177 ユジュール王国の勇者5


「やったか!?」


 巨大な炎の玉がイロナに着弾し、火柱が上がって辺りに爆風が吹き荒れると、勇者オスカリは言ってはならないことを言ってしまった。


「あっち~」


 ユジュール軍が魔王を倒したと歓喜の声を出すなか、気の抜けるような声が聞こえたので、皆は爆心地を凝視する。


「我の決闘に割り込むとは、いい度胸だな……」

「あの炎の玉はマズイだろ~……いてっ」


 煙が晴れた頃には、大盾を構えてイロナに殴られているヤルモの姿。どちらにもダメージらしいダメージが見当たらないので、ユジュール軍は物凄い落胆の声をあげている。


「あの程度の魔法で我が死ぬとでも思うのか?」

「ちょっ……痛いって! イロナは大丈夫だろうけど、装備が持たないだろ。そんな姿ではちょっとな。いてっ!」

「つまり、我の裸体を守るために飛び込んだのか」

「いててっ。蹴るのもやめてくれ~!!」


 いちおうイロナの怒りは収まったようだが、照れ隠しに蹴られるヤルモはたまったもんじゃない。

 そうして緊張感もなく二人でイチャイチャしていたら、いまだに緊張を解かない勇者パーティが近付いて来て、代表してオスカリが声を掛ける。


「もう、終わりってことでいいんだな?」


 どちらが勝ちか、目に見えている。勇者パーティはイロナとの戦闘で、スタミナもMPも尽き掛けているから負けを認めたいのだ。

 しかし、下手に降参を宣言してはイロナの機嫌を損ねそうなので口にはしない。


「まだだ! お前たちはまだ立っているだろう! 死ぬまで我を楽しませろ!!」

「だってさ。俺の連れ合いがすまない」

「マジかよ……」


 しかし、イロナから死の宣告。ヤルモも謝るしかできない。それどころか、イロナにスペアの剣を差し出していた。


「いらん。向こうも同じ条件だ」

「あ、そう……」


 イロナが剣を受け取らないと、ヤルモは勇者パーティに口パクでこんなことを言っていた。


「よかったな。当たり所が悪くなかったら死なないぞ」


 その口パクは勇者パーティに瞬時に伝わったが、これから喰らう勇者パーティは苦笑いもできない。気合いを入れ直し、武器を構えた。


「再開!! うおっ!?」


 ヤルモの合図で振り出しへ……と、言いたいところであったが、早くもパラディンのトゥオマスが吹っ飛んで行った。


「嘘だろ……まだ手を抜いてやがったのか……」


 イロナが大盾の上からトゥオマスを殴っただけで、ノックダウン。オスカリも目で追うことがやっとだったので、青ざめている。


「クックックックッ。さすが勇者パーティの盾役! 我が本気で殴って生きているとは天晴れだ!!」

「マジで魔王じゃねぇか……」

「しかし勢い余ってしまったな……主殿、奴等の盾役になってやってくれ」

「なんで俺が!?」

「早くしないとあいつが死ぬぞ?」

「はい……」


 まさかの指名で、ヤルモはトボトボと勇者パーティの元へと向かう。ヤルモとまったく関係ないユジュール王を守るために……


「おい……お前の女、めちゃくちゃすぎんだろ」

「俺に言うな。俺が一番被害を受けてるんだ……」

「かわいそうに……まぁアレだ。守りは任せたからな」


 本当にかわいそうなヤルモ。勇者パーティと一緒にイロナに甚振いたぶられ続けて、仲良くブッ倒れるのであったとさ。






「ゼェーゼェーゼェーゼェー……」

「あ~。楽しかった~」


 ヤルモが息も絶え絶え大の字に倒れていたら、満面の笑みのイロナが隣に座った。


「それはよかった……ゼェゼェ……」

「欲を言えば、もう少し主殿の投入が早いほうが良かったかもな」

「最初から俺も勇者パーティに入ってたの!?」


 イロナの描いた絵では、勇者パーティプラスヤルモがちょうどいいと考えていたらしい。てっきり代役だと思っていたヤルモは、驚きを隠せなかった。


 それからしばらく休憩していたら、オスカリが剣を杖代わりにして、ヨロヨロと近付いて来た。


「降参だ。もう、マジで勘弁してくれ」


 オスカリ以外の勇者パーティは全員いまだに立ち上がれない。無理して歩いたオスカリはというと、イロナたちの前で崩れ落ちたので、土下座して懇願しているように見える。


「これだけ楽しませてもらったのだ。頭を上げろ」


 そこに、イロナの笑顔。オスカリは土下座していたわけではないのだが、許しが出たのでホッとしながら大の字に倒れた。


「あ~。死ぬかと思った~」

「俺もだ」


 同じ被害者のヤルモが同意すると、オスカリは顔だけ上げる。


「しかし、ヤルモも強いな。最後はお前のおかげでなんとか戦えたぞ」

「お前たちに倒れられると、俺が一対一になるから必死だっただけだ」

「がはは。そりゃ必死にもなるか。がははは」

「ホントに……わははは」


 オスカリが笑うとヤルモも笑う。同じイロナ被害者なので、通じる物があるようだ。イロナは満足顔だから、二人が愚痴っていても気にもならないらしい……

 そうして二人の笑い声が響いていたが、ヤルモは何か思い出してアイテムボックスに手を突っ込み、手紙を何通か出してゴソゴソしている。


「それはなんだ?」

「俺は会う気はなかったんだけどな~……カーボエルテ王からユジュール王宛の書状だ。あったあった。すぐそこに居るなら渡して来てくれるか?」


 ヤルモが手紙を差し出すと、オスカリは何故か驚いて受け取ってくれない。


「お、おお、お前……カーボエルテの使いかよ。なんで早く言わないんだ~~~!!」


 そりゃ、ユジュール王に会いたくないと言っていた人物がカーボエルテ王からの書状を持っていたら、この死闘は無駄だったと思うのは当然のことだろう……

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