023 中級ダンジョン5
中級ダンジョンのセーフティエリアにて、若手パーティに冒険者の心得を語ったタピオ。いつも通りすぐに忘れると思っていたが、イロナの殺気に当てられて、若手パーティの心に深く刻まれたようだ。
それからタピオは、料理を食べさせてもらった手前、いちおう感謝の言葉を送ってから自分のテントに戻る。イロナはタピオを追い、腕を組んで去って行くので、ますます二人の関係がわからなくなる若手パーティであった。
「さあ! 今日はどうする!!」
狭いテントの中では仁王立ちといかないらしく、下着姿のまま膝立ちで今日の奉仕に何をしたいか問うイロナ。
「あ、そうですね……」
本当はあんなことやそんなことをしたいタピオであったが、できないので他の方法を模索するしかない。
「
少しの時間が空くと、イロナからとても女性が口走るような言葉ではない要望が飛んで来たからタピオは慌てて止める。
「わっ! テントは薄いんだから、周りに聞こえてしまうだろ」
「早く言わないから悪いのだろうが」
「ちょっとは考えさせてくれよ……」
とりあえず昨日と同じメニューをお願いしようとしたタピオであったが、さすがに卑猥な声が漏れると恥ずかしいらしく、体の拭きあいっこを提案する。
「じゃあ、俺から拭かせてもらいますね」
「よかろう。かかってこい!!」
相変わらず男前なイロナは、下着を投げ捨てて両手を広げる。そこにタピオの攻撃……ならぬ、優しい濡れタオル。イロナの体をくまなく拭くついでに、胸の柔らかさなんかも堪能していた。
「ん、んん~……」
ただ体を拭いただけなのだが、イロナはそれなりに感じて小さな
必死に押さえて、イロナに悟られないようにするタピオ。
「さあ! 次は我の攻撃だ!!」
「ぐっ……ぎぎぎぎ……」
体を拭くことを攻撃と言っちゃったイロナ。当然、手加減がないので、タピオの肌が摩擦で剥がれそうになる。しかし、大声を出すことは周りに迷惑となるので、必死に耐えるタピオであった。
翌朝、寝袋で寝ていたタピオの目の前にイロナの顔があり、今日も驚いて目覚める。そうしてイロナを起こし、準備をするようにとだけ言ってタピオはテントから出る。
大きなあくびをしながら背伸びをしていたら、近くのテントから若手パーティのアイリが出て来た。だが、タピオの顔を見た瞬間、顔を真っ赤にして戻って行った。
タピオは不思議に思いつつも、朝食の準備に取り掛かる。といっても、昨日のスープが残っていたので、そこに堅いパンを追加。イロナが外に出て来たら一緒に食べる。
食事を終えて片付けをしていたら、タピオとイロナの元へ若手パーティが近付いて来た。
「私たちは主さんの教え通り、このまま魔法陣を使って帰るつもりです。それと、重ね重ね、助けてくれて有り難う御座いました」
アイリが深々と頭を下げると、イロナの常人では骨折必至の肘でこづかれたタピオは、目を合わせずに答える。
「命は大事にするんだぞ。それと、俺たちは何もしてないからな」
「フフフ……もっと恩着せがましくされてもよろしいのに」
「そういうの苦手なんだよ」
アイリに笑顔を向けられても、タピオはぶっきらぼうに返すだけ。そのタピオにシモも言いたいことがあったらしく、「顔を貸してください」と言って皆の元から離れて小声で喋る。
「いくら奴隷だからって、あんな恥ずかしいことを叫ばせないほうがいいぜ」
「恥ずかしいこと??」
「昨日の夜のことだよ」
「聞いていたのか!?」
「大声であんなことを言ってたら、聞き耳も立てたくなるだろ。結局、たいしたことしてないし……」
「どこまで知ってるんだ!!」
さすがに不甲斐ない姿を見られたと思いタピオは怒るが、音だけ楽しんでいたらしく、タピオの苦しそうな声を聞いて怖くなって逃げたらしい。ちなみに女子も参加していたらしいが、そこは口に出さなかったシモであった。
タピオたちの準備が済むと、若手パーティに見送られ、相も変わらず腕を組んで先に進む。他に夜営をしていたパーティは少しだけ早く出たらしく、タピオたちがしばらく進んだところで、三匹のオーガと戦っていた。
「もう終わりそうだが、どうする?」
「追い抜きたいんだけど……分岐点が来るまで離れてついて行くしかないか」
あまり人と関わり合いたくないタピオは、中堅パーティと距離を開けて続く。中堅パーティは時々戦闘をするので、その都度脇の空間に入り、宝箱を漁ってから元の道に戻る。
元の道に戻って進むと、中堅パーティはタピオの選びたい道を先に行くので、戦闘をしているところで追い付いてしまって速度が上がらない。
これではまるで寄生しているようなのでタピオは早く追い抜きたいのだが、中堅パーティもタピオたちの姿が目に入っており、気にしている素振りを見せていた。
そうしてお互い牽制するように進むと丁字路に差し掛かり、中堅パーティはふたつの道を確認してから逆送して来た。
「お前たち! 楽して進んでるんじゃねぇぞ!!」
タピオたちに近付いた中堅パーティの中で、一番歳が若そうなシーフの男イルッポが怒鳴る。イロナがギラついた目をするなか、タピオが前に出て対応する。
「気分を害してすまない。たまたま行く道が一緒だったんだ」
「はあ!? お前たちはここは初めてだろ! 道を知ってるはずがねぇ!!」
「周回組か……」
「だからなんだよ! 女連れでチャラチャラしやがって……どうせ寄生してここまで来たんだろ!!」
怒鳴られ続けるタピオを見てイロナの締め付けが強くなるが、タピオは腕の痛みに我慢して話を続ける。
「実力だ。だが、信じられないだろうから、俺たちが先を行く。命の危険があっても助けはいらん。それでここは丸く収めてくれないか?」
「ハッ……大きく出たな。死にたくなかったらさっさと帰れ!!」
「本当にいいのか?」
イルッポが鼻で笑うと、年長者の戦士ウリヤスが前に出て来た。
「ああ。俺たちが紛らわしいことをしたのが悪い」
「ならば先に行け。我等は少し休んでから行くからな」
「助かる」
タピオは頭を下げると、中堅パーティの間をイロナと共に通り過ぎるのであった。
* * * * * * * * *
タピオたちが通り過ぎたあと、イルッポはウリヤスに話し掛けている姿があった。
「本当に行かせてよかったのですか? てっきり追い返すと思っていたのですが……」
「どうせこの先に居るのはオーガの群れだ。すぐ死んだとしても、俺たちの役に立つだろ?」
「え……それじゃあ、あいつらは……」
「エサだ。オーガの陣形が乱れたところを襲うぞ。準備しろ!!」
どうやらイルッポは、タピオたちを思ってからんでいたようだが、ウリヤスは別の目的があってタピオたちを先に行かせたようだ。
こうしてタピオたちの知らぬところで、作戦が決行されるのであった。
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