい……」
オルガは胸を寄せながら人差し指を口に持って行き「シーー」っとしながらウインクすると、リュリュは頬を赤らめるのであった。
* * * * * * * * *
イロナとヤルモの活躍で戦闘が終わると、クリスタは虫の息。大の字に倒れているところに、オルガが駆け寄り必死に治療していた。
ヤルモとリュリュだけでドロップアイテムを拾うと、イロナに急かされて先を進む。
今回はイロナは夜の奉仕で燃えていたので、クリスタの出番は無し。当初予定していたオルガとリュリュ用のモンスターも横取りされて、早くも地下40階のセーフティエリアに辿り着くのであった。
オルガたちが夕食を準備している間に、ヤルモはテントの設営。自分たち用はクリスタたちからかなり遠くに設営してから、リュリュの手伝いをしていた。
そうしてオルガの美味しい手料理をいただくと、ヤルモ待望のイロナによる夜のご奉仕。
「喰らえ~~~!!」
「ぎゃああぁぁ~!!」
いや、イロナによる夜のイジメで、ヤルモの悲鳴がセーフティエリアに木霊するのであったとさ。
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