174 ユジュール王国の勇者2


「ちょっと試しただけだろうが」

「そうだ。最初からこいつは戦おうとなんて思っていないぞ」


 さっきまでケンカしそうな勢いのオスカリであったがすでに威圧は消し、ヤルモも本気ではないことに気付いていたので、唯一ひとりだける気になっているイロナを一緒に説得していた。


「何をつまらぬことを言っているのだ……貴様は聖女がほしいのではないのか!」


 しかしイロナには通じず。ヤルモもテーブルの下で足をゲシゲシ蹴られている。


「飲み勝負をフッ掛けようとしてたんだ。それなら平和的だろ?」


 そんなイロナに対して、オスカリは元々やろうとしていた対戦方法を提示したが……


「何が平和だ! 男は拳で語り合うものだ!!」


 まったく話にならない。なのでオスカリはヤルモにコソコソ文句を言う。


「この嬢ちゃんどうなってんだ? 俺は女と戦う気がないんだが……」

「こうなってはもう無理だ」

「はあ? お前の女だろうが。ちっとは止める努力ぐらいしろ。怪我するぞ」

「手加減だけは頼む」

「まぁ手加減はするつもりだが……」


 ヤルモはイロナに対して手加減を頼もうとしていたのだが、言葉足らずだったので、オスカリに言ったと思われたようだ。


「わかったわかった。勝負は明日な。どっか場所を用意しておくから、今日はゆっくり体を休めてくれ」

「そんなことを言って逃げるのではないだろうな?」

「イロナ! シーーーッだ!!」


 せっかく話がまとまったのにイロナが挑発するので、ヤルモは口を塞ぐ。しかし、手を噛まれてダメージを喰らっていた。

 その狂犬と戯れる姿を見て、オスカリたちは仲睦まじいと勘違いしていたが、ヤルモはたまったもんじゃない。飲み会がお開きになってもイロナは止まらないからだ。


「今日は10回ヤルぞ!!」

「し、死ぬ……」


 もうすでにHPを半分近く減らしていたヤルモは、テンションの上がったイロナに犯され続けるのであった。

 ちなみに隣の部屋で盗み聞きしていたマルケッタは、今日も長い夜になったのであったとさ。



 翌日……


 お肌ピッチピチのイロナと、ゲッソリとしたヤルモと、お肌の荒れが出ているマルケッタが食堂に顔を出すと、勇者パーティが揃っていた。


「おう! 遅いぞ。いつまで寝てんだ」

「すまん。もうちょっと待ってくれ」


 勇者パーティはすでに食事を終えていたので、ヤルモたちも急いで注文してガツガツ食べる。その時、オスカリが何やら勘繰って来た。


「ヤルモ……お前、どんなプレイしてんだ? 俺たちの部屋にも声が聞こえていたぞ」

「す、すまん……」


 オスカリはヤルモの性癖が気になるらしいが、ヤルモは謝るしかできない。これはヤルモの性癖ではなく、イロナの性的虐待なのだから……



 食事が済んだら一度部屋に戻り、ヤルモとイロナはフル装備。マルケッタはいつもの聖女っぽい服。ちなみにヤルモがフル装備している理由は、もしものため。勇者パーティがイロナに殺されそうになったら、体を張って止めようと思っている。

 また食堂に出向くと、ヤルモの装備を見て勇者パーティは「敵に不足なし」的な言葉を掛けていたが、相手はそちらではない。ヤルモの後ろで妖しく微笑んでいるイロナだ。


 宿屋を出るとオスカリは馬車も用意してくれていたようで、二台に分かれて乗り込んだ。


「クックックックッ……」

「その笑い方、やめてくれない? めっちゃ怖いんだけど……」

「クックックッ……笑うぐらい良いだろう。こちらとしては、漏れ出す殺気を必死に留めているのだ。クックックックッ」

「そっちを出してくれたら、あいつらも逃げてくれるのに……」

「誰が逃がすか。全員血祭りにあげて、我の糧にしてやる。クックックックッ……主殿も」

「いま俺も入れてなかった!?」


 イロナが怖いことを言って、さらにボソッと呟いた言葉に自分が血祭り候補に入っていたので、ヤルモも怯えてしまっている。そんな二人を見ていたマルケッタは、何か考えている。


(この女、性奴隷のはずなのに、どうしてこんなに好戦的ですの? 勇者パーティに勝つとまで言ってるし……ヤルモならまだしも、勝てるわけありませんよね??)


 細腕のイロナが自信満々なので、マルケッタはどうしても信じられないようだ。


(しかしこの異様な雰囲気は……)


 それでもイロナが笑い続けているから、マルケッタも何やら鳥肌が立ってしまうのであった。



 ヤルモとマルケッタが震えていても馬車は進み、町の外へと出てしまう。馬車が停車して御者から降りるように促されたヤルモから先頭で降りると、そこには……


「なんだこれ……」


 ユジュール王国軍がびっしりと囲んでおり、逃げ場も塞がれている。イロナも降りて来ると観客の多さに驚いていたが、品定めもしていた。

 マルケッタも馬車から降りたところで勇者パーティが近付いて来たので、ヤルモは怒りをあらわにする。


「嵌めやがったな……」

「わりぃわりぃ」


 オスカリがニヤケながら謝るので、ヤルモは益々気に食わない。


「俺もこんなことするなと言ったんだがな。ヘンリクのヤツが、どうせ俺たちが勝つから二度手間になるとか言い出してな」

「二度手間ってなんだよ」

「ほら? あそこの偉そうなヤツが、俺のマブタチだ」

「国王までいるのかよ!?」


 オスカリの指差す場所には、少し高くなった場所にある玉座に座る王冠を被った人物。オスカリが指を差しているからか、こちらに手を振っている。


「そう怒るなって。もしも俺たちが負けた場合は、俺が責任持って逃がしてやるからな」

「お前が? 自国の軍隊相手に剣を振れるのか?」

「いま約束した。俺は約束を守る男だから心配するな。それより、もっと目立つ所へ行こうぜ」


 ヤルモはもちろん信用していないのだが、イロナを戦わせないことには自分に被害が来るので、仕方なくオスカリたちのあとに続く。

 兵士の輪の中央辺りには、立派な髭を生やした騎士が立っており、そこで両陣営に分けられた。


「それじゃあ、やろうか!!」


 オスカリは仲間を下がらせると、腰に差した剣を抜いて構えた。


「主殿……もういいよな??」

「まだだ。開始の合図があるから、それまでは待つんだぞ?」

「それぐらいわかっている」

「あと、マジで手加減してやれな??」

「それは難しいかもしれんぞ!!」


 イロナは声高々にロングソードを抜き、それと同時に殺気を解き放った。


「な、なんだと……」


 それだけで、オスカリは驚愕の表情を浮かべ、マルケッタは泡を吹いて倒れ、ユジュール軍は後退して、囲んでいる輪が大きくなるのであった。

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