229 特級ダンジョン7(アルタニア帝国)


 地下140階のセーフティーエリア。栄養ドリンクを使ったヤルモとイロナはガンガンイッていたが、そのせいで虫の息。抱き合ったまま12時間も目が覚めなかった。


「つつつ……」

「ん、んん~……」


 目が覚めたら、ヤルモはイロナの上に乗ったままで痛そう。しかし、ヤルモの下で抱きついているイロナは寝惚けているのか、腕に力が入ってしまった。


「グギギ……イロナ! 起きてくれ~~~!!」


 いまだにイロナに両手両足で抱き締められていては、ヤルモのHPはグングン下降。必死に大声を出してイロナを起こしたヤルモであった。



 昨夜は楽しんだまま二人は気絶してしまったので、まずはお風呂から。お互い気まずいからか、距離を取って体を洗っていた。

 それから朝食をガツガツ食って、もう少し体を休める二人。イロナは初めての体験で疲れていたし、ヤルモは身体中がバッキバキで痛いから休まざるを得ない。


 予定より四時間も長く休息を取ったヤルモとイロナは、装備を整えてセーフティーエリアを出るのであった。



 地下141階からは大型のモンスターが増え、ガンガン行ってもイロナでもすぐに倒せないので、ヤルモの出番が増える。

 といっても、イロナは一対多数をご所望らしいので、ヤルモの元へは一匹から二匹しか回って来ない。それでも、今まで潜ったダンジョンの中では一番のモンスターレベルなので、ヤルモは倒すのに時間が掛かっている。


 一匹の場合は大盾で守り、剣で斬り付けて確実に倒す。二匹になったら、部分変型モードのロケット弾で牽制しつつ、極力一対一の戦いに持って行く。

 さすがはヤルモ。多少苦戦しても新しい戦い方も取り入れて、着実に倒して経験値を稼いでいる。


 フロアが変わるとさらに大型モンスターが増え、ヤルモの出番が増える。一対三になり、多い時は五匹を同時に相手取る。

 その場合は、軍服少女人形のナビに頼み、ロケット弾を乱発して時間差を作り、一匹ずつ仕留めていくヤルモ。


「ふむ。なかなか板に付いて来たんじゃないか?」

「多いと思ったら、やっぱりイロナのせいか!?」


 そう。爆発音が聞こえていたから、イロナはヤルモの戦法が見たいがために手を抜いて、ドラゴン以外の巨大モンスターを送り込んでいたのだ。


「いい運動になったであろう?」

「はい……」


 しかし、イロナブートキャンプの生徒には「イエス」の発言しか許されない。ここからはイロナより多くの巨大モンスターを倒すハメになったヤルモであった。



 地下141階からは蒸し暑くなっていたので、体温調節マントを着用して先を進む二人。そうして適温で進んでいたら、144階に到着した。


「やっぱりマグマフロアか」


 暑さからヤルモは予想していたマグマフロアに足を踏み入れたら、作戦会議。


「どうせ敵は弱いし、一気に駆け抜けないか??」

「いや、宝箱は回収したいんだけど……上もけっこう良い値のアイテム出たし」

「また金か……致し方ない」


 マグマフロアは経験値的には美味しくないのでイロナは最短距離を行きたいようだが、最下層間近で稼ぎがいいからヤルモとしてはなんとしても回収したい模様。

 お金の話をすればイロナは渋々納得してくれたので、ヤルモは胸を撫で下ろして前を歩く。

 しかし、イロナがけっこうノリノリ。モンスターが弱いと言っていたわりには、倒したことのない炎属性のモンスターがそこそこ出るので率先して倒してくれている。

 ヤルモも負けじとファイアー。近付くのは面倒なのか、遠距離からロケット弾を撃ってモンスターを倒していた。


「けっこう長かったな」

「うちより短かったぞ」


 マグマフロアは5階もあったので、ヤルモは初。トゥオネタル族ではもっと長かったので、イロナは気にもならないらしい。


「そんなところをマジックアイテム無しに進んでいるのか……」


 文化の違い。というか、これは肌の違い。トゥオネタル族の男は頑丈な皮膚を持っているから温度差に強いのだ。

 女性の中では、イロナだけが例外。防御力で耐えただけ。他の女性は、男が道を調べてから最短距離を走り抜けるので、最下層までなんとか辿り着けるのだ。



 それからも順調に進んでいたらフロアが涼しくなり、152階からはフロストフロアに突入。ここも宝箱を回収しながら進み、氷属性のモンスターは木っ端微塵。


「主殿、かき氷だ」

「う、うん……かき氷だな」


 イロナが作り出した物は、見た目はイチゴシロップのかき氷。ただし、素材は細かくしたフロストゴーレムに、イエティエンペラーの血を掛けた物なので、ヤルモはドン引き。

 しかし、イジメられっ子のヤルモには聞いておかないといけないことはある。


「それって……俺に食えとか言わないよな??」

「すぐにダンジョンに吸い込まれるから、食べられるわけがなかろう」

「だよな~」


 ヤルモ、心の中で「セーフ!」と両手で広げる。そして、イロナ取り扱い説明書に「雪山危険」と書き加えられるのであった。


 こうしてフロストフロアも楽勝で抜け、ガンガン進み、地下159階に足を踏み入れる二人であった。

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