012 冒険者ギルド2


「ここ、職業欄が『戦女神』となっていますが、間違いじゃないですか?」


 なんとか冒険者登録の開始となり、ヤルモからこう書くようにと指示を受けていたイロナであったが、間違えてレア職業を書いてしまったから、猫耳受付嬢のミッラは申し訳なさそうに確認を取る。

 するとイロナは不機嫌な顔を見せたが、タピオが割って入って、書類の欄を羽ペンでぐしゃぐしゃと消し、『戦乙女』と勝手に書き直して場を治めた。


「やっぱりでしたか……」

「字を間違えただけだ」

「嘘だとバレたら作り直さないといけないんですから、気を付けてくださいね」

「えっと……それだと、バレなければいいと聞こえるのだが……」

「あはは。いまのは無し! 冗談でんがな~」


 どうやらこの辺の嘘も、商人国家の国民性ではよくあることのようだ。自分を強く見せ、難易度の高い依頼を受けようと……

 もちろんそんな者は失敗続きでランクも上がらないから、すぐにバレて冒険者カードは没収。再登録でまたお金を払ってくれるから、滅多に注意しないらしい。

 今回に限っては、ミッラがイロナを怖れているので親切に注意したようだ。



 冒険者カードの発行が滞りなく終わると、タピオはお勧めの武器防具屋、それと道具屋もミッラに聞いていた。

 この情報も本来ならば金銭を要求していたらしいが、ミッラが怪しい素振りを見せるとイロナの目が光るので、悔しそうに全てタダで教えていた。本来、タダの情報なのだが……


「本当に迷惑かけた。すまなかったな」

「いえいえ。こちらこそ……また何かあったら、気軽にお声を掛けてください」


 ミッラにペコペコと頭を下げるタピオ。これがタピオの処世術。三度も捕まった経験があるので、関わりがある人に対しては必要以上に下手に出てしまうのだ。

 イロナはそれが気に食わないらしくずっと機嫌が悪いが、タピオは気付かない振りをして出口に向かう。


 その時……


「ひゅ~……いい女連れてるな。オッサンにはもったいないから、俺たちに貸してくれよ」


 ガラの悪い冒険者パーティにからまれた。


「俺に関わらないでくれ」


 しかし、この程度はよくあることなので、いつも通りタピオは一言だけ声を掛けてその場をあとにしようとする。

 もちろんそんなことでガラの悪い男たちは止まることは少なく、タピオは数発殴られることもあるが、持ち前の防御力があるからダメージにもならない。

 なんなら殴ったほうが手を痛めるので、「今日はこの辺にしといたろか~」とか言って引いてくれるのだ。


 そう。タピオひとりならば……


「ああ。オッサンには関わらないでやるよ。彼女、そんなオッサンなんかじゃなくて、俺たちとパーティ組もうぜ。夜も交代で楽しませてやるよ」

「「「「ぎゃははは」」」」


 下品に笑うガラの悪い男たちはスタスタ歩くタピオに興味なし。イロナを取り囲んでしまった。


「ふむ……似たようなことを我に言った奴はいるが、そいつらと一緒で、我のテクニックには耐えられんだろう」

「おお~。そんなに自信があるのか。こりゃ楽しめそうだ」

「しかし我も主殿の奉仕で忙しい身だ。この場でテストしてやろう」

「うほっ。公衆の面前でヤルのか! どんだけエロイ姉ちゃんなんだ!!」

「これに耐えてみせろ」


 ガラの悪い男は嬉しそうにズボンのベルトに手を掛けるが、イロナは凄まじい殺気を放ちながら、ゆっくりと腕を引いた。


 その後は、弓矢が弦から放たれるが如く……


 ガラの悪い男には、イロナの拳は自分より大きな拳に見えて、当たる前に死を連想させられたらしい。


 ドッゴォォ~~~ン!!


 その刹那、まるで大砲が撃ち込まれたかのような轟音と衝撃波がギルド内を走る。


「ぐぅぅ……」


 タピオだ。ガードを固めたタピオが二人の間に割り込んで、イロナの殺人パンチを止めたのだ。一歩も下がらないタピオのせいで、超質量の物質どうしがぶつかったような衝突現象が起きたのだ。


 さすがにタピオに止められたイロナは、矛を収め……


 ガンガンガンガン!


「いたっ、痛たた。イロナ。待て! 待てだ!!」


 いや、イロナは嬉しそうにタピオをサンドバックにしていた。タピオがやめるように言っても、10発は殴ってからようやくイロナは止まるのであった。



「何してるんだよ」

「いやなに。主殿は本当に頑丈だと思ってな。つい楽しくなって殴り続けてしまったのだ」


 タピオが苦情を言ってもイロナには通じず。仕方がないので、アザだらけになった腕や体を擦りながら、殴られそうになった男に目を向ける。


「お前たちも俺たちに関わるな。次は助けない……マジで助けられるかわからないからな」


 タピオは自信無さげに言い直すと、ガラの悪い男たちは高速で首を縦に振り、死に掛けた男は失禁で水溜まりになった床の上にへなへなと腰を落とすのであった。

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