179 ユジュール王国の勇者7


 ユジュール王と勇者オスカリとの密約は、ヤルモが合意したことで成立。これでヤルモはユジュール王に貸しを作れたので、お願い事をしてみる。


「実は……頼みがあるんだが……」

「お前には貸しがあるのだ。できるだけ叶えてやろう」


 ユジュール王は淀みなくそう言うので、ヤルモは信用したとまでは言えないがダメ元で言ってみる。


「俺の家族がアルタニア側の国境で監禁されているんだ。聖女を使って逃がすから、保護してくれないか?」

「ヤルモの家族が? どういうことだ??」


 これはカーボエルテ王の書状に無かった内容だったので、ヤルモは簡単な説明。

 アルタニア帝国で勇者殺害の冤罪を掛けられ、その罪を家族にまで背負わされて脅しのネタに使われていると言ったら……


「なんて酷いことをするんだ!」

「うむ。うちでかくまってやる。安全は保証しよう」


 オスカリも国王も、怒りながらすんなり受け入れてくれた。


「嘘ついてると思わないのか?」

「人を見る目ぐらい持ち合わせている。ヤルモは嘘なんてついてない!」

「アルタニアでは権力者が強いからな。うちの国民も、何度も冤罪で酷い目にあっているから信用できる」

「そ、そうか……」


 またヤルモはカルチャーショックを受けて言葉を無くしていると、国王が立ち上がってヤルモの肩に手を置いた。


「さて、細かい話は場所を変えようか」

「あ……服が汚れてる……」


 ヤルモの目には、国王のマントに砂が付いていたのが見えたので申し訳なさそうに呟いたが、国王は笑顔を見せる。


「こんなの叩けば落ちる。ここだけの話、余の服は市中で買っているからけっこう安いのだ。家臣からは、もっといい物を着ろと言われているがな」

「このオッサン、一人で仕立屋に行ったりしてんだぜ。国民に顔がバレてないわけないのに、本人は気付いてないと言い張るんだ」

「だからオッサンと言うな。それに、皆、普通に接してくれるぞ?」

「いい加減、気を遣われていると気付けよ」


 国王とオスカリはまた何やら言い合いを始めているが、ヤルモには仲良しの二人がチチクリあっているように見えた。

 その二人が同時に手を差し出したので、さすがに国王の手を握れないヤルモはオスカリの手を取って立たせてもらったら、オスカリは勝ち誇った顔で笑っていた。



 それからヤルモたちは国王に言われるままに馬車に乗り込み、貴族御用達の宿屋に到着したら、ここで昼食をいただく。

 ヤルモたちが美味しく食べていたら同席していた勇者パーティが、「自分たちの泊まっている宿屋のほうが料理が美味しい」とか言っていた。

 だが、国王に「味音痴の集団なのだ」と馬鹿にされ、ヤルモたちが国王に同意したら、勇者パーティはめちゃくちゃ落ち込んでいた。


 食事を終えると今後の話に移ったが、ヤルモはよくわからないらしく、ほとんど丸投げ。国のことは国王に任せ、細かいことは勇者パーティに任せて、魔王だけは譲らない。イロナが睨みを利かせているからだ。

 そして夕方頃になると、勇者パーティは元の宿屋に帰って行き、ヤルモたちはこの宿屋の一室をタダで借りる。ヤルモは国王と同じ宿は嫌がっていたが、イロナがこっちがいいと暴力を振るうからだ。


 夕食は部屋で美味しくいただき、お風呂で疲れを落として、ヤルモとイロナは「ハァハァ」。マルケッタは別室でようやく安心して眠れたようだが、何やら一人で「ハァハァ」してから眠ったようだ。



 翌日……


 国王と共に馬車に揺られて国境の門に向かうと、ヤルモたちは勇者パーティと合流した。


「おう! 準備できてるぞ。さくっと家族の救出と魔王を倒して帰ろうじゃねぇか」

「ああ」


 ヤルモは、魔王よりも家族を気に掛けてくれたので嬉しくなって、オスカリに差し出された拳に自身の拳をゴツンと合わせた。


「さあ、行こうか!」

「「「「「おう!!」」」」」


 そして、マントをひるがえすオスカリたち勇者パーティにヤルモたちも続き、アルタニア帝国との国境の門に向かうのであった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る