015 初級ダンジョン1
タピオが肌を削られてグロッキー状態で眠った翌日……
今日もイロナが腕の中で眠っていたことに驚いて、完全に目が覚めるタピオ。それから出掛ける準備に取り掛かり、タピオはいつもの皮の胸当て。イロナは昨日買った中級の軽鎧を身につける。
「主殿は、それだけでダンジョンに潜るのか?」
今日の予定を知っていたイロナは、タピオの装備が気になるようだ。
「ああ。今日は初級ダンジョンに潜るからな」
「なんだと……我のテクニックを受け入れるために、死ぬ気でレベル上げをするのではないのか……」
「そう睨むなよ。冒険者ランクを上げないと、上級ダンジョンに入れないルールになっているんだ。仕方がないんだよ」
「ふむ……人族とは、変なルールがあるのだな」
なんとかイロナも納得してもらえたが、それならばと、イロナも普段着用のラフなパンツルックでダンジョンに挑むようだ。イロナの強さを理解しているタピオは止めることもせずに、準備を済ませたら二人で宿屋を出る。
今日もイロナは腕を組んで歩き、タピオはモッコリ時々タップ。胸の柔らかさと痛みに耐え、初級ダンジョンに辿り着く。
「ほう……こんなに整備されているのか」
初級ダンジョンといえども多少の危険があるので頑丈な壁に囲われ、衛兵なんかも常駐しているので、イロナは不思議に思う。
「他の町でもだいたいこんなもんだよ。この町には、中級と上級も別の場所にあるみたいなんだ」
「我の故郷にはひとつしかなかったのに、面白い町もあるものだな」
「へ~。ま、話は中ででもできるだろ。先に通ってしまおう」
二人は衛兵に冒険者カードを見せて、必要な書類の空欄を埋める。
その時、ダンジョンボスを倒すと書いたため、「そんな装備で舐めているのか」と言われる一幕はあったが、タピオが高レベルの武道家で再登録し直したと説明して、なんとか通してもらった。
多少の揉め事はあったが、イロナもキレることなくダンジョンに入れたので、タピオは胸を撫で下ろしていた。
「ここで何階まであるのだ?」
地下一階に下りたイロナは、腕を組んだままタピオに問う。
「さっき見たフロアガイドでは、地下10階となっていたな」
「10階? そんなに少ないのか??」
「初心者用だからな。それでも冒険者に成り立ての者は、一階で小銭を稼ぐのがやっとなんだ。ちょうど、あいつらが新米冒険者だと思う」
辺りを見渡すと、数組のパーティが奥へと進んでいる姿があり、一組はスライムと戦っていた。
タピオたちはそれに気を掛けることもなく、先へと進む。
「ところで、イロナの故郷にあるダンジョンは何階あったんだ?」
「270だ」
「270!?」
イロナからあり得ない数字を聞いたタピオは驚きを隠せない。
「そんなに驚くことなのか?」
「こっちでは、上級で100階以下だぞ。それより上が、特級……魔王が発生したことのあるダンジョンなんだ。俺が知ってる一番深いダンジョンで、150階なんだよ」
「そんな所に出る魔王なんて、高が知れているだろうな」
「いや、魔王だぞ?? 人類の敵なんだから、強いに決まっているだろ??」
「まぁ強いは強いが、我が苦戦する程度だ。パーティで二度、一度は単騎で倒したぞ」
あまりに驚く話を聞いて、タピオの質問は止まらなくなる。
人族の領域ではダンジョンを管理し、魔王が発生しないように何度も最下層に居るダンジョンボスを倒しているのだが、トゥオネタル族ではやっていないらしい。
どうせ魔王が発生したらダンジョンが唸ってモンスターが一斉に地上に移動するスタンピードが起こるから、その時に一掃すれば事足りるとのこと。
その日は、トゥオネタル族上げてのお祭りになるらしく、赤子と母親を残した全員でダンジョンに突撃するそうだ。ただし、イロナは暇潰しで一人で潜り、ダンジョンボス以外の小ボスや中ボスを倒していたらしい。
そこで魔王討伐は、早い者勝ち。パーティでガンガン地下に潜る者もいれば、イロナのように単騎で潜る猛者もいるようだ。
「トゥオネタル族……凄まじいな。俺の知ってる勇者パーティなんて、道中のモンスターですら苦戦していたのに……」
適当に歩き、階段を下ったところでタピオは息を呑む。
「そういえば、主殿は勇者パーティに属していたと言っていたな。勇者とは、そんなに弱いのか??」
タピオの呟きを聞いて、イロナは勇者に興味を持ったようだ。
「あくまでも俺の知ってる勇者は弱かった。俺一人で戦って、なんとか魔王がいる地下150階まで辿り着いたんだが、負けたらしい」
「ほう……主殿のレベルでそこまで行ったのか。我が同じレベルの時では、一人で100階すら厳しかったぞ」
「いやいや。満身創痍だ。だから帰還を促したんだがな~」
「勝手に魔王に挑んだと……意気込みは買うが、そいつらは馬鹿なのか? トゥオネタルの若手でも、上の者の助言は聞くぞ」
イロナの言葉に、タピオはキョトンとする。
「どうかしたか?」
「いや……俺のせいで、勇者が死んだと言われていてな。イロナにも俺が悪いと言われると思って……」
「主殿は我をなんだと思っているんだ。我だって命は大事にしているぞ。まぁ子供の時に逃げ帰っただけだがな」
「そうなんだ……」
イロナが責めて来ないから少し嬉しくなったタピオであったが、イロナが子供の頃からダンジョンの奥深くに潜っていたと知って、少し怖くなるのであった。
それから適当に歩いていたタピオたちであったが、イロナは気になることがあるようだ。
「ところで、さっきからたまに向かって来るこいつらは、なんなんだ?」
二人が雑談しながら歩いている間も、スライムやゴブリンが攻撃を仕掛けるが、二人は一蹴。イロナと腕を組んだままタピオはケンカキック。イロナも素早い蹴りを入れて一撃で殺していた。
「イロナは見たことがないのか? いちおうモンスターなんだが……」
「これが!?」
どうやらトゥオネタル族のダンジョンでは、こんな吹けば飛ぶようなモンスターは出なかったらしく、イロナは珍しく驚きの声をあげるのであった。
ちなみにタピオは、そんなイロナの顔を見れて、でれ~んと照れていたけど……
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