228 特級ダンジョン6(アルタニア帝国)


「あ~……しんど」


 剣とロケット弾でタコ殴りにしたヤルモは、ドラゴンゾンビがダンジョンに吸い込まれると、その場にドスンと腰を落とした。


「主殿! 凄いブレスを吐いていたな! 本物のドラゴンみたいだったぞ!!」


 そこに、後ろで見ていたイロナが一瞬で合流。キャピキャピとヤルモに質問している。


「う~ん……普通に撃つより、エネルギーが分散していたな」

「それでも面白かったぞ。それに、思ったより時間が掛からなかったじゃないか」

「外からでも攻撃ができるのは大きいな。でも、MPはごっそり持って行かれた」

「ふむ……前ほど疲労がないから、そこそこ使えるのではないか?」

「あ~。確かにな」


 戦車モードは短時間でも使うとしばらく動けないほど疲れるので、これならヤルモもこれからの戦闘に組み込んでもいいかと考えた。


「クックックッ。新戦法か……どれほどのものか楽しみだ。クックックックッ」


 しかし、イロナが妖しく笑っているので却下した。その顔は、ヤルモとのガチバトルを望んでいる顔だから……


「そういえば、女の子が消えているぞ」

「マジで? なんだったんだろう……」

「我に聞くな。主殿の能力だろうが」

「まぁいっか。下に行こうぜ」


 ナビの軍服少女人形が消えていても気にしないヤルモ。あんな物が頭に乗っていたら、誰かに見られた時に世間体が悪いので、どちらかというとホッとしている。

 ドラゴンゾンビのドロップアイテムを回収したヤルモは、素材と魔石だけだったのでガッカリ。「どうして俺だけ……」とかボヤキながら階段を下りる。


 地下100階のセーフティーエリアで夜営の準備をしたら、ヤルモクッキングの開始。今日も同じメニューだったので前回より上手くできていたが、三日連続同じメニューでは二人とも飽きて来たようだ。

 それからお互い体を拭き合って、イロナのお仕事。ただ、今朝の栄養ドリンクのことはイロナは忘れていたようなので、ちょっと痛い程度で済んだヤルモ。

 この日は、生きていることに感謝して眠るヤルモであった。



 地下101階からも相も変わらず『ガンガン行こう』。かなりモンスターは強いようだが、二人の敵ではない。というか、トゥオネタル族のダンジョンの上層と同じくらいのレベルのモンスターなので、イロナのテンションが高い。


「まるで故郷に帰って来たようだって……上とあんまり変わらないじゃないか」


 里帰り気分を出していたイロナに、ヤルモはボソッとツッコミ。オークエンペラーが小間切れになっていては違いがわからないのだろう。

 かといって、ヤルモも急いで倒さないとイロナに経験値を持って行かれるから、防御をほとんど捨てて戦っている。部分変型モードはMPが減るから使いたくないようだ。


 そうしてガンガン攻略していたら、お昼の時間。階段に腰掛けて、携帯食を腹に入れる。


「ちょっと剣を見せてくれ」

「ん」


 食事をしながら、時間短縮で装備のチェック。イロナのロングソードを受け取ったヤルモは、パンをかじりながらジックリと見ている。


「ちょっと飛ばし過ぎだな。このままじゃ、最下層まで持たないかも」

「むう……楽しくなって来たところなのに」

「レジェンドの剣と槍があっただろ? しばらくそっちに変えよう」

「うむ。どっちで行くか……」


 イロナの剣は、目に見てわかるほど切れ味が落ちていたのでチェンジ。お気に入りの剣が使えないのは残念そうなイロナだが、折るわけにもいかないので新しい武器を選ぶ。


「うむ。そうか。新入りのお前が戦いたいんだな。わかったぞ」


 その結果、普通の長さの剣に決定。


「いま、誰と喋ってたんだ?」


 以前、イロナはロングソードとも喋っていた姿を見たことのあるヤルモは、気になって聞いちゃった。


「こいつだ。血を吸いたいと言っていた」

「へ、へ~。頼もしいヤツだな」

「うむ」


 なのに、イロナはレジェンドの剣を撫でながら紹介してくれるので、ヤルモは合わせるしかない。マジで喋れると思って怖くなったから……


 ちなみに真実は、イロナのお茶目な一面。一人でダンジョンに潜ることの多かったイロナは、剣に喋り掛けて暇を潰す特技を身に付けていただけなのだ。



 お昼休憩を終えたら、いつも通り『ガンガン行こう』。イロナの剣が変わったこともあり、またテンションが上がってモンスターが斬り刻まれている。

 攻撃力も上がっているので攻撃回数が減っていては、ヤルモにモンスターがあまり回って来ない。なので、使いたくなかった部分変型モードで当て逃げ。

 イロナのターゲットになる前のモンスターにロケット弾をぶつけて経験値の足しにしている。


 そうこうしていたら、地下120階の手前に到着。


「アレ? レアボスじゃないな」

「レアなのだから、そう何度も出るわけがないだろう」

「あ、そうか。じゃあ……」

「行くぞ~~~!!」

「待ってくれ~~~!!」


 イロナと一緒に戦いたいヤルモであったが、イロナは巨大なカイザーキマイラを見てフライング。いちおう大きさとHPが多かったので、ヤルモにも経験値が回って来たのであった。



 カイザーキマイラをタコ殴りにした二人は、今日の夜営地点、地下120階のセーフティーエリアで夜営。この日もイロナからあまり襲われなかったので、ヤルモは安心して眠っていた。

 そして翌日もガンガン進み、モンスターを蹴散らして140階のセーフティーエリアへ。またレアボスが出なかったし宝箱も出なかったので、ヤルモはガッカリしていた。


 このセーフティーエリアは温泉が湧き出ていたので、食事が終わったらさっそく飛び込んだ二人。ついでに人がいないことをいいことに、何やらヤッていた。

 そのせいで疲れた二人は、ゆっくりと湯に浸かって疲れを落としていた。


「ふぅ~。スタンピートがあったということは10階増えてるから、残りは20階か。ここで長時間休んでから行こうぜ」

「うむ。栄養ドリンクもあるのだから、何回でもヤレるな」

「へ??」

「クックックッ。楽しみだな。な?」

「覚えてたの~~~!?」


 イロナがサービスを減らしていたのは、今日の布石。ヤルモの体を万全にし、栄養ドリンクを使えばどこまで耐えられるか確認をするため。


 こうしてヤルモは、長時間の拷問を受けると知って、恐怖におののくのであった……

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