222 報酬5
ヤルモVS勇者オスカリの模擬戦は、ほぼ同時に放った攻撃を受けてお互いが吹っ飛び、倒れる結果となった。
「「………」」
そして、ダブルノックダウン。
オスカリの会心の一撃を五発もまともに喰らっては、頑丈なヤルモでもダメージは大きい。
二人が倒れてから五秒の経過……イロナから勝敗が告げられる。
「もういい。狸寝入りはやめろ」
「「………!?」」
いや、イロナに死んだふりがバレていると知って、ヤルモとオスカリはギクッとして体が揺れた。
「そのまま永遠に眠りたいのだな……」
「「起きます!!」」
イロナの殺気に当てられて、ヤルモとオスカリは飛び起きた。どうやらお互い死んだふりでやり過ごそうと思っていたようだ。
最後のやり取りはけっこう痛かったので「もう負けでいいや」と立ち上がろうとしなかったのだが、どちらも立ち上がる気配が無かったから「相打ちになるならそっちのほうがいいな~」とか、甘いことを考えていたのだ。
「まぁ、これ以上やっても結果は見えている。引き分けだ」
イロナから模擬戦の終了を告げられたヤルモとオスカリは、小さくガッツポーズ。どちらもHPを半分は減らしていたので、やめたかったようだ。
ちなみにイロナの予想では、長期戦に突入してヤルモが優位と考えているので、これ以上見ても面白くないから引き分けと宣言したのだ。
「では、次は我の番だな……」
「「え……」」
そう。そんな長時間同じやり取りを見るよりも、やったほうが楽しいと思って……
「全員でかかってこい!!」
「「「「「ええぇぇ~……」」」」」
こうしてヤルモプラス勇者パーティは、イロナに
「くそっ! ヘンリクのヤツどこ行ったんだ!!」
いつの間にか消えていたヘンリク以外……
イロナブートキャンプは、思ったより早く終了。全員、まだ完全に疲れが抜けていなかったことと、ヤルモとオスカリが先の模擬戦のせいで動きが悪かったので、本来の力を出せずにすぐに倒れてしまったからだ。
イロナも「失敗した」と呟きながら、残りの三人をぶっ飛ばして終了となった。
「お前がよけいなことを言うから、こんなことになったんだからな……」
「す、すまん。もう、ヤルモのことはからかわない」
フラフラで歩くヤルモとオスカリは、文句と謝罪。その足で、レジェンド装備が置かれている部屋に戻った。
「う~ん……これとこれを貰っておこうかな?」
途中だった報酬受け取りは、呪いの大盾とイロナの剣と軽鎧に加えて、ナイフと片刃の短い剣を追加するヤルモ。
「それ、お前が使うのか??」
「剣はイロナの予備で、ナイフはバラしてもらう予定だ」
「予備はわからんではないが、レジェンド武器をバラすだと??」
オスカリが驚いているので、ヤルモはちょっと説明。
「イロナ用に
「ニヶ月でトリプルを三本も折ったのか……そりゃ、金が掛かるわな」
ここでようやくオスカリ納得。高い剣を消耗品のように取っ替え引っ替えされては、金がいくらあっても足りないと悟った。
本当はヤルモが素材を出したからそんなにお金は掛かっていないし、剣を折ったのもオスカリが一本と魔王が二本で、ここ最近の出来事だからヤルモがケチなだけなのだが……
「あ、そうだ。その長い剣って、新しく作れないか??」
イロナのロングソードが残り一本なので、ヤルモは鍛冶職人のアンテロにお願い。残念ながら腕がドワーフのスロよりも劣るので、素材があっても難しいから諦めるしかなかった。
「んじゃ、こっちのヤルモと嬢ちゃんの装備から手入れしてやってくれ」
鍛冶場での用事が済んだら、オスカリが一声掛けて撤退。ヤルモは真っ直ぐ滞在場所に帰ろうとしたら、オスカリから待ったが掛かった。
「面倒だ。金だけ持って来てくれ」
その内容は「皇帝と謁見して金一封を受け取る」だったのでヤルモはこの始末。お金は欲しいけど、目立つことはしたくないようだ。
オスカリもヤルモの返事はわかっていたので、やれやれって顔をして了承していた。
それから分かれ道が来たら、勇者パーティは皇帝の滞在する屋敷へ向かい、ヤルモとイロナはイチャイチャしながら宿泊場所へと向かうのであった。
夕食時……
「いまさらだけど、魔王討伐記念の宴会すんぞ! お疲れ! そしてかんぱ~~~い!!」
「「「「「かんぱ~~~い!!」」」」」
オスカリの雑な音頭で始まる宴会。出席者は、勇者パーティとヤルモパーティ。身内だけと行きたいところだが、料理や酒を運ぶ人が必要なので、アルタニア軍から来た数人が料理人と給仕をしてくれている。
話題は、イロナとヤルモの秘密と言いたいところだが、聞くとあとが怖いので、魔王戦までの苦労話。
あの時はああだったとか、あの時はこうしておけばとか……
ほとんど反省会のようになっているが、ずっと笑いながら語っているので、端から見ている兵士の目には楽しい宴会に映っている。
ただし、戦闘現場はアルタニア兵は見ていなかったので、勇者パーティが倒したと思っていた魔王がイロナひとりに倒されたと知って驚いていた。
さらに、イロナの怖い話で畳み掛けたので、アルタニア兵はこんなことを思っていた。
あの女、魔王じゃね? っと……
この日の宴会は、勇者パーティの笑い声しか聞こえずに、夜が更けて行くのであった……
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