116 新メンバー発掘4
いちおうシーフの候補は決まったので、ギルマスに結果報告。まさか自分の推していた冒険者が掠りもせずに低レベルの冒険者に決まったので、かなりがっかりしていた。
そのせいか、攻略本の報告書についてネチネチ言われたクリスタ。ほぼ一直線に地下への階段に向かっているので、地図としては不完全なようだ。それに宝箱も後半ぐらいしか書かれていないので、上層で稼ぐこともできないとのこと。
今回はこれでなんとか受け取るが、次回はもう少し空白を埋めるようにと口を酸っぱくして言われたクリスタは、「はいは~い」と適当に言って会議室を出るのであった。
「もう! ギルマス、話長い~~~」
クリスタはぷんぷんしながら歩くので、ヤルモがツッコム。
「地図のことをすっかり忘れていたお前が悪いんじゃないか?」
「さあ、ヒルッカちゃんの勧誘に行くわよ~!」
「次は忘れるなよ?」
「無視してるんだからネチネチ言わないでよ~~~」
ヤルモにもネチネチ言われたクリスタは情けない声を出す。たんにヤルモは、あとから面倒事に巻き込まれたくないがために言ったのだが、クリスタには説教に聞こえたようだ。
受付に向かった勇者一行は、ヒルッカの呼び出しをしてもらったがギルド内にはおらず、所属パーティもいなかったので、ヤルモに言われて行きそうなダンジョンに出向く。
馬車が止まったら、低級、中級ダンジョンで名前を確認。どちらもヒルッカの名前がなかったので、今日は休みかと受け取ったが、念のため特級ダンジョンも確認してからヒルッカの家に向かった。
ヒルッカの家でも不在だったが、勇者が来たとめちゃくちゃ驚いて尻尾を振る家族に、無理を言って中で待たせてもらおうとするクリスタ。しかし恐れ多いと断られてしまったので、馬車の中で待つこととなった。
といっても、馬車に乗ったのは目立つクリスタとオルガだけ。家の前で待っていたら人混みができかねないからヒルッカ家族に配慮してある。ただ、美女と野獣のイロナとヤルモペアも、少なからず通る人に「マジで?」って顔をされていた。
そうして待つこと辺りが暗くなり始めた頃、自分より大きな荷物を背負った犬耳の少女が尻尾を垂らし、フラフラな足取りでやって来た。
「ヒーちゃん!」
その犬人族の少女は、探していたヒルッカ。リュリュはヒルッカが目に入った瞬間に駆け寄った。
「リュー君……うっうぅぅ……わたし、もう無理かも……うぅぅ」
リュリュの顔を見たと同時に崩れ落ちるヒルッカ。リュリュはヒルッカの辛さを汲んで優しく抱き締めた。
「もう大丈夫。勇者様が助けてくれるよ」
「ぐすっ。勇者様がこんな役立たずを拾ってくれるわけないよ~。うわ~~~ん」
「本当だって~。ぐすっ……うわ~~~ん」
ヒルッカが泣き出すと、何故かリュリュも大泣き。ヒルッカは辛いから泣いていて、リュリュはそこから抜け出せる喜びの涙のようだ。
「リュリュ君まで泣いてちゃ話にならないでしょ。あなたがヒルッカちゃんね」
そこにクリスタとオルガが合流。優しく声を掛けて、二人が落ち着くのを待つ。
「ゆ……勇者様!? せせせ、聖女様も!?」
ヒルッカが顔を上げたら有名人の揃い踏み。パレードの日はあまり仕事がなかったから忙しいヒルッカでも顔を見ていたようで、交互に二人を見続けている。
「あはは。いい加減にしないと頭が取れるよ」
「取れたら私が治してあげますね」
冗談めいた言葉で場を和まそうとするクリスタとオルガ。それで少しは落ち着いたのか、ヒルッカはポカンとした顔になってリュリュの服を掴んだ。
「ボク、いまは勇者様のパーティにいるんだ。本当はお給料が入ったらヒーちゃんの借金を返そうと思っていたんだけど、勇者様がパーティに入れてくれるって言ってるの。だから一緒に借金を返して行こ?」
「え……」
リュリュの言葉にヒルッカはついていけないように見えたので、クリスタも説明する。
「ちょっと~? 二人ともパーティメンバーなんだから、もっとお姉さんを頼りなさい。そんな借金、踏み倒してやるわ!」
「勇者様。言い方がちょっと……」
「だってヤルモさんが言ってたじゃない? 嵌めて借金地獄に落としたって」
「言ってましたけど、証拠がないことには。そんなことしたら、ヒルッカさんが捕まるかもしれませんし」
クリスタとオルガが揉めていたら、ヒルッカがそろりと手を上げた。
「あの……わたしが勇者様のパーティなんて……夢ですよね?」
「夢じゃないよ。うち、ちょうど索敵できる人を探していたの。ヒルッカちゃんが入ってくれたら嬉しいな」
「わたし、低レベルなんですけど……」
「気にしない気にしない。みんな低レベルからのスタートなんだからね。これからいっぱい上げていけばいいだけよ」
「こんなわたしでも……うっうぅぅ……うわ~~~ん」
クリスタが頭を撫でると、ヒルッカは再び大泣き。しかし、クリスタとオルガは苦笑いしているので、ヒルッカが思っているような理由で言った言葉ではなかったようだ。
つい最近まで、自分たちも低レベルだったのだから……
そうしてヒルッカが泣き止むと、クリスタが両親への報告。勇者兼王女の鶴の一声ということもあり、すぐに首を縦に振ってくれた。
どちらかというと思考が追い付いていなかったようだが、両親が呆気に取られている内にヒルッカと荷物、パーティメンバーを馬車に乗せて走り去るのであった。
「ヤルモさん……目、赤くない??」
「泣いてなんかないぞ!」
「別に泣いてたなんて聞いてないんだけど……あははは」
ヒルッカの不憫さに感情移入していたヤルモの涙がバレて、馬車からはクリスタたちの笑い声が漏れるのであった。
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