168 旅立ち3


「嘘だろ……元々俺は追い返される予定だったのかよ……」


 クリスタから聖女マルケッタの策略を聞いて、ヤルモはドン引き。その他もかなり引いている。


「あはは。女王を狙ってるなんて信じられないぐらい野心家よね~。でも、ヤルモさんを追い返したところで野望はついえたと。魔王にレジェンドアイテムが糞の役にも立たなかったんだって~。あはははは」

「糞の役って……王女のクセに汚い言葉だな」


 ヤルモがツッコンでもクリスタはケラケラ笑うだけ。仕方がないので違う話にヤルモは持って行く。


「てか、魔王ってどんなモンスターだったんだ?」

「カイザーヴァンパイアだって。聖属性の装備と強力な聖属性のアイテムが一切効かなかったらしいんだけど……よくよく考えたら、そんなことあるの??」

「俺も戦ったことがないからな~……その下のヴァンパイアエンペラーは四天王で倒したけど、斬っても斬っても復活してしんどかったな。イロナは何か知ってるか?」


 ヤルモは情報が薄いので、妖しく薄ら笑いをしているイロナに尋ねた。


「カイザーもエンペラー同様、斬り刻めば死ぬぞ。小間切れにしても煙となって復活するから何度も斬れて、これが楽しいんだ」


 イロナのうっとりした顔が気になるヤルモであったが、尋ねたい質問の内容が違ったので正確に質問する。


「弱点であるはずの聖属性が効かないなんてあるのか?」

「我が敵の弱点を攻めるとでも……」

「「ですよね~」」


 イロナのプライドを傷付けるような発言だったらしく、殺気を放たれてヤルモとクリスタはブルッと来たが、イロナは急に顔を崩した。


「冗談だ。我だって子供の頃は弱点を狙って倒していたからな」

「「は、はあ……」」


 子供の頃以外は弱点を突かないのかとやはり怖くなる二人であったが、イロナの話は続く。


「主殿は亜種というモノを知っているか?」

「あ~……何百、何千の確率で生まれるモンスターか。レベルの割には力が強くなったり魔法が強かったりとかの」

「我も詳しく知らないがそんなところだ。だが、強くなる以外にも変化はある」


 イロナの説明では皆に意味が伝わっていなかったが、トップ冒険者と言っても過言ではないヤルモは気付く。


「まさか……裏返り……」

「それだ」


 二人だけで納得していると、クリスタが質問する。


「裏返りって何??」

「簡単に言うと、火が弱点のモンスターが、水が弱点になる現象だ」

「そんなのあるんだ!!」

「かなりレアなケースでな」

「てことは……」

「うむ。カイザーヴァンパイアの弱点であるはずの聖属性が裏返って、回復していたことになるな」

「うっわ~……御愁傷様」


 二人の話に驚いていたクリスタだが、それよりも驚愕の表情で固まっているマルケッタを哀れんでいる。


「ということは……聖属性の防御アイテムや闇属性の攻撃補助アイテムも必要になるのか。そんなモンスター滅多に出ないから持ってないのに……道中で買うしかないか」

「ヤルモさん! 私たちにも対策教えて~!!」


 勉強熱心なクリスタたちはヤルモ先生から授業を受けるが、ヤルモもそんなレアなモンスターに出会ったのは数えるほどだったので、教えることができない。

 なのでイロナに聞こうとするが……


「地上に出た上にレアな魔王か……クックックッ。どれだけ強いか楽しみだ。クックックックッ……」


 怖すぎて聞けない。なのでヤルモは、「もしも攻撃が効かない場合は盾役のパウリで耐えていろいろ試せ」とアドバイスするしかできないのであった。



 翌日……


 一昨日はヤリすぎたヤルモとイロナは反省して、少しだけヤッたので気分よく目覚め、旅立ちの挨拶。ヤルモはまず、王都の外まで見送りに来ていたエイニに声を掛けていた。


「長いこと迷惑を掛けたな。ありがとよ」

「迷惑だなんて……ヤルモさんのおかげでウサミミ亭が復活したんです。こちらこそありがとうございました!!」

「これから大変だろうけど頑張れよ」

「はい! また、泊まりに来てくださいね……うぅぅ」

「ああ。またうまいメシを食わせてくれ」


 エイニは泣き出してヤルモに抱きついているが、ヤルモは次に挨拶する。


「パウリ、リュリュ、ヒルッカ……勇者をしっかり支えろよ」

「「「はい!」」」

「勇者様は自分が命を懸けて守ります!」

「どこまでできるかわかりませんが、勇者様が楽になるように頑張ります!」

「わたしも勇者様を助けるよ、パパ……わたしのために戦ってくれてありがとう。うわ~~~ん」


 パウリとリュリュは自分の決意を語るが、ヒルッカは助けてくれた恩を思い出して、ヤルモの足に抱きついて泣いてしまった。

