024 中級ダンジョン6


「周回組とはなんだ?」


 中堅パーティから譲ってもらって先を行くタピオたち。歩きながらイロナが質問している。


「ボス戦を繰り返して生計を立てている奴のことだ」

「ボス戦??」

「ボスも他のモンスターと一緒で、一定の時間が経てば復活するだろ? 倒しては待機し、倒しては待機と繰り返したら、普通にダンジョンをクリアするより稼ぎが良くなるんだ」

「なるほど。トゥオネタル族でも同じようなことをしていた奴がいるな。邪魔だから半殺しにしたけど」


 タピオはまた出て来た半殺しワードは気になるが話を続ける。


「本当に邪魔なんだよ。ここより上の実力者が陣取ると、若手が挑戦できなくなってな。冒険者ギルドでは禁止されてるんだ」

「ほう。それなのに、あいつらはやっていると……。半殺しにするか?」

「何もするな。そのうち誰かが通報して出禁になる。それよりも……」


 また物騒なことを言うイロナに対して、タピオは話を変える。


「たぶん、この先に厄介な群れがいるはずだ」

「どういうことだ?」

「俺たちが戦っているところに強襲すると思う。ちょっとでも楽をしようとしてな」

「フフ……主殿には考えが筒抜けなのだな」

「まぁ長く冒険者をしているからな。無理矢理突っ切る予定だけど、問題ないよな?」

「愚問だ」

「わはは。初めて頼りになる仲間に恵まれたよ。それじゃあ作戦は……」


 腕を組んで喋りながら歩いていると、広い空間に大量のオーガの群れを発見する二人。モンスターの種類は何が来るかわからなかったが、この程度なら二人の敵ではない。

 お互い頷き合うと、タピオから突撃。その後ろにイロナが続く。


 タピオは防御を捨てて、全力疾走。それだけでオーガは弾き飛ばされ、タピオのスピードは落ちない。それに続くイロナは暇なもの。たまに横から来るオーガを蹴り飛ばすのみ。

 二人は一切スピードを落とさずに大広間を突っ切り、タピオの勘で最短距離を進み、下の階に移動する階段までモンスターを弾き飛ばしながら走り続けたのであった。



 二人は階段の途中で次なる準備。ここで初めてタピオは剣と盾を装備した。


「おお~。面白い形の剣を持っているじゃないか。盾もデカくて硬そうだ」


 タピオの剣は片手剣の割には幅が広く、中華包丁みたいな黒ずんだ大剣で、雷の範囲攻撃までできる特注品。盾も大きく、ドラゴンが踏んでも壊れないと言われる逸品だ。

 イロナに褒められたタピオは、少し照れながら説明する。


「まぁかなり無茶を言ったからな。ダンジョンで拾ったアイテムで、無理して作ってもらったんだ」

「その装備ならば、我と戦ってもいい勝負ができるのではないか?」

「勘弁してくれ。仲間割れで壊されたくない」

「フッ……残念だ。主殿の本来の実力を見れると思ったのにな」

「イロナと比べないでくれ。それよりも、せっかく時間を稼げたんだ。この階も早目にクリアしてしまおう。イロナも頼んだぞ」

「おう!」


 これより二人は、タピオの勘だよりに進み、迫り来るモンスターは瞬く間に退治する。


 タピオは大剣を振り回し、盾をぶつけ、モンスターでも吹き飛ばす。

 イロナは剣と蹴りで対応。さすがはレベル差があり過ぎて、モンスターは剣を持ったイロナに一撃でほふられる。

 そしてモンスターが減るとイロナに攻撃は任せ、タピオは盾で守りながらせっせとドロップアイテムを回収する。


 二人の協力の元、地下22階から25階までをあっという間に攻略。26階は余裕ができたと思い、宝箱探索なんかしながら、ダンジョンボスの鎮座する地下30階へと足を踏み入れるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 時は少し戻り、地下21階……


 タピオとイロナがオーガに突撃した直後、中堅パーティも大広間に足を踏み入れた。


「う、嘘だろ……」


 そこでは、タピオとイロナに弾き飛ばされるオーガの姿。二人がすぐに殺される、もしくは善戦して時間を掛けるはずだと思っていた中堅パーティは固まっていた。


「お、俺たちもあの波に乗るぞ!」


 一瞬固まったリーダーのウリヤスであったが、これは逆にチャンスと思い、二人の開けた道に飛び込む。

 ウリヤスの思った通り、オーガの群れは混乱していたので、走りながら剣を振れば大広間は楽に突っ切ることができた。

 ここまでくれば戦闘空間は狭くなるので、乱戦にならずにオーガの群れは楽に倒せるはず。振り返って戦いさえすれば……


「ふざけやがって……このまま走って、こいつらをさっきの奴等にぶつけるぞ!」


 しかし、ウリヤスの判断は逆。次のモンスターがタピオたちを押さえている隙に、駆け抜ける作戦を取る。

 だが、走れども走れどもタピオたちの姿はない。それどころか、頭の中の地図にある地下へ向かう階段まで、モンスターに出会うことなくノンストップで辿り着いてしまった。


「な、なんで、こんなにモンスターが……」


 残念ながら、作戦ミス。タピオたちはトドメを刺さずに階段を下りたので、追って来ていたモンスターが勢揃いしていた。

 さらには、中堅パーティの後ろからもオーガの群れが迫っている。


「くそっ! 戻れ! 通路のほうが、幾分やりやすい!!」


 さすがに開けた場所でこんな大群を相手にするほどバカではないウリヤスは通路で挟み撃ちを選び、なんとかモンスターの殲滅に漕ぎ着けた。


「ゼェーゼェーゼェー……行くぞ」


 かなり時間を掛けすぎたこともあり、タピオたちに追い付くのは不可能かと思うが、戦わずに逃げた二人はこの先でモンスターに足止めされている可能性もあるので、休まず地下22階に足を踏み入れる中堅パーティ。

 だがそこは、タピオたちが倒したモンスターがポップアップしており、倒せども倒せども、二人の背中は拝めないのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る