201 新・四天王1
グラマーな美女アルヤ、執事風の老紳士クスター、冒険者風の若い男ライネ、ゴシックロリータ姿の少女パウリーナ。
カイザーヴァンパイアの証である赤黒い髪の毛以外は見た目がバラバラな新・四天王の登場で、オスカリたちは固まって喋る。
「チッ……四天王がいるのは想定外だ」
「う~ん……」
オスカリが愚痴っていると、ヤルモはライネの顔を見ながら何か唸っているので気になって質問する。
「どうした?」
「あの少年みたいな顔の男……どっかで見たことがあるんだよな~」
「知り合いか??」
「いや……確か冒険者ギルドで……あっ! 俺のことを馬鹿にして来たヤツだ」
「なんだそりゃ」
「オッサンのクセにDランクがどうのこうの言って来てな。無視してるのに、冒険者カードをチラつかせて来た若僧だ」
ヤルモがDランクなのもおかしな話だと思ったオスカリであったが、それよりもカイザーヴァンパイアの情報が気になる。
「そいつのランクはなんだったんだ?」
「Bランクだ。数年前にすぐに上がったとか言ってたから、いまはAランクになっていたかもな」
「てことは~……それより強くなってるってことか」
「だな」
ヤルモとオスカリが喋っていたら、アルヤが口を開く。
「もうよろしくて? 作戦は決まったのかしら??」
「まだだ!」
オスカリが即座に解答すると、意外にも待ってくれるらしいので、コソコソと作戦会議を続ける。
「嬢ちゃんは強いから一人でいいとして、俺たちは二人ずつに分かれるぞ」
普通の四天王より強いと予想する新・四天王相手に一人では立ち向かえないので、平均的な戦力にしようするオスカリ。しかしヤルモがそれを反対する。
「いや。勇者パーティはバラけるより、固まって戦うべきだ」
「嬢ちゃんは二体を相手して、お前は一人で戦うってか??」
「それも違う。二体相手取るのは、俺だ」
「お前が? アホか。瞬殺されるぞ」
オスカリはわざときついことを言って止めるが、ヤルモには作戦があるようだ。
「イロナと勇者パーティで早急に倒したほうがスタミナが温存できるはずだ。違うか?」
「確かに最初の作戦ではそうだったけど……」
「耐えるのは俺の得意分野だ。お前たちが早く倒してくれたら、俺は死なん」
「本気なんだな?」
ヤルモが頷くと、オスカリはイロナにも聞いてみる。
「お前の男がこんなこと言ってるぞ?」
「本当は我ひとりでやりたかったんだがな~……主殿がどこまで戦えるか見るのも面白そうだ。クックックックッ」
「ちょっとは心配してやれよ」
イロナのあまりにも酷い発言に、オスカリはヤルモを憐れんで背中をポンッと叩いた。それを合図に、ヤルモが一番前に躍り出る。
「俺ってこん中で一番強いんだ。一匹じゃ物足りないから、二匹で来いよ」
ヤルモの挑発に、アルヤは笑いながら応じる。
「フフフ。あなた方の作戦なんて、聞こえていたから筒抜けですわよ」
「なんだよ。そう言ってくれてたら小声でやらなかったのに」
「あなた方が馬鹿なだけですわ。本当はあなたが一番弱いのでしょ? だから、引き付け役に立候補して時間稼ぎしようと……」
「そうだよ。一分も耐えれば、あいつらは必ず助けに来てくれる」
「フフッ……フフフフフ。わたくしたちを相手に一分で倒せると思っているなんて傑作ですわね。わかりましたわ。その愚策、乗ってあげますわ」
アルヤはすんなりとはいかないがヤルモの提案に乗ってくれたので、イロナと勇者パーティは右と左に分かれて歩き出した。
「クスター。あなたはあの女をよろしく。ライネは集団よ。私はこの男が気に入ったから、パウリーナと血をすするわ」
アルヤが
「さあ! 一分でしたわね。耐えてみせなさい!!」
十分距離を取ったら、新・四天王との戦闘は開始。アルヤの声と共に、両サイドで戦いが始まった。
「来ないのか?」
両サイドから戦闘音が聞こえたのだが、アルヤとパウリーナは動かない。
「どうせすぐ倒せるのですから、一分ギリギリに動けばいいことですわ」
「ナメやがって……」
ヤルモが怒りの表情を見せると、アルヤは笑いながら剣を抜き、パウリーナも杖を構える。
「「……」」
「……」
そしてお見合い。
「来ませんの??」
なので、今度はアルヤがヤルモに尋ねた。
「ああ。ギリギリなら、一分持たせる目標が達成できるかもしれないし……」
「意外と冷静ですのね。でも、一分持ったところで結果は一緒ですわよ」
「俺は仲間を信じてる!!」
ヤルモが大声を出すと、アルヤだけでなくパウリーナも笑い出し、本当に一分ギリギリまで攻撃が来ない。それどころか、一分はとうに過ぎてしまった。
「ほらね? 誰も助けに来なくてよ??」
「じゃあ、もう一分待つだけだ! すぐに来てくれると信じてる!!」
「すでに裏切られていると気付きなさい」
アルヤは呆れ笑いをしているが、ヤルモは大盾を構えたままずっと真面目な顔をしている。
「もういいですわ。これもあなたの苦し紛れの時間稼ぎですのよね? いま、私の眷属にしてあげますわ」
ヤルモの策は、アルヤの言った通りだろう。それを簡単に看破したアルヤは、素早く動いてヤルモの背中を取った。
「ぐっ……」
「そう来ると思っていた」
しかし、ヤルモはアルヤが噛み付こうとした瞬間に、タイミングよく剣を脇から出してアルヤの腹筋を貫いた。
「オラッ!」
「遅いですわ!!」
剣を振っての追い討ちは失敗。アルヤは後ろに跳んで大きく距離を取った。
「それがどうしたのですの!」
ヤルモから不意の一撃をもらったアルヤはいきり立ち、最高速の斬り付け。ヤルモは冷静に大盾で受けるが、その攻撃は止まらない。
「ほらほらほらほら! 攻撃もできないのですの!?」
その斬撃は凄まじく、ヤルモは追い込まれているように見える……
「なんで一発も当たらないのですの!?」
そう。亀のようになって劣勢に見えるが、これはヤルモの予定通りの行動だ。
イロナの猛攻を毎日のように受けていたヤルモだ。アルヤの剣など止まって見える。
わざわざヤルモらしくないことを叫んでいたのも、本当に弱いと思わせたかったから。ナメてもらっていたほうが時間が稼げると予想しての行動だ。
「もう三分ぐらい経ったか?」
アルヤが一度距離を取ると、ヤルモは不適に笑った。
「チッ……パウリーナ。あなたも手伝いなさい。こいつのプライドをへし折るわよ」
その笑いが気に入らないと、アルヤはパウリーナを使う。
こうしてアルヤとパウリーナの攻撃は、さらに激しくなって行くのであった。
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