095 訓練


 諸々の準備を終えた次の日、ヤルモとイロナは今日も完全休業。クリスタとオルガと共にエイニの出勤を見送ったら、各々自由に過ごす。

 特にやることのないヤルモは、昨夜のイロナサービスで痛めた体……特に股間を休めようと部屋で寝転んでいたが、イロナがおっぱじめようと寄って来たので庭に移動した。


 そこでは、クリスタが剣の素振りしていたので、ヤルモは声をかける。


「精が出るな」

「うん。明日はダンジョンに入るから気がたかぶっちゃって」

「訓練もいいけど、疲れを残すなよ」

「わかってるよ」


 ヤルモはその辺の丸太ベンチにイロナと共に座ろうとしたが、イロナはツカツカとクリスタに近付く。


「どれ。我が見てやろう」

「え……疲れを残さないように訓練してるから……」


 イロナにしごかれると、確実に疲れると思ってクリスタはやんわりと断った。


「主殿。昨日買っておいた訓練用の装備を出してくれ」

「いや……あまり疲れると明日に響くから……」

「出せ」

「はい」


 イロナに強く言われては断れないヤルモは、訓練用の剣を二本、それと盾を渡して、クリスタには両手を合わせて口パクで「ごめん」と言っていた。


「打ち込んでみろ」

「はい!!」


 クリスタはイロナの好意に甘えるというより、行為に諦めて剣を振る。下手に気合いが入っていないと怒られそうなので、必死にやらざるを得ないのでいい返事をしたようだ。


「綺麗な剣だけでは我を斬れないぞ。こうやって打ち込むのだ。盾で受けろ」

「うわっ!」


 何度もクリスタの剣を受けていたイロナは、ここで反撃。その変則的な剣は受けにくく、5撃目でクリスタの喉元にイロナの剣がピタリと止まる。


「スピードを合わせてやっているのに、たった5撃か……」

「す、すみません……まさか足まで斬られるとは思っていなくて焦っちゃって……」

「決死の敵は何をしてくるかわからない。覚えておけ」

「はい」


 クリスタは剣を少しかじった程度なので、初めて見る実践の剣には対応できずイロナに叱られていた。


「次、主殿だ!」

「俺も!?」


 のんびりと傍観していたヤルモは、イロナに呼ばれて渋々動く。そして「御愁傷様」的なクリスタの顔を見ながら剣と盾を受け取ると構える。


「こんな軽い装備、久し振りだから手加減してくれよ」

「クックックッ。主殿の実力、とくと拝ませてもらおう」

「聞いてる? とと……」


 ヤルモが喋っていてもイロナはお構いなし。クリスタが受けた5連撃が炸裂する。

 しかし、ヤルモは冷静に対応。上半身に迫る三連斬りは盾だけで弾き、四度目の斬り付けは剣を地面に突き刺して足を守り、体勢を崩さないまま最後の突きを盾のド真ん中で受けた。


「ふむ。勇者と戦った速度では余裕か」

「まぁ見てたからな」


 イロナがニヤリと笑って動きを止めると、ヤルモはクリスタに簡単なアドバイスをする。


「盾が間に合わないなら、剣も盾として使えるからな。あと、盾職は剣士と違って、どっしりと構えて体幹を崩さないのが基本だから覚えておけ」

「はい!」


 クリスタから返事が聞こえるとイロナに目を戻す。


「では、スピードを上げて行くぞ」

「ほどほどにな」


 イロナはいちおう手加減してくれていたから、少しは気を使ってくれていると思ったヤルモ。だが、イロナのスピードは一撃ごとに上がるので、必死になって来た。


「ちょっ! 速いって!!」

「わははは。いまのも捌くか!」

「も、もういいだろ!」

「面白くなって来たところだ!」


 一発もヤルモの盾を崩せないイロナは、楽しくなって目的を見失うのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 その高速の打ち合いを見ていたクリスタとオルガは……


「アレ……人間の動き?」

「もう私には、イロナさんが見えてないんですけど……」


 イロナの超人的な動きに驚いていた。


「簡単に説明すると、ほとんど踊ってるみたいなの。たまにしゃがんだり飛んだり……うわっ! いま、ヤルモさんを飛び越しながら斬った」

「当たったのですか?」

「いえ。なんとか剣で止めていたわ」

「あ、さっきヤルモさんが急に振り向いて剣を上げていたのはそれですか」

「そうそう。でも、ヤルモさんの動きは見えてるんだ」

「わりと遅いので……なのに、どうしてイロナさんの剣が止められるのでしょうね」

「経験みたいなこと言ってたけど、経験を積んでも受けられる自信、ないわ~」


 ヤルモの謎が深まり、また自信をなくすクリスタであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 クリスタとオルガが喋っている間も剣撃は繰り広げられていたが、ヤルモが剣を押し返したと同時にイロナは後ろに飛び、動きが止まった。


「どうも乗りきれないと思っていたら、主殿は何かやってるな?」


 どうやらイロナは、ヤルモの盾を崩せない理由に気付いて距離を取ったようだ。


「バレたか。剣が当たった瞬間、押したり引いたりして、足の位置を微妙にズラしていたんだ」

「なるほど。足か……だから次の行動が読まれていたのか」

「飛ばれた時は焦ったけどな。予想の軌道に剣があってよかったよ」

「フフ。普通では、主殿は崩せないってことか」

「いや、全然普通じゃなかったからな?」

「そろそろ全力でいこうじゃないか!」

「イロナさん? イロナさんや。これは訓練ですよ??」

「喰らえ~~~!!」


 こうして手加減を忘れたイロナブートキャンプは続くのであったとさ。

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