176 ユジュール王国の勇者4


 ユジュール王国……


 この国は魔王被害で一度滅亡し掛けた。他国でもたまにあることなのだが、勇者や聖女の特権を、王族や貴族が独占したがための悲劇。その者がダンジョンに潜っていると嘘の報告をしたがために、魔王が発生してしまったのだ。

 その時は魔王が隣国に向かってくれたから滅亡せずには済んだが、国は半壊。隣国もなんとか魔王を倒したものの、町がひとつ壊滅したので激怒する事態となった。


 多額の慰謝料を払うことでなんとか戦争は回避したが、残った物は壊れた町と借金だけ。誰もが復興には長い年月を要すると予想した。


 しかしその予想を覆し、ユジュール王国は凄まじい速度で復興を始める。


 新国王は誠心誠意国民に謝罪し、罪の深い前国王や貴族を極刑に処した。それだけでなく、解体した貴族の財産は全て民に回し、自身の財産も投げ売って極貧生活にしたのだ。

 これは一時凌ぎで、次にやったことは制度改革。聖女は教会で決める決まりとなっているから動かせないが、勇者ならば国王に権利があるのでここに目を付けた。


 世襲、金銭、コネ、その他不正で勇者を決めさせない法律を作り、完全に実力主義。代替わりの際には、観客の前で冒険者ギルド上位者によるガチバトルを行う。

 その上、当代勇者との模擬戦も付けて、不正のしようがない制度を作ったのだ。


 これで決まった者には、当代勇者パーティからの指導。ダンジョン攻略法もそうだが、主に心の在り方を教え込まれる。


 勇者の使命。民を救い、世界を救う。


 ここで資質の無い者は容赦なく落とされ、次点の者から選出されるが、滅多にない。これまでの歴代国王の行動が民の心にも反映されていたからだ。


 失敗を反省し、民のことだけを思い、いまだに質素倹約に努める歴代国王を見て育ったのだ。そんな国王に恩返しをしたいと思う国民が多いのだろう。

 どこまでが国王の策略かわからないが、民が一丸となって国を盛り上げてくれたから、目覚ましい復興を成し遂げた。


 豊かになった現在もその心を忘れずにいる国こそ、ユジュール王国なのだ。



 そんな国に生まれたオスカリも、人々を助ける勇者を目指し、気のいい仲間と共にダンジョン攻略を続けていた。

 勇者の任期は前任しだいでまちまちだが、運良く20代後半にチャンスが到来し、圧倒的強さで勇者の権利をもぎ取った。


 多少馴れ馴れしいのはマイナス要素だが、それを補っても余りある成果をあげているので、国民からの人気は高い。なんなら、オスカリは過去最高の勇者と呼ばれるほどだ。

 それでもオスカリは慢心せず、民のために日夜、仲間と共にダンジョンに潜り続けていたのだが……



「くそっ! つえぇぇ!!」


 イロナに押され気味。


 勇者オスカリの剣は、イロナに捌かれて一太刀も入らない。それどころか、反撃を受けてHPを減らしている。


 盾役パラディンのトゥオマスはその大きな体を持ってしても力負けし、イロナに押し込まれてバランスを維持するのでやっと。HPも減るので、自身の魔法で回復してなんとか拮抗を保っている。


 アタッカーの魔法剣士レコは素早さ重視の体型をしており、剣筋はオスカリより劣るので出れず。トゥオマスの後ろで支え、狙い済ましてイロナに遠距離攻撃魔法を放っているがかすることもしない。


 本来の戦い方ができないせいで、勇者パーティナンバー2の賢者ヘンリク・ケトラは攻撃に移れず。オスカリのHPの減りもそうだが、イロナの当たりが強すぎて、トゥオマスとレコのHPの減りも早いので回復役に努めるしかない。


 唯一イロナのHPを減らしているのは、もう一人のアタッカーの大魔導士リスト。ただし、速度のある単体攻撃魔法はイロナに当たらないから広範囲魔法しか使えないので、MPの消費が早い。

 さらに、イロナは斬撃を飛ばして魔法を斬り裂くので、余波で少し削ることしかできないのだ。



 ユジュール軍は、一対一の場面ではイロナの威圧のせいでオスカリに勝ち目がないと思っていたが、さすがに五対一になったら希望を持った。

 しかし、勇者パーティの猛攻を捌き、それどころか押しているイロナを見て、また一歩後退あとずさることとなった。


 このままでは、魔王に負けると……



 そんな最終決戦のような戦闘は10分を超え、勇者パーティがボロボロになり、諦めという言葉が浮かんだ頃に動きがあった。


「しまっ!?」


 イロナの動きに、SSS級トリプルのロングソードがついていけずに折れてしまったのだ。いや、勇者パーティの装備は、何度もダンジョンに潜って手に入れたレジェンド装備。これでは、イロナの武器のほうが不利だったのだ。


「チャンスだ! 俺に合わせろ!!」

「「「「うおおおお!!」」」」


 そのチャンスに畳み掛ける勇者パーティ。オスカリが右から斬り付け、その一瞬の隙に今まで前に出なかったレコが斬り掛かる。

 イロナは二人の剣をありえない方法での無刀取り。指の力だけで斬り付けを掴み、奪い取ろうとした。だが、さすがは勇者パーティの二人。

 オスカリは先程より剣筋が鋭くなっていたので奪い取れず。レコは雷をまとっての初見の剣なので、イロナは防御するのがやっと。


 それを見て、オスカリとレコはタイミングを合わせて下から斬り付けた。


「「うおおお!!」」

「ぐっ……」


 イロナが浮いた瞬間に、またしても初見のトゥオマスのランス突き。イロナはなんとか両手で白羽取りしたが、オスカリとレコが追撃の剣を振っていたので、力に任せて後ろに飛ぶしかなかった。


「幾千の獣を貫け! 【サウザンドアロー】!!」


 そこを狙い済ましたようにリストからの、千本の風の槍。真上から広範囲に放ち、イロナの逃げ場を無くす。


「轟々と燃やすその炎は太陽。我が敵を燃やし尽くせ! 【サンフラワー】!!」


 さらには、ヘンリクの極大魔法。巨大な炎の玉が、イロナへと放たれたのであった……

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