035 上級ダンジョン8


 地下56階……冒険者パーティを追い抜いたタピオたちは、この階は宝箱を探さずに一気に抜ける。

 57、58階とさすがにモンスターの強さは上がったが、二人のペースが少し落ちただけでクリア。宝箱もきっちり漁って剣を引き当てていたが、イロナが装備している剣よりもランクが下であったため、サブウェポンとして使うようだ。


 そうして地下59階……人型でひとつ目の巨大なモンスター、サイクロプスの群れとの戦闘で、イロナに異変が起こる。


「あっ! 剣が!?」


 おニューの剣であっても、イロナの腕力で振り回されたからには強度が持たなくなり、中程で折れてしまった。


「イロナ! これ使え!!」


 タピオはイロナの動きを横目で見ていたので、サイクロプスを弾き飛ばしたあとにすぐさま予備で買っていた剣を投げ渡す。

 イロナは拳で戦っていたが、タピオの投げた剣を受け取るとサイクロプスを斬りまくり、タピオと共に全てを倒したら、剣を見ながら立ち尽くしていた。


「もうダメみたいだ」

「ウソだろ? けっこういい剣だったのに……」


 タピオがドロップアイテムを拾い集めて近付くと、イロナの持つ剣は刃毀はこぼれだらけとなっていた。


「やはり、しばらく主殿の剣を借りるしかないか」

「俺のお気に入りなんだけど……あ! イロナはなんでも武器を扱えたよな?」


 さすがに武器無しではイロナがかわいそうに思えたタピオは自分の剣を渡そうか悩んだが、折られそうだと思い直し、いい物を持っていたと思い出した。

 タピオはアイテムボックスをゴソゴソと漁り、刃の部分が湾曲した槍を取り出した。


「ふむ。槍か……」

「いちおうS級武器なんだけど……」


 タピオが偶然宝箱から引き当てた最高品質と言っても過言ではない武器なのだが、イロナの反応が良くない。


「我が装備するなら、SSS級トリプルからが望ましいんだ」

「そんなの、俺は手に入れたことがないんだけど……」


 基本的に上級ダンジョンボスとの戦闘を避けていたタピオでは、ボスが稀に落とすアイテムを知らない。

 イロナの場合は、何度も200階以上あるダンジョンの小ボス、中ボスを倒していたので、SSS級の武器や防具を手に入れていたから知っていたのだ。


「まぁこれでも、買ってもらった剣よりは強く振れるか」

「あれで手加減してたんだ……てか、剣に対しては手加減するんだ……」


 イロナが手加減できると知ったタピオは、夜のプレイも手加減してくれたら楽しめると思ったが、イロナに言うと怖いので口を閉ざすのであったとさ。



 イロナが槍を何度か振って動きを確かめるとダンジョン攻略再開。最終フロア、一歩手前ということもあり罠も手強くなるが、タピオは槍付き落とし穴に落ちても毒の沼に落ちてもケロッとして戻って来るので、あのイロナでさえ驚いていた。

 モンスターも手強くなっているが、S級の槍を持ったイロナに一撃で倒される場合もあるので、戦闘に関してはタピオが驚く。

 しかも中距離の攻撃ができるようになったイロナはタピオとの相性がよくなり、モンスターを早く倒せるので、予定していた時刻よりも早くに地下60階に辿り着いたのであった。



「ここでいいかな?」


 ダンジョンボスの部屋の前に着いたタピオは、小休憩の前にハーレムパーティとの賭けで渡されていた紙を、目立つ位置に置く。扉の開け閉めで飛ばされないように石を重しにして置いたので、ハーレムパーティも気付いてくれるだろう。

 ちなみに、この手の伝言はよくあることなので、わかる人以外が持ち去らないことは、冒険者の中では暗黙の了解となっている。



「そういえば、仮通行証では30階までしか行ってはいけなかったのだろ? ラスボスを倒してはバレてしまうのではないか?」


 軽食を食べていたら、イロナからの質問の内容が意外すぎてタピオは食べる手が止まる。


「倒さないで帰っていいのか?」

「そんなわけなかろう……」

「冗談だ。冗談」


 本当は、ダンジョンボスと戦いたくないタピオ。上級ダンジョンなら、最深部までの道中で手に入るアイテムを売り捌けば大金を稼げるので、無駄に強いモンスターと戦って怪我をしたくないのだ。

 ただ、イロナがいる手前、口が割けてもそんなことは言えない。簡潔に説明するしかない。


「ラスボスの魔石さえ見せなければ大丈夫だ。ギルドに売れないのは痛いけどな」

「なるほどな。でも、売れないとはどういうことだ?」

「ギルドに売るとバレるから、何かしらのペナルティがあると思う。他所で売ると、よっぽどのツテがないと足元を見られて安くなるだろうな」

「ふむ。冒険者とは制約が多くて面倒なのだな」


 イロナが冒険者のいろはを学んだら、タピオは立ち上がって装備を整える。全身を守る所々大きな穴が空いているどす黒い全身鎧を装備し、盾を持ち、イロナのほうに向き直る。


「おお~。見違えたな。凄く立派だぞ」

「そうか? あまり評判はよくなかったんだけどな」

「さっきまでとは段違いにいいぞ」

「胸当てだけだったもんな。それじゃあ、そろそろ行きますか」

「おう!」


 こうしてタピオとイロナは、上級ダンジョン最深部のボスへと挑むのであった。

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