110 特級ダンジョン13
「ファイアー」
『ファイアー』
ドドドド、ドッコォォーーーン!!
ヤルモから放たれた無数のロケット弾や弾丸、高出力のビームは、駄々っ子みたいにバタバタしているギカントサイクロプスに全て着弾。爆炎を吹き上げ、ビームはギカントサイクロプスの尻から頭にかけて貫通し、奥の壁をえぐる。
「ファイアー」
『ファイアー』
爆炎で視界が悪いので、ヤルモは追い討ち。本当は最初の発射でギカントサイクロプスは死んだから完全にオーバーキルだ。
「ゼェーゼェーゼェーゼェー……」
たった数分使っただけで、変形を解いたヤルモは虫の息。仰向きに倒れて息を整えている。そこにイロナが顔を覗き込んだ。
「主殿! やはりそれは面白いな!! 口からなんか出てドラゴンみたいだったぞ!!」
「はぁはぁ……気に入ってくれているのはいいけど、はぁはぁ。ちょっと使っただけでもしんどいんだよ。はぁはぁ」
「まさに切り札だな!!」
ヤルモが疲れ果てていてもイロナはお構いなし。珍しく「キャーキャー」言ってるよ。
イロナのテンションが高いなかヤルモが息を整えていたら、口をあんぐり開けていたオルガとリュリュ、一度見たことのあるクリスタが遅れて走って来た。
「「さっきの攻撃魔法はなんだったのですか!!」」
初見のオルガとリュリュはうるさいので、ヤルモは面倒くさそうに答える。
「なんでもない。詮索するな」
「なんでもないことはないでしょ!」
「僕もあんな魔法が使いたいです~」
「頼むから聞かないでくれよ~」
ヤルモが情けない声を出して困っていると、クリスタが二人の肩を叩く。
「ほら、ヤルモさんが困ってるでしょ」
「「でも~」」
「いま見たことは口外無用。言ったら私は怒るよ。忘れなさい」
「「そんな~」」
クリスタが冷たくあしらうと、オルガとリュリュも情けない声を出した。
「ヤルモさん。立てる?」
その声を気にも掛けず、クリスタはヤルモに手を伸ばす。
「……ああ。すまない」
まさかクリスタが自分をかばってくれるとは思っていなかったヤルモは、クリスタの手を掴んで立ち上がる。
「それじゃあ、アイテムを回収して帰ろっか」
「ああ……」
クリスタに笑顔を向けられたヤルモは、何やら考えながら歩き出した。
この女、何か俺を嵌めようとしているのか?
いや、あの笑顔はそんなことを考えているように見えない。
いやいや、弱味を握って俺を脅そうとしてるはずだ。
今まで気付かなかっけど、意外とかわいらしい顔をしている。
胸は残念だが、ひょっとして俺に気があるのかも? いてて。
不穏なことを考えていたヤルモは、イロナに腕を折られかけて気を取り直す。
「いま、私を貧乳とか思ってなかった?」
ついでにクリスタにも殴られたが、ヤルモは痛みすら感じず、イロナに何か言い訳していた。
そうして両手に花っぽくヤルモがギカントサイクロプスがダンジョンに吸い込まれていた辺りまで進むと、宝箱があったのでヤルモはイロナに質問する。
「宝箱のドロップって、魔王だけじゃないのか?」
「今回は当たりのようだな。たまに普通のボスでも宝箱を落とすことがあるのだ」
「なるほど……ラッキーなんだ」
「ねえねえ? 私が開けていい??」
「勝手にしろ」
二人で喋っていたら、クリスタが嬉しそうに言って来たのでヤルモはぶっきらぼうに答えた。
「あっ! この剣……」
「おお~。これまた運がいいな。イロナが使うか?」
ダンジョンで手に入れたアイテムは契約上、全てヤルモの物。なので豪華な剣を見てクリスタが顔色を変えていても、ヤルモは嬉しそうにイロナに手渡した。
「ふむ。レジェンドか……短いな」
「その剣が長すぎるんだよ。予備で持っていてもいいんじゃないか?」
「それもいいが……勇者が欲しがっているぞ」
現金なヤルモは宝箱にしか興味なかったので、クリスタの顔を見ていなかったから意外にもイロナが、クリスタが物欲しそうにしていることに気付いたようだ。
「え? いや、私は……いらない!」
「何か思い入れがある物ではないのか?」
「そうなのか??」
「まぁ……代々王家に伝わる勇者の剣だから……」
「おいおい。先に言えよ。イロナがいらないなら勇者にやるけどいいか?」
「うむ。好きにしろ」
ヤルモとイロナがレジェンド武器を手離すと言うと、クリスタはキョトンとする。
「い、いいの? 売ったら高いよ??」
「そんなもん持ってたら俺が盗んだと疑われるだろ」
「そっちか~~~」
残念なヤルモ。クリスタのために譲っているわけではなかったので、好感度は微妙に下がった。
「せめてレジェンド武器ぐらい装備していないと楽しめないからな」
「そっちもあったか~~~」
残念なイロナ。クリスタと対戦する時に、自分が楽しむためには必要な装備と思って譲っただけだった。もちろん恐怖度は一段上がっていた。
「さてと、地上に帰るか~」
こうして第一回特級ダンジョン攻略は、勇者クリスタの活躍はいまだに無いまま終わりを告げるのであった。
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