097 班分け
「さあ、行こうか!」
魔法アカデミーから派遣された小さな男の子リュリュと手を繋いだクリスタは、特級ダンジョンの門に向かう。それに続き、オルガはリュリュの杖を持つ手を握り、ヤルモとイロナは腕を組んで続く。
「アレ? 俺の紹介は??」
金髪少年テッポ・ハルッキは放ったらかして……
「ちょっと待ってください!!」
さすがにテッポは侯爵家の息子とあって自尊心が強く、忘れ去られたことを非難して来たのでヤルモは軽く自己紹介し、クリスタはへらへら笑ってやり過ごしていた。
そうして門に立つ衛兵にクリスタが代表して挨拶し、各種手続きをして先を行くが、ヤルモが突然声をあげる。
「あっ! 前回の挑戦で帰還の手続きをしてなかった。ちょっと行って来る」
「待って! 手続きしなくても大丈夫だよ」
ヤルモが
「いや、そんなことをすると、俺もイロナも死んだ扱いになってしまうだろう」
「ちょっとこっち来て」
ヤルモの秘密を話すのだから、クリスタはヤルモを呼び寄せてコソコソと説明する。
本来ならば、衛兵に顔を見せて帰還のサインをしてダンジョンを出なくてはいけない決まりなのだが、混雑する場合は後日手続きをすることができる。ただし、一ヶ月以内に手続きをしないと死亡届けが出されてしまうのだ。
ここでクリスタは、タピオからヤルモに改名をする際、手続きが終わっていないことを逆手に取った。
アルタニア帝国の聖女に追われているのならば、タピオを死んだことにしたほうが都合がいいのではとの判断。クリスタはイロナと一緒に戻り、「タピオは死んだと聞いた」と嘘の報告をしたのだ。
「もしもタピオを追って来た人は、ここで諦めるって寸法よ」
「ふ~ん。王女様って悪知恵が働くんだな」
「そこは賢いと褒めるところでしょ~」
「ああ。ありがとよ」
「そ……それでいいの」
珍しく素直に感謝するヤルモ。クリスタはちょっとは距離が近くなったと嬉しそうに、ヤルモのあとに続くのであった。
皆で地下へ続く階段を下りると、ヤルモ主体で作戦会議を行う。
「他の冒険者は、明日から入ることになってるんだっけ?」
「うん。魔王討伐から今日まで誰も入っていないよ」
「じゃあ、俺たちも本気の装備でいっか」
ヤルモは黒い鎧を装備しながらクリスタとの話を続ける。
「問題は、パーティから一人あぶれるってところだな」
「賢者様が無理矢理押し付けてこなかったら、こんなことを考える必要なかったのにね」
「じゃあ、お前帰れ」
「なっ……」
全員の視線がテッポに集中してヤルモが帰れと言うと、テッポは
「貴様は俺が侯爵家の跡取りと知ってそんなことを言っているのか! 不敬だぞ!!」
「跡取りなら無理しなくていいと言ってるんだ。死にたくないだろ?」
「このテッポ様が死ぬわけないだろう。華麗な魔法でモンスターを全て燃や尽くしてやる!」
「いや、お前じゃ無理だから」
「はあ? てか、この口の聞き方を知らないオッサンは誰なんですか!?」
貴族に対してあまりにも酷い口調のヤルモに嫌気が差して、テッポはクリスタに話を振った。
「いちおうパーティリーダーかな?」
「勇者様を差し置いてパーティリーダー!? ありえない……貴様こそ帰るべきだ!!」
クリスタの答えに納得できないと、テッポはヤルモを怒鳴り付けた。
「じゃ、頑張れよ」
「待って! テッポ君もヤルモさんに失礼なことを言わない!!」
「ですが!」
「じゃないとここで試験は終わり。君のお父さんの顔を立てて、せめて試験だけは許可したんだからね。パーティリーダーに従えないと言うのなら0点よ」
「ぐっ……わかりました」
ヤルモとイロナ不在では特級ダンジョンなんてクリアできないので、クリスタはすぐに帰ろうとしたヤルモを止めるしかない。
さすがにクリスタにここまで言われたら、テッポも従順にならざるを得ないようだ。
「というわけで、連れて行かないといけないのよ」
「それならそうと、前日までに言っておいてくれないと文句を言えないだろ」
「だから言わなかったのよ~」
こんな面倒事、ヤルモなら絶対断ると思ってのクリスタのナイス判断。お金を貰っている手前、ヤルモも強く反対できないようだ。
「面倒だけど、二班に分かれるか。んで、20階のセーフティエリアまでは勇者の班が先頭で進むってことで」
「私で大丈夫かな?」
「いまのレベルならなんとかなるはずだ。まぁ戦闘は交互にするから疲労も少なくなるだろう」
「わかった」
「じゃあ班分けは……」
ヤルモの決めた班分けは……
A班 勇者クリスタ、聖女オルガ、魔法使いリュリュ。
B班 重戦車ヤルモ、戦女神イロナ、魔法使いテッポ。
もちろんこんな班分けは、テッポが黙っていられず噛み付いて来た。
「どうして俺がオッサンの班なんだ!」
「俺たちは固定で、5階ごとにリュリュとテッポは交代な」
「聞けよオッサン!」
「よし。勇者、さっさと進め」
テッポからの苦情は聞く耳持たず。クリスタは何か言いたげだが、先へと進むのであった。
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