167 旅立ち2


 お別れ会が終わった翌日……


 ヤルモとイロナは大寝坊。昨夜は魔王と戦えると気持ちが逸って体が火照ったイロナをクールダウンするために、朝方までハッスルしたから二人とも起きれなかったのだ。

 一向に起きて来ないのでエイニが何度も部屋をノックしたのだが、それでも起きなかったので強行手段。


「ヤルモさ~ん? 今日立つんじゃなかったの~??」


 エイニから鍵を借りたクリスタが部屋に入ってしまった。


「な、なななな……キャーーー!!」


 ヤルモとイロナのあられもない姿を見たクリスタは、悲鳴をあげて部屋から逃げ出す。

 その悲鳴を聞き付けた皆が集まったが、クリスタが真っ赤な顔で解散を言い渡していたけど、あとでオルガとエイニとリーサを呼び出し、一緒に覗いてからガールズトークに花を咲かせていた。

 どうもクリスタは、ヤルモのヤルモが天を突いていたから、あんなに大きくなるとは信じられなかったようだ。リーサから「まだ小さいほう」とか言われて「キャーキャー」楽しそうだった……



 それから昼過ぎ、ヤルモとイロナは目覚めたのだが、恥ずかしそうに食堂に現れた。


「あ~……お別れ会をしてもらってなんだけど……すまん!!」


 さすがにこんな大事な日に寝坊したとあっては、ヤルモは正式な謝罪と綺麗なお辞儀。皆に笑われながら許しをいただいていた。

 それから遅い昼食を食べ終えたヤルモは、クリスタとオルガに部屋に呼び出されていた。


「あ……正座だな。わかってるよ」


 腕を組んで仁王立ちの二人を見たヤルモは、空気を読んで正座で座る。


「はぁ……何をやってるのよ」

「まさかそんなことをして寝坊って……」

「すんません」


 二人にバレバレと知って、ヤルモは土下座。それでもグチグチ言われていたが、若い子に説教される経験なんてないので、ヤルモは意外と楽しんでいた……



 説教が終わった頃にはもう夕暮れ。皆で食堂で食事をいただくのだが、昨日お別れ会をしたので普通の夕食。皆の苦笑いの視線がいたたまれないらしいので、あのイロナでさえ肩身が狭そうにしていた。

 そんななか、ヤルモはなんとか皆の苦笑いを解消しようと、一人の女性を生け贄にする。


「ところでなんだけど、聖女……アルタニアの聖女まで、なんで一緒にメシを食ってんだ?」


 そう。お別れ会には出席していなかったマルケッタが同席していたので、これを話の切っ掛けにしたのだ。


「なんでって……食べさせないわけにもいかないし……」


 クリスタはヤルモのトラウマを刺激しないように慎重に言葉を選ぶ。


「まさか一日延びるとは思っていなかったし……」

「そうだ! 気になっていたことがあるんだ!!」


 話が寝坊の件に戻りそうになったので、ヤルモはカットイン。


「あんなに弱いのに、なんで魔王に勝てると思ったんだ?」

「あ~……ヤルモさんは急いでいるだろうから、旅の途中で聞いてもらおうと思っていたんだけど……」


 マルケッタの代わりに尋問で情報を得ていたクリスタが語る。


 どうやらアルタニア帝国の勇者は、そもそもダンジョンに潜っていなかったようだ。誰が潜っていたかと聞くと、アルタニア帝国が抱えている高レベル冒険者パーティ。それも奴隷魔法で縛って、安月給で危険な任務に就かせていたとのこと。

 しかしその冒険者パーティに十分な休みを与えずにこきつかったがために、ダンジョンで命を落としてしまった。

 その代わりに新たなパーティを補充していたのだが、同じ扱いをしていたので、徐々に冒険者の質が悪くなって行ったのではないかとカーボエルテ王は予想している。


 ついにはダンジョンボスを倒せなくなってしまい、スタンピードが起こる。その時は帝都が半壊程度でなんとか押さえ込んだが、魔王が発生している可能性があるので、三百名もの冒険者と騎士を送り込んで最下層まで辿り着いた。

 しかし残ったのは一割弱。魔王も発生していて、あっけなく敗北した。その際、生き残っていた騎士が帰還マジックアイテムで魔王の情報を持ち帰ったそうだ。


 その情報を聞いた公爵家のダニエル・ヒュッティネンが、いまだに勇者の責務を果たそうとしない皇族の男に辞任を求め、勇者に立候補し、必ずや魔王を打ち倒すと述べた。どうやらここに、マルケッタの策略があったらしい。


 婚約者のダニエルを勇者にすれば、皇家の実権を握れると……


 魔王を見た騎士からの報告で、今まで皇帝が集めさせたレジェンド装備とマジックアイテムを使えば余裕で勝てると見込んでいたマルケッタ。

 そこで必要なのが、優秀な道案内。上級ダンジョンの最下層まで一人で行って帰って来れる冒険者の噂を聞き付けて調べてみたら、前科者。これなら奴隷に落とさなくても、恩赦を与えたらホイホイついて来ると確信した。

 あとは魔王の間に入る前にクビにすれば、魔王討伐は勇者パーティ単独の功績になる。ここが一番難しいかと考えていたマルケッタだが、自分から言い出してくれたので渡りに船と追い返したらしい。


 その後レジェンドアイテムを使いまくって魔王を倒し、地上に凱旋すれば民衆の支持は爆上がり。民衆の支持が高いなかダニエルと結婚して、アルタニア帝国初の女性君主、女王として君臨しようとしていたそうだ……

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