171 帰郷への道中3


 国境の町で一泊したヤルモとイロナはスッキリ。逆にマルケッタは寝不足でクマが酷い。朝食の席では、マルケッタがその目をヤルモに向けていたので、気持ち悪くなって質問してしまう。


「なんだよ」

僭越せんえつながら……」

「だからなんなんだよ」

「溜まっているのはわかりますが、隣でそんなことをされると丸聞こえですわ」

「起きてたのか!?」


 昨夜は、ヤルモとイロナはこっそりヤッたつもりだが、マルケッタには筒抜け。


「起きてるも何も、始めるのが早すぎますわ」

「う、うん……たしかにそうかもしれん」


 そりゃ、ベッドに入ってすぐ始めたならば、こっそりやっても聞こえるよ。

 いくら大嫌いなマルケッタであっても丁寧な口調で怒られたならば、ヤルモも反省するしかないのであったとさ。



 それから旅立ちの準備をした一行は、宿を引き払って町の端へ移動。ここは、カーボエルテ王国とユジュール王国を繋ぐ国境。大きな門が向い合せで立っており、どちらの門にも両国の兵隊が並んでいる。

 別にここ以外は柵などを設置していないので簡単に国を跨ぐことは出来るのだが、移動しやすい平地だけは見張りの兵士が巡回している。

 見付かった場合は最悪その場で斬り捨てられるから、真っ当な人間は入国税を払って越境するので、不法入国はわりと少ない。


 そんな場所を通るのならば、不法入国したヤルモはガッチガチ。クリスタからカーボエルテ国民にしてもらったのに忘れているみたいだ。


「僭越ながら……そちらに並ぶのですの?」

「あ、そうか。貴族カード持ってたんだった……お前が対応してくれ。頼む!」

「はあ……」


 ヤルモが一般通路の大行列に並ぼうとしたら、マルケッタからアシストが入ったので、ヤルモも思い出して頼み事。

 マルケッタに貴族カードと国王の書状を渡し、出国手続きと入国手続きをしてもらえば、ヤルモが少し疑られたぐらいで難なくユジュール王国へと入ることができたのであった。



 出入国は場合によっては、一般人なら手続きするだけで一日が過ぎ、越境した先にある町で一泊するケースが多いのだが、ヤルモたちは貴族専用通路を通ったのでその必要はない。

 ヤルモとイロナは腕を組んで町並みをキョロキョロ見て進み、マルケッタはそのあとを追って町を出た。ここからは、スピードアップするのでマルケッタは再び背負子しょいこに乗せられる。


「僭越ながら……」

「なんだよ」

「追い抜いた人にジロジロ見られて恥ずかしいのですわ」

「じゃあ、走るか??」

「……乗りますわ」


 マルケッタは疲れるぐらいなら、ヤルモの背中に乗ることを選ぶ。実際問題、追い抜く度に指を差されるのは常人からしたら耐え難いので、ヤルモは非人道的な男なのだろう。本人は気付いていないようだが……

 マルケッタを背負ったヤルモはダッシュ。イロナは早足で歩き、スピードを覚えたらヤルモの横に付く。

 これも人目に付き、スレ違う人や追い抜く人から「あいつらどうなってんの?」的な目を向けられ、さらに「人が乗ってる~!」とか指を差される。


 そんなはずかしめを気にしているのはマルケッタだけ。ヤルモとイロナは気にせず進み続け、昼食に一度止まっただけで、アルタニア帝国の国境まで三分の一まで進んだ町で一泊。

 今回は貴族御用達の宿は避け、そこそこの値段の宿を選び、ヤルモとイロナは同室。マルケッタは隣の部屋で休む。


 もちろんヤルモとイロナは、夕食を取ったら「ハァハァ」はっちゃける。昨日はマルケッタが隣で寝ていたから、今日は激しい。ヤルモから何度も悲鳴があがっていた。


 隣の部屋で寝ようとしていたマルケッタはと言うと……


(クソッ! なんでわたくしめがヤルモなんかに……これもそれも、クリスタのせいですわ! あんな犯罪者に肩入れするなんて……アルタニア帝国に帰ったら覚えていなさい。カーボエルテ諸共潰してやりますわ!!)


 一人になったら恨み辛み、ヤルモとクリスタをどうやって地獄に落とそうか考えていた。


(チッ。またあいつらは……)


 その時、ヤルモ達の部屋から何やら聞こえて来たのでマルケッタの集中力が切れる。


(てか、なんですの? この拷問でも受けているような声は……いったい何が行われていますの!?)


 こうしてこの日も、マルケッタは壁に耳を当ててなかなか寝付けないのであったとさ。



「僭越ながら……」


 町を出たところで、またマルケッタからの苦情。


「またか……今度はなんだよ」

「部屋の壁が薄いから丸聞こえでしたわよ」

「うっ……気を付けます」


 宿屋の従業員からも「ハッスルしすぎ」と注意を受けていたので、ヤルモも反省。


「気を付けなくていいから、何をしていたか聞かせてください」

「言えるわけないだろ~~~!!」


 さすがに拷問みたいな奉仕を受けていたヤルモでも、夜の営みは喋れないので、マルケッタは悲鳴の謎が解けないのであったとさ。



 ヤルモたちが出発したら、マルケッタは静かなもの。これまでも奴隷魔法のせいで喋れなかったのだが、ここ二日寝不足だったので完全に寝入っている。

 昼食で一度起きたが、小刻みな揺れが眠気を誘い、寝ている内に次の町に到着。ここの宿でも隣からヤルモの悲鳴が聞こえて来たので気になって眠れずに、一人で何かしてから夜を明かすマルケッタであった。



 次の日もヤルモとイロナが驚かれて進み、マルケッタも諦めてうとうとしていたら、3時頃に国境の町に着いたと背負子から下ろされた。


 この町の横には多くの軍隊が野営をしているのでヤルモは少し気になっていたが、町に入る時にはマルケッタが対応し、今回もヤルモが疑われただけで、無事、国境の町『ビサブオリ』に入るのであった。


「ここもカーボエルテ側とたいして変わらないな」

「うむ。しかし人族の領土とはこんなに広いのか。これでは我でも一日では走り切れないぞ」

「イロナの故郷ではそんな遊びがあるのか??」

「ただの暇潰しだ」


 いつも通りヤルモとイロナは雑談してイチャイチャ歩いているが、ヤルモはイロナの暇潰し発言でこんなことを思っていた。


(トゥオネタル族の領土を行ったり来たりしてたのかよ……どんな暇潰しだ)


 イロナが高速で走り回っている姿が浮かんだヤルモであったが口には出さず、ペチャクチャ喋りながら歩いていたら、急に後ろから声を掛けられる。


「おいお前たち! 止まれ!!」


 ヤルモがチラッと振り返ると、冒険者らしき五人の中年男性が並んでいたので……


「止まれって言ってるだろ!!」


 一向に止まらないヤルモたちであった。

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