094 整備品の受け取り


 高級料理店から出た頃には、ヤルモはげっそり。どんなに防御力があろうとも、筋肉オカマの精神攻撃には耐えられなかったようだ。

 その傷を癒そうとイロナの肩を借り、髪の匂いをクンクンするヤルモ。甘えられて悪い気がしないイロナは、胸をヤルモの脇腹に押し付けるというサービスをしていた。

 ヤルモはぎゅっと抱き締められて食べた物を吐き出しそうになっていたけど……


 料理店のオーナーにからまれたせいで時刻は3時頃となっていたから、足早に鍛冶屋に向かう二人。ドアを開けると先客が目に入ったので、ヤルモは少し待とうとドアを閉めた。


「なんで閉めるのよ!」


 先客の正体は、クリスタとオルガ。ヤルモに他人行儀にされたことを怒ってクリスタが飛び出して来た。


「俺たちが入ったら狭くなるかと思ってな」

「パーティ仲間なんだから気にするわけないでしょ~」


 言い訳してもブーブー文句言うクリスタに負けて、ヤルモたちも中に入ってドワーフのスロに挨拶をする。すると、武器防具の整備は終わっていると言って奥に消えて行った。


「お前たちもここで頼んでいたんだな」

「そうそう。王都一の鍛冶屋だもん。お兄様の剣があれば必要なかったんだけど、無理を言って作ってもらったのよ」

「そっか……勇者が持つ剣は継承できてなかったのか」

「レジェンド武器だったのに、あのバカお兄様は……」


 ヤルモとクリスタが話をしていたら、イロナがレジェンド武器に食い付く。


「勇者の持つ剣か……我も使ってみたいものだ」

「レジェンドなら、イロナが振っても壊れないだろうな」

「いや、無茶したら折れたぞ」

「「「マジで!?」」」


 冒険者として憧れの装備を手に入れたことにも驚きのようだが、まさかそれを折るとは信じられないヤルモたちは、マジで驚くのであったとさ。



「俺の剣は大事にしてくれよ」


 ヤルモたちの装備を持って戻って来たスロは、盗み聞きしていたわけではないがイロナの話が耳に入っていたようだ。


「お前の剣は気に入っているからそのつもりだ」

「わはは。それはありがてえ」

「レジェンドを作るとしたら、どんな素材が必要なのだ?」

「うぅむ……ありったけのレア素材をつぎ込んでもSSS級トリプル止まりだからな……実物をバラしたらわかるかもしれない」

「鎧ならあるのだが……」


 スロと喋っていたイロナがクリスタを見ると、クリスタは鞄を背中の後ろに隠して目を逸らしていた。


「ああ。空色の鎧なら、手入れするついでに調べたぞ。それでもわからなかったんだ」

「ちょっとおじさん何してるのよ! 着れなくなってない!?」


 スロが調べたと聞いて、自動サイズ調整が壊れていないかと焦って装備するクリスタ。ガチャガチャと動いてもフィット感は変わっていなかったのでホッとしていた。


「大丈夫に決まってるだろ。隅々まで舐めるように見ただけだ」

「その言い方も、ちょっと気持ち悪いんだけど……」


 クリスタは鎧に包まれているのに、何故か胸を両手で隠してジト目で見ていた。


「勇者の鎧を取り上げるな」

「ヤルモさん……」


 そこに常識人のヤルモが助け船を出してくれたので感動するクリスタ。


「アレぐらい装備してないと勇者に見えないだろ。隠れみのに使えなくなってしまう」

「ヤルモさ~~~ん」


 いや、ヤルモはあくまでも自分のためだたったので、クリスタは涙目になっていた。


「それにイロナの無茶振りに応えるには、アレがあったほうが効率的だ」

「ふむ。確かに死ににくくなるから、もっと強い敵と戦わせてもいいかもな」

「ヤルモさ~~~ん!!」


 そしてイロナが舌舐めずりするので、クリスタは泣き出してしまうのであったとさ。



 レジェンド武器製造は、何か壊してもいい武器が手に入ったら持ち込むことで落ち着いたので、ヤルモはイロナにせがまれた訓練用の装備の購入と、先日お願いしていた武器防具の買取りの話に移行する。

 ただ、ヨーセッピのおかげでほとんど捌けていたので、素材として優秀な武器防具を少量販売する流れとなった。

 そこでクリスタから「どうして冒険者ギルドで売らないの?」と質問されたので、ヤルモが「足が付かないため」と説明したら、クリスタとオルガはコソコソと喋っていた。


「やっぱり犯罪者なのかな?」

「手慣れていますもんね……」


 どうやら裏ルートで捌くヤルモの姿が、クリスタたちの疑心暗鬼に繋がったようだ。


「それじゃあまた来るよ」

「だから置いていかないでよ~」


 スロとの用事が終わると、ヤルモとイロナはさっさと撤収。クリスタたちには声すらかけないで出て行くので、慌てて追いかけるのであった。



 帰り道は仲良く一緒。ヤルモとイロナはくっついて歩き、クリスタとオルガは後ろを歩く。クリスタたちが「なんだかストーカーみたい」と喋っていたら、前方にエイニが歩いていたので、ヤルモは一声かけて荷物を持っていた。

 エイニが嬉しそうにヤルモと喋る姿を見て、クリスタたちから疑心暗鬼はなくなる。


 ヤルモはまるでお父さんみたいだと考えが変わったから……

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