184 ケミヤロビの町1


「イロナ。ちょっとストップだ」


 皇帝が滞在するというケミヤロビを夕方過ぎに視界に収めたヤルモは、イロナを止めて勇者パーティを待つ。するとそこまで離れていなかったので、すぐに息の荒い勇者パーティが集合した。


「はぁはぁ。もうゴールは見えてるだろ。このまま駆け抜けたほうが楽だ。はぁはぁ」


 賢者ヘンリクを背負ったオスカリは、こんな何もない所で休むよりはベッドに横になりたい模様。しかし、ヤルモはそんなことで止めたわけではない。


「暗いからよくわからないけど、あれって煙じゃないか??」

「ん? あ~。煙だな……ちょっと待て」


 オスカリはヘンリクを下ろすと、地面に耳をつけた。


「かなりの数の人間が動いているな……」

「てことは……いま、まさにってことか」

「嘘だろ~。こんな疲れた状態でやりあうのかよ~」

「ま、一旦全員座ろうぜ」


 全員が腰を下ろし、飲み物に口を付けるとヤルモから案を出す。


「俺たちは疲れてないから先に行く。だから、お前たちは30分後に行動に移せ」

「くそっ! こんな時に俺たちは……」

「悔しがっているところ悪いけど、どうせほとんどイロナに持って行かれるから活躍の場は少ないぞ。下手に近くにいるほうが危ないし……」

「あ……」


 オスカリ、納得。あれほどのバトルジャンキーなら、モンスターを横取りされ、さらには間違ったと言いながら斬り付けられる未来が見えたようだ。


「聖女だけ頼めるか?」

「ああ。無事に送り届ける。でも、ちょっとは残しておいてくれよ」

「規模による。あとは~……」

「だな」


 ヤルモがイロナを見たらうずうずしていたので、オスカリも言いたいことがわかったらしい。


「そんじゃあ行って来る」


 装備を整えたら、ヤルモは一声掛けてダッシュ。イロナに何度もスピードを落とすように言いながら、町の外周を走るのであった。



「あれだな」

「うむ」


 外壁に押し寄せて群がるモンスターを見付けたら、二人は一時停止。状況を確認する。


「壁に穴が開いてるな……」

「あの程度なら、中にあまり入ってないだろう」

「じゃあ、外から削るか。味方の弓や魔法だけは気を付けていこう」


 ヤルモを先頭に走ると、外壁から放たれる弓矢の射程外を左回りに爆走する二人。

 ヤルモは大盾を構えたままスピードを落とさず、モンスターを撥ねながら走り抜ける。

 イロナはヤルモの外側を遅れて走り、目に入ったモンスターを斬り裂きながら走り抜ける。


 モンスターの群れを分断すれば、ヤルモ達を標的にするモンスターも現れ、二人は乱戦に突入。

 ヤルモは剣と大盾で吹き飛ばし、イロナは近付くモンスターを小間切れにする。


「チッ……弱すぎる」


 モンスターの種類は、ゴブリンやオーク、ウルフやオーガが多く占め、ダンジョンレベルで言えば中級程度のモンスターしかいないので、イロナには物足りない。


「確かにな~……外壁に穴開けたヤツが一番強いのかも?」

「そいつはどこにいると思う?」

「中かな~??」

「ふむ。行ってみるか」

「後ろを頼む」


 モンスターを吹き飛ばしながら喋っていた二人は、作戦変更。ヤルモを先頭に走り、外壁から降って来る弓矢や魔法は大盾を頭の上に掲げて防御。モンスターは体で撥ね飛ばし、イロナは後方のモンスターを斬り刻む。

 そうして外壁の穴に近付くと、群がるモンスターは一気に吹き飛ばし、ヤルモは穴を塞ぐように立った。


「味方だ! このあと聖女が連れて来たユジュール王国の勇者が駆け付けるぞ!!」


 大声でそれだけ告げたヤルモがモンスターを吹き飛ばしていたら、一人の男が駆けて来た。


「助太刀感謝する! 聖女様はどちらに?」

「あと20分もしたら勇者が連れて来る手筈になっている。それより、中の状況はどうなってるんだ?」

「モンスターが百は入った。ザコはなんとか倒したが、一匹デカイのが残っていて苦戦している」

「じゃあ、イロナを貸してやる。案内してやってくれ」

「あの女か??」

「お前らじゃ束になっても敵わん。イロナ!!」


 ヤルモがモンスターを吹き飛ばしながらイロナを呼ぶと、モンスターを小間切れにしていたイロナはヤルモの後ろに来た。


「デカイのがいるらしい。そいつに連れて行ってもらえ」

「強いといいがな」

「ここのヤツよりはマシだろ」

「ま、行くだけ行ってみる。案内しろ」

「わかった!」


 ここでヤルモとイロナは別行動。ヤルモは外壁の穴に群がるモンスターを吹き飛ばし、一匹も後ろに通さない。

 そうしていると、アルタニア兵からも安心するような声が聞こえて来た。


「あの戦士、つえぇ……」

「聖女様が雇った勇者の連れらしいぞ」

「その聖女様と勇者はどこにいるんだ??」

「さあ? 外で戦ってるんじゃないか??」

「ま、楽が出来るからいっか」


 ヤルモが来たおかげで、一部のアルタニア兵は気が抜けてその場から動かなくなる。そんななか、イロナは案内役の後ろを走り、遅いとグチグチ言っている。


「チッ……またザコか。高々トロールじゃないか」

「アレがザコだと? 10メートル以上あるぞ??」


 外壁を破壊した犯人はトロールエンペラー。百人以上の帝国兵を相手に大暴れしているのに、イロナはザコ認定。


「すぐ終わらせる。お前は邪魔な奴らを離れさせろ」

「いや、一緒に戦ったほうがいいんじゃ……」

「巻き込んで殺してもいいなら好きにしろ」

「うっ……」


 イロナが脅しと共に殺気を放つと、案内役も恐怖に萎縮して言うことをきくしかない。それどころか、周りの兵士やトロールエンペラーもその殺気に当てられて、イロナに視線が集中した。


「退避! 退避だ~! この女が無茶するぞ!!」

「「「「「うわあぁぁ~~~!?」」」」」


 案内役が大声をあげた瞬間、アルタニア兵は逃げ出した。


「逃がすわけあるまい!!」


 トロールエンペラーまで逃げ出したので、イロナがこんなことを言ったがために、アルタニア兵はマジで逃げ惑うのであったとさ。

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