 エイニに続きヒルッカまで抱きついているので、ヤルモは二人が離れるのを待って、次の人に声を掛ける。


「聖女は勇者を止めろよ。あいつ、すぐ調子乗るし」

「わかってます。勇者様が危ない場合は、この身を盾にしてでも止めてみせます!」

「そこまでやれとは言ってない」

「ウフフ。やっぱりヤルモさんは優しいのですね。こう言っては勇者様には悪いですけど、私に取ってはヤルモさんこそが勇者様です。ありがとうございました」

「あ……」


 オルガはヤルモの頬にキスをして笑顔を見せる。ただ、ヤルモはいきなりそんなことをされたので、胸辺りに当たったオルガの柔らかい物を感じてだらしない顔になっていた。


「そんな顔をしてたら、またイロナさんに蹴られるよ?」


 そこにクリスタが入り、別れの挨拶をする。


「本当に馬車はいいの? アルタニアの馬車、すっごく乗り心地がいいのに」

「遅いから苦手なんだ」

「ま、二人なら歩いたほうが速いか」

「まぁな。それより、調子に乗って無理するなよ」

「わかってるって~。聖女様が止めたら必ず聞く!」

「聞くだけじゃなく、止まれよ?」

「プッ……だからわかってるよ~」


 最後までヤルモが信用してくれないのでクリスタは笑うが、最後の別れの挨拶なので真面目な顔に変わった。


「ヤルモさん……死なないでね」

「どの口が……。イロナがいるのにどうやって死ぬんだ。俺が死ぬとしたら、イロナと戦った時だけだ」

「それが一番可能性が高いんだ……」

「そんなことより、お前こそ死ぬなよ。カードとか返しに来ないといけないんだからな」

「うん。ヤルモさんの教えを守って必ず生き残る……」


 クリスタは一呼吸置くと頭を下げる。


「ヤルモさん。今まで私たちを鍛えてくれてありがとうございました!」

「そんなのいいって」

「「「「「ありがとうございました!!」」」」」


 ヤルモが照れて断っているのに、勇者パーティは一同お辞儀。


「まったく……それじゃあ俺たちは行くからな。必ず生きてまた会おう!」


 ヤルモはそう言うとマルケッタが乗った背負子しょいこを担ぎ、イロナと腕を組んで歩き出したのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「「「「「ありがとうございました~~~!!」」」」」


 ヤルモたちの姿が小さくなって行くなか、クリスタたちは感謝の言葉を叫び続けていた。


「さてと~……ヤルモさんを心配していても仕方ないし、私たちは私たちのやることをやるよ!」


 ヤルモたちの姿が見えなくなると、クリスタは真っ直ぐ地平線を見ながら宣言したが……


「勇者様。もう行ってしまったからいいんですよ」

「な、なんのこと……」


 オルガはクリスタの肩を抱き締める。


「ひっぐ……」

「ほら。我慢しないでください。ぐすっ」

「うっ……聖女様だって~」

「「うわ~~~ん」」


 クリスタとオルガは抱き合って大声で涙き叫ぶ。


 突然、勇者と聖女の責務を負わされた二人だ。

 死に掛けたことだってある。

 そんな二人を助け、導いてくれたヤルモがいなくなるのだ。


 今日だけは、二人が使命を忘れて涙を流すことを神も許してくれるだろう……



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 一方、ヤルモとイロナは……


「主殿……そろそろ泣き止んだらどうだ?」


 ヤルモはクリスタたちと別れてから涙が止まらずにいた。


「うぅぅ……人間の中に、あんなにいい奴らがいるなんて……うぅぅ」


 それもなんだか妖怪が人間の温かさに触れたような泣き方だ。


「我しか信じられないとか言っておいて、少しけるぞ」

「だって、ずっと裏切られて生きて来たから……うぅぅ」

「わかった。わかったから泣き止め。もしも主殿を裏切る奴が現れたら、我がこの世から消してやるからな」

「それはそれで怖いぃぃ~~~」


 グスグス泣いていたヤルモは、イロナの怖いナイスアイデアを聞いて涙が決壊。


 こうしてヤルモは、長期間滞在したカーボエルテ王都を、泣きながらあとにしたのであった……


*************************************

いつもご応援、並びにギフトをいただき有り難う御座いました。

返信の仕方がよくわからないので、こちらで感謝を……


あ、ギフトに関係の無い読者の方々への「ギフトちょうだ~い」とかの圧力ではないので、お気になさらずお読みください(笑)

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