036 上級ダンジョン9
上級ダンジョン最深部のボス部屋に入ったタピオとイロナは、巨大な白い狼を目の前に話し合う。
「フェンリルか……ちょっとやりにくいかも?」
「たいしたことはない。デカイだけの犬ころだ」
「そんなわけはないだろう」
タピオはボス戦を避けていたので、フェンリルとの戦いは若い頃に苦戦した経験しかないからか、少し尻込みする。だが、イロナはそれが気に食わないようだ。
「ゴチャゴチャ言ってないでさっさとヤルぞ!」
「いや、ここは俺から突っ込む場面なのでは……」
残念ながら、イロナはタピオの意見なんて聞かずに突撃。タピオも続くしかなく、ドタドタと走って追いかける。
するとフェンリルは巨大な氷の矢を、先頭を走るイロナに連続で放った。
「うおっ!?」
もちろんイロナには当たるはずはなく、タピオの目の前から消えるようにいなくなったので、タピオは避けられずに全て命中。しかし、タピオの盾を貫ける代物ではなかったので簡単に防がれ、受け流されていた。
その隙に、イロナはフェンリルの横に回り込んで、足を槍で斬った。
「いかせるか!!」
イロナの強烈な一撃を受けたフェンリルは、イロナをターゲットにしようとしたので、タピオは急いで剣を振るってフェンリルの頬を斬る。
これでターゲットはタピオに移り、フェンリルはタピオにばかり攻撃をすることとなった。
タピオはフェンリルの爪を盾で弾き、剣で斬り、噛み付きも出だしに盾をぶつけて止め、また剣で斬る。氷の槍を四方から放たれても冷静に位置取りを変え、一発の氷の槍を盾で防いで剣を振る。
その間、イロナは走り回り、フェンリルの四肢に体にと槍を突き刺す。たまにイロナに顔を向けるものの、タピオに斬られてターゲットはイロナに移らず。着実にダメージが積み重なる。
そうしていると、早くもフェンリルのHPは三分の一を切り、怒りが爆発。身体能力が上がり、最強攻撃を繰り出す。
「ワオーーーン!!」
フェンリルの最強攻撃は口からの猛吹雪。それも力が集約された吹雪なので、鉄をも切り裂くビームになっている。
「よっと」
タピオはこの攻撃も冷静に受け流し。盾の角度を変え、ビームは30度ほど曲げられ、本来の力を発揮しないままダンジョンの壁に突き刺さった。
「【
フェンリルの残りHPが少ないと悟ったイロナのスキル発動。イロナの凄まじい連続突きは、フェンリルの血を撒き散らし、まるで花が咲き乱れるが如く何輪もの赤い花が咲いた。
その間、タピオも合わせて剣を振るっていたが、五回斬れただけ。ラストアタックもイロナに取られてしまうのであった。
「やっと戦った感がある相手が出て来たな」
戦闘時間10分ほどで倒れたフェンリルがダンジョンに吸い込まれるなか、イロナの笑顔が見て取れる。
「俺は久し振りだったから、ひやひやしたよ」
「そうなのか? 時々見ていたが、位置取りも上手いし、時間を掛ければ主殿だけでも余裕で倒せただろう」
「その時間がもったいない。俺ひとりじゃ一時間くらい掛かりそうだ」
「強敵と戦うなら、それぐらいのほうが楽しいだろうに」
「俺は堅実なんだよ。イロナがいなかったら絶対に避けてたよ。ま、これからは戦って行くけどな」
本当は戦いたくないタピオであったが、イロナの機嫌を損ねないように言葉を付け足す。これで少しはイロナの機嫌は元に戻っていた。
「さてと、帰ろうか」
タピオはドロップアイテムを回収したらイロナと共に奥の部屋に移動し、装備を武道家風に整えて転送魔法陣の上に乗る。
一瞬で上級ダンジョンを出たら、夜勤の衛兵に各種アイテムを提出してサインをする。
こうして、上級ダンジョン制覇に要した時間はたったの三日。タピオとイロナペアは、過去の最短制覇時間を大きく短縮したが、地下30階までしか行ってないと嘘の報告をして帰路に就くのであった。
時刻は朝の4時ということもあり、町はまだ稼働していない。宿屋もこの時間帯に行っても受付をしていないので、二人は唯一稼働している冒険者ギルドに入った。
ギルドに入ると、二度タピオの受付をしてくれた猫耳受付嬢ミッラがギョッとした顔で見ていたので、そこに向かう。
「うぅぅ。この時間なら来ないと思ってシフトをずらしたのに……」
「何か言ったか?」
ミッラは二人を避けていたようだが、小声で愚痴っていた声はギリギリタピオに聞こえていなかったようだ。
「いえいえ。何も……それで今日はどういったご用件でしょう?」
「上級ダンジョンに行って来たんだ」
タピオが各種書類とアイテムを提出すると、ミッラがまたギョッとした顔になった。
「何か変なところでもあったか?」
「あ、いえ。また最短記録で中層までクリアしていたから驚いただけです」
本当は最深部までクリアしていたのだが、タピオは口にしない。ただ、中層でも最短記録だったとは思いもしなくて驚いたが、顔には出さなかった。
「はい。手続き終了です。もう一度中層をクリアしましたら、最深部までの通行許可証が出ますので、それまではダンジョンボスに挑まないでくださいね?」
「わかっている。あと、仮眠室を借りたいんだが、お願いできるか」
「それなら銀貨……ギルド会員なら、お一人銅貨15枚です……」
いつもの癖でボッたくろうとしたミッラは、イロナの顔が目に入ってすぐに正規料金に言い直した。ちょっとしたこずかい稼ぎができないので、ミッラはギリギリと歯を鳴らして二人を見送るのであったとさ。
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