115 新メンバー発掘3
侯爵家当主に凄い剣幕で怒られたテッポは涙目。ヤルモに向けて二人で頭を下げ、誠意ある謝罪をしていた。
当のヤルモはポカンとしているだけで何もできない。後日、謝罪の品も送ると言われてもいたが、クリスタが対応していた。
それから当主はテッポに罰を与えると言って、馬車に揺られて帰って行くのであった。
「ヤルモさん。大丈夫?」
「あ、ああ……」
「さっきからどうしたの??」
ずっと上の空のヤルモを見て、クリスタは不思議そうに問うた。
「いや、てっきり、また冤罪で捕まると思って……」
「なんで冤罪で捕まるのよ。これが普通。調べもせずに捕まえるあの国の法律が腐ってるんじゃない?」
「そうなのか?」
「さあ、解決したし、ごはん食べに行こう!」
クリスタはヤルモの質問に答えずに歩き出す。ヤルモもそれに続き、恩着せがましくしないクリスタのことを、ちょこっとだけ見直すのであった。
適当なお店で食事を済ませた勇者一行は、お腹パンパン。クリスタはあまり料理店を知らなかったのでヤルモに任せたら、庶民の店だったから「勇者様が来てくれた~!」と、サービスが凄かったのだ。
冒険者ギルドに戻っても、しばらく動けないほど。ようやく腹が落ち着いて来たら、クリスタは書類を見ながらげんなりしている。
「多い……眠い……」
「寝るな! お前の仲間候補だろ!」
「だって~」
クリスタは集中力が切れたので、ヤルモにほとんど押し付けている。ヤルモはヤルモでやりたくてやっているわけでもないので面倒になっている。
「てか、勇者か聖女の友達か知り合いで、レンジャーとかいないのか?」
「私、最近まで教会にいたんだも~ん」
「私もずっと教会にいましたから、戦闘職の方はちょっと」
「……二人とも友達いないんだ」
「なっ……ヤルモさんより多いわよ!」
「そうです! ヤルモさんはいるのですか!?」
「お、俺はいいんだ……一人が好きだから……」
ヤルモは同志を見付けて嬉しくなって呟いただけであったが、二人に責められてたじたじ。さらに、イロナにも友達がいると知って、落ち込みながら標的を変える。
「リュリュはどうだ? 知り合いにいないか??」
「シーフでしたら友達に一人いますけど……」
「リュリュにも友達いるんだ……」
わざと知り合いと言ったのに、リュリュが友達と言ったがためにヤルモはズーンと落ち込む。イジメられっ子だったから、友達いない仲間だと思っていたようだ。
「なんて名前??」
「ヒルッカです」
クリスタも仲間探しが面倒だからとリュリュの友達にすがる。名前を聞き出したクリスタは「さっき見たかも?」とか言って書類の山をゴソゴソして発掘した。
「あったけど……この犬人族の女の子で間違いない?」
「はい……」
「魔法アカデミーの子じゃないんだ。冒険者として登録はしているけど、ここ最近アイテムも持ち込んでないし、レベルも5って……」
「それは違うんです! 入ったパーティが悪いと言うか……」
「どういうこと?」
「ヒーちゃんは……」
リュリュの説明では、ヒルッカはリュリュの幼なじみ。冒険者になったのも同時で、二人で一緒に活動していたそうだ。
しかし、リュリュは魔法の才能があると冒険者ギルドから魔法アカデミーに入ることを勧められ、ヒルッカにも奨学金も出るからと背中を押されて入学した。
パーティを解散したリュリュは勉学で忙しく、魔法アカデミーから出ることは少なかったのだが、たまたま所用で実家に顔を出した時にヒルッカの境遇を聞いた。
ヒルッカはとあるパーティに属し、荷物持ちとしてこき使われていると……
そこでリュリュはヒルッカの帰りを待って問い詰めたら、そのパーティに借金を作ってしまったので抜けるに抜けられないとのこと。
仕事も雑用だから給金も少なく、パーティ申請もしてもらえずレベルが上がらない。休日は全員分の武器防具の整備をさせられて潰れるから稼ぎにも行けない。これらのせいで借金の利子を払うだけで精一杯になっていた。
久し振りに会ったヒルッカは疲れきっていて、リュリュの記憶の中のヒルッカと様変わりしていた。だが、リュリュもお金に余裕があるわけもなく、小銭を握らせることしかできなかったそうだ。
「完全にブラックパーティだな」
話を聞き終えたヤルモが呟くと、クリスタは質問する。
「ブラックパーティ?」
「低レベルの新人冒険者にありがちなんだ。甘い言葉でパーティに誘われて、荷物持ちにされる新人冒険者がな。たぶん借金も、装備を壊したとか罪を
「何それ……酷い!」
クリスタは怒りのあまり立ち上がると、リュリュを見る。
「その子、うちに入れるよ!」
「え……いいのですか?」
「なに言ってるのよ。きっとその地獄から抜け出すために、勇気を出して書類を提出したんでしょ。てか、そんな友達がいるんなら最初に言ってよね~。無駄に探しちゃったじゃない」
「あ……ありがとうございます!」
クリスタは嫌みっぽく言ってウインク。リュリュはその意味に気付いて、嬉しそうに礼を言う。
「なんで嫌みを言われて嬉しそうにしているのだ?」
「さあ? 俺もよくわからん」
しかし、気遣いとは縁遠いイロナとヤルモには伝わらず。クリスタとオルガに「気遣いって辞書で引いたらいいのに」とコソコソ言われていた。
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