093 恩人


 道具屋で再会したヨーセッピのおかげで、回復アイテム関連はほとんど捌けたヤルモ。上級アイテムは自分たちで使う機会があるので中級までを売ったが、数がとんでもなく多かったのでそこそこの値が付いた。


「こんなに買い取ってくれてありがとう」

「いえいえ。特級ダンジョンが誕生したならば、買い手が増えるはずですから渡りに船でしょう」


 ヤルモは道具屋の老店主にお礼を言ったのだが、何故かヨーセッピが誇らしげに答えた。


「それでアイテムボックスはどれぐらい入りそうなんだ?」

「ほれ、説明して差し上げろ」


 ヨーセッピから急かされた老店主は、奥に飾ってあるみっつのバッグを持って来てヤルモに説明する。

ひとつはヤルモの持っているアイテムボックスより倍も入る物であったが少し大きかったので、いまと同じたげ入る腰袋タイプを選び、支払いも済ませた。


「いい物が買えたよ。それじゃあな」

「お待ちください」


 やることを終えたヤルモが店から出ようとしたら、ヨーセッピに止められる。


「なんだ?」

「他にも売り物があるのでしょう? 私が仲介に入って高値で売りますぞ!」

「それは助かるんだけど、仲介手数料は……」

「もちろんタダです!」

「はぁ……適正料金を払うよ」


 嬉々として無料を提示するヨーセッピを宥めるヤルモ。命の恩人であっても貸しを作りたくないので、売上の3%を払うことで落ち着いた。

 それから武器屋、防具屋を回り、アクセサリー関係はヨーセッピの支店に卸す。それと魔石も買い取ってもらえたので、手数料を差っ引いても予想よりかなりの利益が出たヤルモはホクホク顔。

 ヨーセッピも役に立てて嬉しそうに握手を交わしていた。


「もうしばらく王都には滞在しますので、また売買に困りましたら店にお寄りください。居ない場合はこの者が対応しますからね」

「ああ。何から何までありがとうな。また来るよ」


 笑顔で別れたヤルモはイロナと腕を組んで歩く。売買に時間が取られて正午は少し回ってしまっていたから、ランチに繰り出すことにした。そこでエイニの働く店が気になっていたのでその店に向かったのだが、問題発生。

 高級料理店だったため、ドレスコードに引っ掛かってしまったのだ。イロナはギリギリ大丈夫だったのだが、タピオは布の服の袖を破いた姿なのだから、そりゃ止められるよ。


 なので、ダメ元でエイニの名を出してみたら渋々ウェイターは奥に消え、しばらくすると個室に通されたヤルモとイロナ。

 そこで適当なコースメニューを頼んで美味しく食べていたら、食後のお茶を運ぶエイニがやって来た。


「ヤルモさん、イロナさん。どうでしたか?」

「うまかったけど、やっぱり俺にはB級料理が似合っていると実感したよ」

「我もお前の料理のほうがうまく感じたぞ」


 二人ともかしこまった感じの料理は苦手なようだが、イロナがエイニを褒めるとニヤケていた。

 そうして味の感想をエイニが聞いていたら、この店のオーナーがヤルモたちに挨拶をしにやって来た。


「いつもエイニがお世話になってありがと~。この子って、あなたたちが泊まってくれてから、毎日楽しそうに話すのよ~」


 オーナーはおばちゃんみたいな仕草で喋るので、ヤルモが疑問を口にする。


「男だよな?」


 そう。オーナーはタピオよりは小振りだが、マッチョな角刈りの男。なのに口調はおばちゃんなので、タピオは空気を読まず質問したのだ。


「や~ね~。心は女なのよ~」

「オーナーは昔、お父さんのことが好きだったみたいなんです。だから時々泊まりに来てたんですよ」

「ホント、いい男だったのに残念よね~。奥さんには負けたけど、あんなにいい女に負けたんじゃ、女冥利に尽きるわよ」

「真剣勝負して、お母さんとも親友だったんですよ」

「……それでいいのか??」


 複雑な戦いを聞いて、ヤルモはついていけない。質問にもあまり色好い返事をもらえず、二人で喋る喋る。

 そうしてヤルモが迷惑そうにして帰ろうかと立ち上がった矢先、オーナーがそのことに気付いて回り込まれてしまった。


「ホントありがとね。ヤルモちゃんのおかげで宿の再建に目処が立ったって言うじゃない? この子、あたしがいくら言おうと聞きゃしなくって……このまま宿と心中するんじゃないかと思ってたのよ~」

「う、うん。近いから離れてくれ」

「もう、おませさん。こんなに美人に言い寄られて照れてるのね~」

「ヒッ……触るな!」


 オーナーがベタベタヤルモを触るので、背筋にぞわっとしたモノが走った。どう見てもマッチョなおっさんどうしのちちくりあいで気持ち悪いのに、エイニは何故か微笑ましく見ている。

 しかし、イロナは別だ。オーナーの圧にちょっと引き気味だが声だけで割って入る。


「我の主殿に何をする」

「や~ね~。ヤキモチ? ゴメンゴメン。冗談よ。ヤルモちゃんはいい男だけど、あたしのタイプじゃないから心配しないで。ま、ヤルモちゃんから誘われたらすぐにイクけどね」


 イロナのムッとした顔を見たオーナーは早口で捲し立てて煙に巻く。そしてヤルモにはウィンクからの投げキッスで攻撃。


「誰が誘うか!!」

「ツンデレね~」

「ヒッ……ケツを触るな~~~!!」


 もちろんヤルモは真っ当な男なので断るが、オーナーからのボディタッチはしばらく続くのであった。

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