063 スタンピード5


 勇者クリスタが戦っているワイバーンジェネラルにイロナが向かって行くと、タピオはドロップアイテムの回収。なかなか大きな魔石とレアアイテムを拾って、ホクホク顔でイロナの元へ戻った。


「どうした? 横取りしないのか??」


 イロナは腕を組んだままクリスタの戦いを見学していたので、タピオは酷い質問をしていた。


「うむ。もう少し様子を見ようと思う」

「へ~。珍しいこともあるんだな」


 タピオは自分が戦っている時は躊躇ちゅうちょなく奪うのにと、本当に感心している。だが、クリスタの戦いも気になるので目を移していた。


「なんとか踏ん張っているみたいだけど、かなり押されているな~」

「だな。ギリギリの戦いは見るのも面白い」


 まさかのドS発言に、タピオはそんなことのために横取りしなかったのかと思う。ただし、タピオは助けないと言っていたわりには、すぐに動けるように鉄球を握っていた。



 クリスタとワイバーンジェネラルの戦いが長引くと、大きく動き続けていたクリスタのスタミナに限界が来る。クリスタは剣で攻撃を加え、後ろに跳んだところでよろけてしまった。

 ワイバーンも満身創痍ではあるが、クリスタよりは余裕があったので、振り向き様の尻尾の叩き付け。

 その痛恨の一撃は、バランスを崩したクリスタでは避けられず、軽々吹っ飛ばされるのであった。


「ヤバッ!!」

「待て!!」


 ワイバーンジェネラルがトドメを刺そうとクリスタに迫るなか、タピオは鉄球を振りかぶるがイロナに止められた。


「奴はまだやる気だ」


 そう。クリスタはワイバーンジェネラルの痛恨の一撃を、剣の腹で受け止めてダメージを減らしていたのだ。


「でも、限界じゃないか?」


 ヨロヨロと立ち上がったクリスタを見て、タピオはドクターストップだと物申す。


「あの目を見て、主殿は止められるのか?」


 クリスタの目は、まだ死んでいない。それどころか、先ほどより強いオーラをまとっているように見える。


「遠いからちょっと……あいてっ」


 でも、イロナより目のよくないタピオには見えないようで、イロナに肘でこづかれてクリティカルヒット。タピオはダメージを受けたので、膝を突いて助けに行けなくなった。



 その間に、最終局面。クリスタは踏ん張って駆け出すと、ワイバーンジェネラルの奥の手。炎のブレスが放たれた。


「うおぉぉああぁぁ!!」


 そこを自分に風魔法を当てての大ジャンプ。クリスタは炎のブレスを間一髪避けきり、無防備のワイバーンジェネラルの頭に剣を突き刺した。


「死ねぇぇぇ!!」


 暴れるワイバーンジェネラル。トドメを刺そうと剣を押し込むクリスタ。

 ワイバーンジェネラルは頭を振り回し続けるのでクリスタの手は剣から離れ、空高く打ち上がるのであった。



「ふぅ~……間に合った。イロナが走れば余裕なのに……」


 一瞬意識のとんだクリスタは、気付けばタピオの腕の中。クリスタにはタピオの愚痴は何を言っているのか理解できないが、まだ戦闘中だとはわかっている。

 なのでタピオを突き放し、フラフラな足取りでワイバーンジェネラルに向かう。


「お~い。もう終わっているぞ~」

「あ……」


 まだ戦おうとするクリスタにタピオが声を掛けると、ようやくワイバーンジェネラルが地面に吸い込まれている姿に気付いたようだ。


「お疲れさん」

「は……はい~」


 タピオに肩を叩かれて緊張の解けたクリスタは、へなへなと腰を下ろすのであった。



「ん。ポーションだ。飲んでおけ」

「あ、ありがとう」


 HPもMPも残りわずかなクリスタは、タピオに出されたポーションをゴクゴク飲んで少しは回復したようだ。


「あと、これな。お前の取り分だ」


 タピオはクリスタが倒したワイバーンジェネラルの魔石とドロップアイテムを差し出すが、クリスタは押し返す。


「い、いえ。勝手に戦闘に参加したんだから貰えないよ」

「いいから受け取れ。格上との死線を乗り越えたんだ。記念に取っておくもんだ。ま、勝てない敵に挑んだ戒めでもあるがな」


 冒険者なら極力危険を避けて利益を得るのだから、タピオの言い分はクリスタでもわかる。しかし、クリスタはギリギリの戦いを制した記念に貰うことにしていた。


「それと、少し見直した。これぞ勇者って感じだったぞ」

「本当!? じゃあ、私のことは信じられるようになったのね!」

「それはちょっと……信用させてから裏切るんだろ?」

「プッ……だからそんな勇者じゃないって~」


 いまだに信用しないタピオに、クリスタは褒められたからか嫌な気はしていない。小さく吹き出して笑っていた。

 そこに、イロナからも労いの言葉。


「さすが勇者といったところか……追い込まれてからの成長はよかったな」

「イロナさんにも認めてもらえるなんて……」

「次も格上を相手取れ」

「へ??」


 イロナにも褒められてクリスタは嬉しそうな顔をしたが、次の言葉に悪寒が走る。


「ギリギリの死線を数多く乗り越えれば早く強くなる。我と戦う日も早くなるってものだ」

「えっと……イロナさんと戦いたくないんだけど……」

「何を腑抜けたことを言っている! これからビシバシしごくからな!!」

「むむむ、無理ぃぃ~! 助けてタピオさ~ん!!」


 今まで強気なことを言っていたクリスタでも、イロナの殺気に当てられては逃げ出してしまった。しかし、タピオの後ろに隠れても意味がない。


「主殿も早くレベルアップしろ!!」

「はい!!」

「ええぇぇ~!!」


 そう。性奴隷であるイロナの主ですら、イロナブートキャンプの生徒なのだ。タピオの敬礼を見たクリスタは、早くも味方を失うのであったとさ。

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