037 取り引き


 冒険者ギルドで仮眠室を借りたタピオとイロナは部屋に入り、装備を外す。


「さあ!」

「シーーー! ここ、大部屋だから。寝てる人もいるかもしれないから静かにしてくれ」


 さすがに壁の薄いギルドの一室ではそんなことはおっぱじめられない。いつものノリの下着姿のイロナは、毛布で包んで二段ベッドの上に乗せようとするタピオ。


「せめて一緒に寝ないか? 性奴隷として、それぐらいはさせてくれ」

「ま、まぁそれぐらいなら……でも、俺は汗臭いぞ?」

「それなら我も変わらん」


 イロナの微笑みに負けたタピオは、二段ベッドの下で共に横になる。その時、寝惚けていたと言っていたイロナに、タピオのタピオを握られるトラブルがあったが、なんとか声を出さずに激痛に耐えたタピオであった。



 それから朝の10時頃……仕事終わりのミッラが二人を起こしに来て、悲鳴をあげていた。その声で目覚めたタピオは平謝り。

 どうやらミッラは、二人が如何わしいことをしていたと思って悲鳴をあげていたらしい。イロナにも、自分を大事にしろと説き伏せていた。


「性奴隷ならば、当然の奉仕だろう?」

「せ、せせせせ……セイ!」

「ホ~オオォォ!!」


 今まで黙っていたイロナの立場を知られてしまい、ミッラが大声を出そうとしたので、タピオがその声よりも大きな声で掻き消した。

 それからひと悶着あって、タピオが袖の下を渡して秘密を守ってくれるように頼み、ミッラはスキップで戻って行ったのであった。



 多少のトラブルはあったが、タピオは恥ずかしいからか足早にギルドを出ようとするが、受付フロアを通り抜けようとしたところで、また問題が発生。

 タピオとイロナは五人の男に道を塞がれてしまった。


「やっと見付けたぞ!」


 五人の男の正体は、中堅パーティ。中級ダンジョンで周回プレーをしていたパーティだ。その中で一番若手の男、イルッポが前に出て来た。


「お前たちのせいで、一ヶ月も中級ダンジョンに入れられなくなっただろ! どうしてくれるんだ!!」


 イルッポがわめき散らすが、タピオは首を傾げる。


「お前たちと会うのは今日が初めてだと思うんだが……俺たちが何かしたのか?」


 残念ながら、タピオは本当に覚えていないようで、逆に質問するとイルッポはキレる。


「俺たちが周回していたことをチクッただろ! それに無理矢理追いかけたせいで、あのあとすぐにダンジョンを出ないといけなくなったんだぞ!!」

「えっと、仮に俺たちがチクッたとして、そんなことを大声で言っていいのか?」

「え? あ……」


 中堅パーティがルールを破っていた事実を大々的に叫んでは、少なからずいたパーティの耳に入り、ゆっくりと近付いて来ていた。

 リーダーのウリヤスもタピオに言いたいことがあったようだが、先にイルッポを叱っていたのでタピオに声を掛けられず。

 タピオたちはスッと冒険者の輪を抜けて、難なくギルドから外に出たのであった。



 それから少し早いが広場で楽しくランチを取り、地図を頼りにとある店に入った。


「おお! タピオさんじゃないですか。この方は私の命の恩人だから、次からはすぐに通すのだぞ!!」


 ここはオークに襲われていたヨーセッピ老人の本店。タピオの服装では似つかわしくない高級店なので、店員と揉めていたら偶然お店に顔を出したヨーセッピが助けてくれた。


「ささ、ここではなんですから、奥に行きましょう」


 高そうな貴金属や美術品ばかりが置いてある高級店では居心地の悪いタピオは、ヨーセッピに言われるままに奥の部屋へと移動する。


「私に会いに来たということは……」


 ヨーセッピがニヤニヤしながらイロナをチラッと見たので、タピオは勘違いしていると思って早く用件を伝える。


「これを買い取れないか聞きに来たんだ」

「魔石……大きさからいって、上級のラスボスですな」


 さすがに商品を見せたら、ヨーセッピの顔はエロジジイから商人の顔へと変わった。


「買うことはできますが、どうしてギルドに持ち込まないのですか?」

「まだ仮通行証しかないんだ。本通行証を貰ってあとから売ってもいいんんだが、ラスボスの魔石は価格が変動すると聞いたことがあるから、どれぐらいで売れるか聞きに来たんだ」

「ほう……タピオさんも商人の素質がありそうですね。たしかに需要によっては、ギルドより高値で買い取る場合もありますし、低く買い取る場合もあります」

「噂は本当だったんだな」

「まぁ信用ならない店に持ち込んだら必ず安く買い取られるので、商才のない者はやらないほうがいいでしょうね。ここは私に任せてくれれば、一番の高値で取り引きしましょう!」


 ヨーセッピは恩を返せると喜んで鑑定士を呼び、査定の価格をタピオに告げる。


「そんなに高くなるのか??」


 予想価格よりも、三倍も高く付いた価格に驚くタピオ。


「普段は高くて二倍に届くかどうかなんですが……タピオさんは運がいいですよ。この国の王都で、取り急ぎ欲しいというお客がいたようです」

「ふ~ん……王都ならもっと深いダンジョンがあると思うけど、そんなのを欲しがるんだな」

「用途はわかりませんが、買い手は教会となっていましたから、何かの儀式に使うのかもしれませんね。それで、この値段でよろしいでしょうか?」

「ああ。それで頼む」


 ヨーセッピは一度席を外してお金を取りに行くと、イロナがタピオの腕に絡み付いて来た。


「王都に行けば、もっといいダンジョンがあるのか?」

「た、たぶん……腕が痛いんだが、もう少し力を緩めてくれないか?」

「そうかそうか。ならば王都でレベルアップしよう!」

「痛いって! 腕を離してくれ~~~!!」


 深いダンジョンがあると聞いてイロナが興奮するので、タピオの腕が締め付けられる。しばしイロナはタピオのタップを無視して、腕を抱き締め続けるのであったとさ。



 ハミナの町の上級ダンジョンより深いダンジョンがあると知って、イロナは興奮してタピオの腕を締め付けていたが、タピオが何度も連れて行くからと説得してなんとか腕を離していた。

 その頃には、フェンリルの魔石の料金を取りに行ったヨーセッピが戻って来たので、タピオは有り難く受け取る。


 それからヨーセッピは、また魔石を売る場合は買い取る旨を伝え、タピオはお礼を言って贔屓ひいきにしている宿屋へと帰るのであった。

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