134 別行動6
ギガント暴れ牛がダンジョンに吸い込まれるなか、ヤルモは変形の反動で疲れて倒れ、息を整えていたら、イロナは「キャーキャー」ヤルモを褒めていた。
ヤルモがなんとか動けるようになったら二人でドロップアイテムを確かめるのだが、様子がおかしいようだ。
「あれ? 宝箱は??」
「うむ。これもハズレだ」
ダンジョンボスどころか、ドロップアイテムもハズレ。宝箱は出ずに大きな魔石と、それより大きな物体が落ちているのみ。
「魔石はデカイからいいとして、なんで肉……せめてアクセサリーぐらい落とせよ~~~」
ヤルモ、がっくし。せっかく特級ダンジョンを制しても、宝箱が出ないどころか金になりそうにない肉が出ては大赤字。地下60階からの宝箱で大大黒字になっているのに、ケチくさいヤルモの嘆き声が響き渡るのであった。
「あれ? もう帰って来たの??」
ウサミミ亭の玄関でバッタリ会ったクリスタは、たった三日と半日で特級ダンジョンから帰って来たヤルモたちに驚いている。
「その顔……まさか撤退して来たんじゃ……」
そして勘違い。ヤルモが肩を落として暗い顔をしているから仕方がないのだろう。
「クリアは、した」
「はやっ!? でも、それじゃあなんで……」
「あとで話す」
それだけ言ったヤルモはウサミミ亭に入り、エイニにお土産を渡して今晩のメニューをリクエスト。岩風呂で疲れを落としてイロナとイチャイチャしていたら、食事ができたとウサギ耳メイドのリーサが呼びに来たので庭に出た。
「みなさ~ん! 焼き上がりましたよ~!!」
今晩のメニューはバーベキュー。エイニ特性バーベキューソースで味付けされた焼き立てホヤホヤの肉は食欲を刺激される匂いを放つので、皆は一斉にかぶりついた。
「「「「「うま~~~い!!」」」」」
一同マナーなんてクソ食らえ。あまりにも美味しすぎてむさぼり食う。そうして二本目も腹に収まると、エイニの元へ何の肉が使われているのかと質問が殺到する。
「暴れ牛とは聞いていますが、ヤルモさんが持って来たので詳しくは……」
ヤルモが持って来た肉と聞いて、一同「食べても大丈夫??」的な視線を飛ばすので、ヤルモも困った顔をする。
「あ~。俺たち特級ダンジョンに潜っていただろ? ラスボスを倒したら、それが出て来たんだ」
「三日で帰って来たのも驚きだけど、ダンジョンボスってこんなのも落とすんだ!」
「俺もハズレだと思ったんだけどな~。こんなにうまいなら、売ればよかったな」
「もう~。ケチくさいこと言わないでよ~」
「どっちがケチくさいんだか……」
ヤルモは当然ケチなのだが、クリスタは王女様でもあるのに両手でバーベキューを持って交互に食べているから、ツッコまれても仕方がない。
しかしヤルモは、この肉で干し肉を作れないかとエイニに相談していたので、ケチ王はヤルモに決定。脂が多くて作れないと聞いて、できるだけ腹に入れようと頑張っていたから文句なしの一位だろう。
そうして全員が吐きそうなぐらい食べたところでギブアップ。肉は半分以上残っているので、明日からもしばらくテーブルに並ぶらしい。
「なるほど……凍らせば長持ちするのか。リュリュ、こっちも凍らせてくれ」
「あ、はい」
エイニがリュリュに、保存について協力を求めていたのでヤルモも参加。せめて少しぐらいは取っておきたいらしく、リュリュに2キロほど凍らせてもらって、木箱にも氷を積めてもらっていた。
それでヤルモはニンマリ。幸せそうにしているので、クリスタとオルガがコソコソ喋っている。
「やっぱヤルモさんってケチよね?」
「あれだけ稼げるのに必死ですね……何にお金を使っているのでしょう?」
「服ではないのは確実……いつも布の服だし」
「勇者様からお金を貰っているのに高い服も買わせていましたし」
どうやらヤルモの生態が気になる二人は、金銭感覚についてはケチとレッテルを張り付けるのであったとさ。
バーベキュー大会が終わると、肉の美味しさで忘れていた結果報告。クリスタは嬉しそうに「余裕でクリアした」と報告していたが、ヤルモは冷たいもの。どうやらクリスタの顔に「褒めて褒めて~?」と書いていたから突き放したようだ。
その代わり、レベルの上がったヒルッカをめっちゃ褒めるヤルモ。ヒルッカも嬉しそうにしていたのだが、ヤルモは「ケチ」のレッテル以外にも「ロリコン」のレッテルまで張られていた。
ちなみに、パウリはヤルモとあまりからんだことがないので、いまのところ無視されている。なので、「人見知り」のレッテルが追加されるヤルモであったとさ。
結果報告もお開きとなると各々の部屋で体を休め、翌日はすっきりしたヤルモとイロナは町に繰り出す。
ヤルモの生態が気になるクリスタとオルガはあとをつけ、すぐに見付かっていた。
「なんなんだよ」
「いや~。どこに行くか気になっちゃって」
「商品を売りに行くだけだ」
「ちょっと見させてもらいたいんだけど……」
「別に面白くないぞ?」
「いいのいいの。暇潰しだから」
なんとか許可が下りたクリスタたちは続くが、ヤルモとイロナは腕を組んで歩くので、デートを邪魔しているように感じていた。しかし、行く店行く店で大金を受け取るヤルモを見ると、コソコソと喋っていた。
「小慣れてる……」
「なんだか裏取引の現場を見ているみたいですね」
「ギルドより高く売るなんて……やっぱり犯罪者なのかも……」
「聞こえてるぞ!」
「「あ……」」
ヤルモがあまりにも慣れていたので、声が大きくなっていたクリスタとオルガ。というか、ヤルモは犯罪者という言葉に敏感なのだ。
「この国で出会った商人が間に入ってくれたから、高く買い取ってくれているんだ。悪いことなんてしてないんだからな」
「言い訳っぽい……」
「金は返すから、あとはお前たちでダンジョンに潜れ。王様にも会わないからな!」
「ウソウソ。これっぽっちも犯罪者なんて思ってないよ~。ね?」
「私は言ってません」
「聖女様ズルイ~~~!」
ヤルモに反撃されたからにはクリスタは冗談だと言い訳したが、オルガに裏切られてしまうのであったとさ。
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