079 カーボエルテの魔王2
「ン、ンン~! よく来たな。冒険者よ……」
ドラゴンニュートから進化した魔王は、気を取り直してタピオたちに話し掛ける。
「ちなみに勇者もいるようだが、余と戦わないのか?」
「ああ。あいつらは見学だ」
「なるほど……少々待たれよ」
魔王は後ろを向くと何やらブツブツと呟いて、イレギュラーを頭の中のメモに書き加えている。その間、魔王に返答したタピオはイロナに質問していた。
「魔王って、何か喋らないといけない決まりがあるのか?」
「うむ。故郷のダンジョンでは、必ず『トゥオネタル族の猛者よ』と出迎えてくれるぞ」
「なるほど……よく倒しに来る者がダンジョンに記憶されるわけか」
「まぁ何を喋ろうと、やることは一緒だがな」
タピオは初体験なので予想を付けるが、イロナはいつものことなので魔王の言葉なんて、
「よし! もういいぞ」
二人が喋っていたら、アップデートした魔王はマントをひるがえして振り返る。
「無謀にも余の前に立ったことを後悔しながら死ぬがよい!!」
シナリオに戻った魔王は、三つ叉の槍、トライデントを召喚して構える……
「ちょっ! はやっ……」
そこに、イロナが突撃。魔王はなんとかイロナの剣をトライデントで受けて耐える。その頃タピオというと……
「俺も試しに戦いたかったんだけど……」
乗り遅れてしまい、イロナと魔王の激しい戦闘を見ながら愚痴るのであった。
* * * * * * * * *
一方、部屋の隅で観戦しているクリスタとオルガは……
「うっわ……圧倒してる……」
「私、まったく見えないのですけど……」
イロナの強さに、驚愕の表情を浮かべている。
「私もギリギリだよ。目の前だったら、一瞬でミンチになってる自信がある」
「はぁ……受ける魔王と攻めるイロナさん。どっちが凄いんだか……」
「まぁイロナさんが確実に倒してくれるから、どっちでもいいんじゃない?」
「そうですね! ……と、言いたいところですけど、私と勇者様、これでいいのですかね?」
「それは言わない約束でしょ~~~」
人々を救う役目の勇者と聖女がただの見学で、本来の務めを果たせないのならば、お互い情けなくなるのは当然のことであった。
* * * * * * * * *
「くそっ! なんて強さだ!!」
笑いながら剣を振るイロナの猛攻を、高いHPと高い防御力、トライデントでなんとか耐える魔王。まるで挑戦者側のような愚痴が漏れるが、このままではじり貧なので、剣を受けるタイミングで口を開ける。
「喰らえ! 【灼熱炎】!!」
「フン!」
魔王の口から火炎放射器のような炎が吹き出すが、イロナは一刀両断。
「おっと」
できたのだが、魔王はそれを予期していたのか長時間吐くので、イロナは何度も剣を振りながら距離を取る。
「あっちっちっ」
そこに盾を構えたタピオが合流。イロナを後ろに招き入れて声を掛ける。
「ちょっとぐらい俺にも戦わせてくれよ」
「フフ。主殿も戦いたかったのか。ならば、しばらく代わってやろう」
「え? 盾役は任せろってことなんだけど……」
「まぁ一人で戦うには、主殿には早いと思うがな」
「聞いてる? 二人でってことだよ?」
「行ってこい!!」
「くそっ!」
タピオにも、イロナの洗礼。イロナブートキャンプの生徒はイロナ軍曹には逆らえないので、覚悟を決めて前進するしかない。
タピオは盾を前に構えて突撃すると、炎は圧力を増して若干の熱のダメージが入る。しかし、タピオは電車道。
ドンッ!
すると何かに衝突したかと思ったら、圧力が無くなって炎が途切れた。
「なんなんだお前たちは!!」
タピオに撥ねられた魔王は激オコ。イロナの強さといいタピオの力といい、イレギュラーが続いて地団駄を踏んでいる。
しかし、タピオはチャンスとみてそのまま突撃。魔王が苛立っているうちに剣を振り下ろす。
「なんだ。さっきの女ほどではないな。フッ」
タピオとイロナでは、ざっくり力は半減。スピードは到底及ばない。魔王とは力では張り合えてはいるが、スピードは半分ってところ。これでは魔王に余裕が生まれるので、鼻で笑われても仕方がない。
タピオの強さを把握した魔王は、トライデントを振るって反撃だ。
「え? あれ??」
しかし、幾度トライデントを振るってもタピオの盾は崩せず、魔王はとぼけた声を出して攻撃が雑になってきた。
「よっと!」
「わっ!!」
そこを狙ったタピオの崩し。トライデントの突きで押された瞬間に盾を引くと、魔王は前のめりになる。
「オラッ!!」
「ぐわっ!!」
そこに、タピオの剣。ぶん殴るような衝撃は体勢の崩れた魔王では耐えられず、腹を地面に打ち付ける。
「オラオラオラ!!」
さらに追い討ち。無防備な背中に剣を振り下ろし、振り上げる際には踏み付け。魔王は立ち上がれずに、ダメージが積み重なるのであった。
* * * * * * * * *
一方、タピオの戦闘を見ていたクリスタとオルガは……
「なんで互角以上に戦えてるんだろ?」
「さあ? 勇者様でわからないなら、私もわかりません」
クエスチョンマークが頭の上に乗っていた。
「さっきまで攻められていたよね?」
「ええ。イロナさんと違って負けると思っていました」
「イロナさんは助けに行かないし……」
「タピオさんが勇者様みたいに無茶振りされたのはわかりますね」
「うん。でも、その無茶振りにタピオさんは応えられるんだ……」
「勇者様も頑張っていますよ!」
今度はクリスタだけへこんで、オルガに励まされるのであったとさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます