173 ユジュール王国の勇者1


 ユジュール王国の勇者パーティのあとに続き、ヤルモたちが喋りながら歩いていたら、本日の宿屋に到着した。


「わりと普通だな」

「ああ。というか、中の中ぐらいだ」


 その宿屋は、高級宿屋と格安宿屋のちょうど中間ぐらいの宿屋だったので、ヤルモたちはいつももう少しいい所に泊まっていたから、イロナでも違いがわかったらしい。


「おばちゃん。こいつらに部屋を用意してやってくれ。あと、いつもの人数分な」


 ヤルモたちが泊まりたくなさそうな顔をしていても、勇者オスカリはお構い無し。従業員の中年女性に声を掛け、食事も催促する。

 こうなってはヤルモも引けなくなり、従業員に部屋を用意してもらって、オスカリたちの向かった食堂にて席に着く。


「まずは酒からだ。かんぱ~い!」

「「「「かんぱ~い!」」」」

「ああ。かんぱい……」


 オスカリのノリについていけないヤルモたちは、ヤルモだけが乾杯を返してグラスを半分ほど空ける。マルケッタは一口だけ。


「さてと。これで俺たちは、もうダチだな」

「いや、さっき会ったばかりだろ」

「そんな冷たいこと言うなよ。歳も同じぐらいだろ??」


 ヤルモも見た目はオッサンなので年齢を聞いたら、オスカリはヤルモより二歳上。最年長でも四歳上だったので、少しは親近感を持つヤルモ。

 しかし、何度も騙されているヤルモは簡単には警戒は解かず、ここに連れて来た理由を質問する。


「それより聖女の話が聞きたいんだろ?」

「おお。それだそれだ。魔王がダンジョンから出たって本当か?」

「俺もどこまで言っていいかわからないんだよな~。その前に、なんで知りたいか教えてくれ」

「それは俺が勇者オスカリだからだ!」


 オスカリが要領の得ない返しをするので、ヤルモは「こいつはアホなのでは?」と思ってしまう。しかし情報は必要なので、予想を言ってみる。


「この町の外には軍隊が野営してたけど、それと関係あるのか?」

「まぁ……ないことはないが……」

「言いづらいことか……」

「まぁな。だがな~……俺としてはどうでもいいんだけどな~」


 オスカリは仲間の、賢者ヘンリク・ケトラに視線を送ると、首を横に振っていたので、それに気付いたヤルモは提案する。


「情報の交換ってのでどうだ?」

「それでどうだ?」


 この手の話はヘンリク担当らしいので、オスカリが質問したら許可が下りた。


「じゃあ、俺から言うな」


 まずはヤルモから。もうすでに、魔王がダンジョンの外に出たとオスカリが正解を言っていたので、日にちだけ補足して伝えた。


「やっぱりか……マブダチの予想通りだな」

「それで……どうして軍隊なんて配備してるんだ?」

「ああ。魔王が外に出ていた場合、こっちに被害が出ないように集めているんだ。俺もそのためにいるんだけどな~……」


 オスカリは言葉を切ると、マルケッタに語り掛ける。


「てか、どうしてあの時、魔王を倒してくれと言わなかったんだ? そしたら俺たちが駆け付けたんだぞ」

「………」

「だんまりかよ。国の危機なんだからなんか言えよ」


 オスカリの質問には、マルケッタは奴隷魔法のせいで答えられないので、ヤルモに視線を送る。


「あ~。国の恥は外に出したくなかったみたいだ。だから国境を閉鎖してるだろ?」

「チッ……これだからアルタニア帝国は……おっと。料理が来たな。先に食ってくれ」


 オスカリは苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、料理が運ばれて来たら顔を崩す。そして「うめぇうめぇ」と言いながら仲間で食べているが、ヤルモとイロナは違う。


「これまた普通だな」

「こいつらの性格がよくわからん」

「勇者って言うぐらいだから、もっといい物食ってると思ったんだけどな~」


 エイニの美味しい料理を毎日食べていたせいで口が肥えている。マルケッタも口に合わないようだ。

 そんなヤルモたちであったが、味は普通だけど量だけは多くあるのでモリモリ食べていたら、またオスカリが声を掛けて来た。


「ところでなんだが……お前たちは何者なんだ? その聖女の護衛か??」

「まぁそんなところだ」

「たった二人でか……」


 オスカリは、ヤルモとイロナをジックリ見て、ある程度の強さを把握して頷く。


「なるほどな。そうだ。名前を聞き忘れていた。教えてくれるか?」

「俺はヤルモ。こっちは連れ合いのイロナだ」

「ヤルモだな。ヤルモにひとつ頼みたいことがあるんだが、聞いてくれるか?」

「頼みごとによる」

「そんな難しいことじゃないから身構えるな。その聖女を、俺のマブダチに合わせてくれるだけでいいんだ」


 確かに簡単なことに聞こえるが、ヤルモはあまり乗り気ではない。


「そのマブダチってのは、何者だ?」

「別にたいしたヤツじゃない。この国で王様をやってるだけだ」

「たいしたヤツだろ!!」


 どう考えてもオスカリの言い分がおかしくて、ヤルモのツッコミが正しいのだが、オスカリは「がはがは」笑ってるよ。


「と、笑ってる場合じゃなかった。また聖女に声を掛けられたら連れて来るように頼まれていてな。マブダチの頼みだから断れないんだ。俺の顔を立てて聞いてくれないか? 俺たちダチだろ??」

「いや、さっき出会ったばかりだ」

「となると、力尽くか~……女を無理矢理ってのは嫌なんだけどな~」


 オスカリはさっきまでのニヤケ面から気迫のこもった顔になったので、ヤルモも同じだけの気迫を返す。だがその時、イロナが動いた。


「クックックッ。待ちに待ったシチュエーションになったじゃないか。我に勝ったならば、聖女を差し出そうではないか!」


 そう。この展開は、イロナの待ってましたの展開。勇者パーティと戦えると……


「「いやいやいやいや……」」


 しかし、オスカリには思っていた展開と違いすぎ、ヤルモはその展開だけは起きてほしくなかったので、同時に待ったを掛けるのであったとさ。

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