196 魔都3


 レッサーヴァンパイアとなったアルタニア国民の姿に躊躇ためらいの生まれた勇者一行であったが、門を破られたレッサーヴァンパイアには関係ないこと。一斉に襲い掛かって来た。


「「おらぁぁ~!!」」


 そこに逸早く動いたのは、ヤルモとオスカリ。剣を振り、一気に吹き飛ばした。


「勇者だってのに、容赦ないな」

「お前だって、知り合いがまざってるかもしれないんだぞ」

「知り合い……が、いたとしても、命のほうが大事だ」


 ヤルモは知り合いがいないと言い掛けたが、それよりも冒険者の心得で誤魔化した。友達がゼロだと知られたくなかったのであろう。

 その言い方にオスカリは少し引っ掛かったものの、気にせず大声を出す。


「おら! 俺たちは何しに来たんだ! 帝都を取り戻すためだろ!! 目の前にいるのは、死なせてもらえない被害者だ! 俺たちで天国に送ってやるぞ!!」

「「「「「お……おう!!」」」」」


 さすがは勇者。オスカリが鼓舞すると、皆に躊躇いが消えて戦士の顔に戻った。そうして乱戦にならないように陣形を敷いて、レッサーヴァンパイアと戦闘を繰り広げる勇者一行であった。



「チッ……つまらん」


 その頃外壁の上では、群がるレッサーヴァンパイアを斬り捨てていたイロナに飽きが来てしまった。斬っても斬ってもレッサーヴァンパイアが湧いて出て、強そうな個体もいないのではイロナは楽しめないのだ。

 目論見の外れたイロナは下に移動しようかと思った矢先、ついにその個体は現れる。


「あなたにここで暴れられると、防衛の邪魔なのですがね」


 青髪の男、ヴァンパイアエンペラーだ。外壁からアルタニア軍を狙い撃ちにしようとしていたのに、イロナが暴れ回るから出て来たのだ。


「またコウモリか……失敗だ」

「コウモリですって!? 魔王様から授けられたこの素晴らしい力がわからないのですか!!」


 イロナがテンションを下げると、何故かヴァンパイアエンペラーは激怒。その姿に興味を持ったイロナは質問してみる。


「お前は、元は人間なのか?」

「その通りです。アルタニア帝国でも名のある騎士です。残念ながら名前は忘れてしまいましたが、魔王様にこれほどの力を授かったのですから、それぐらいのデメリットは問題ないでしょう」

「よく喋るヤツだな……」

「それは私が有能なヴァンパイアだからです。他のヴァンパイアと違って、志願してヴァンパイアになったのですから、誓約が少ないのですよ」

「ほう……その有能とやらを、とくと拝ませてもらおう」

「クフフ。私もこの力を使ってみたかったのです!」


 お互い剣を構えると、ヴァンパイアエンペラーはイロナより先に動いた。


「あ……アレ??」


 しかし、勝負は一瞬。ヴァンパイアエンペラーはイロナに斬り刻まれ、胸より上しか残っていないので、とぼけた声を出した。


「これのどこが有能なのだ……はぁ~」

「こ、ここからが私の……ぎゃああぁぁ~!!」


 ヴァンパイアエンペラーの真骨頂も逆転劇も、イロナの前では無意味。復活した場所から切断され、何もさせてもらえないヴァンパイアエンペラーであった……



 一方その頃、地上の広場では、レッサーヴァンパイアとの激闘を繰り広げる勇者パーティとヤルモ。


「ああ! うっとうしい!!」


 レッサーヴァンパイアはいくら倒しても減るどころか増えているので、オスカリが苛立つ。


「もう、イロナと一緒に先に進もうかな?」

「てめぇ! 俺たちにレッサーだけ押し付けるつもりか!?」


 ヤルモも面倒なのか、一気に駆け抜けたい模様。オスカリもどちらかというと強い敵と戦って活躍したいので、ヤルモを行かせたくない。

 そんな言い争いをしていると、空から何か降って来たかと思ったら、地面が爆ぜてレッサーヴァンパイアが吹き飛んだ。


 イロナの登場だ。ヴァンパイアエンペラーを空に投げ、そこに高速の突きを放って移動したから、このような爆発が起こったのだ。


「おっ! 主殿。お土産だ」


 その爆発に巻き込まれたヤルモたちは、吹き飛ぶレッサーヴァンパイアを払いのけるのに大変だったのに、イロナは軽い。


「なんだ?? うおっ!?」


 軽いどころか、斬り刻んだヴァンパイアエンペラーの頭を投げ渡して来た。


「そいつ、変なことを言っていたから連れて来てやったぞ」

「連れて来たって……噛んだ!?」


 もう死んでいると思っていた頭はヤルモの手を噛んだので驚きを隠せない。


「これで復活と眷属ゲットー! チューチュー」

「気持ち悪いから吸い付くな!」

「へ??」


 残念ながら、ヴァンパイアエンペラーの牙はヤルモの防御力は貫けず。パラディンならばギリギリ傷を付けられただろうが、相手が悪かった。

 ヴァンパイアエンペラーは再びとぼけた声を出しているところをヤルモに頭を鷲掴みにされ、簡単に剥がされた。


「な、なんで私の牙が通らないんだ……」

「ん? こいつ……こないだのヤツよりよく喋っているな……賢者。いるか?」

「投げるな! そこに置け!!」


 ヤルモが気になって投げ渡そうとしたが、ヘンリクは拒否。噛まれたらヴァンパイアになるのだから必死だ。

 とりあえず頭を地面に置いたらオスカリが頭を踏んで剣を抜き、ヘンリクの尋問が始まった。


「お前は何者だ?」

「フッ……そこの女にも言ったのだが、私は名のある騎士だったのだ」


 ヘンリクがダメ元で質問したら、ヴァンパイアエンペラーは喋る喋る。復活の時間稼ぎをしているのかと思ったが、体が戻る度にオスカリたちが斬り刻んでも気にせず喋り続けるので、全ての情報を得たヘンリク。


「つまり、死にたくないから魔王の質問にペラペラ喋り、自分からお願いしてヴァンパイアになったと……」

「その通り。これでお前たちも私を見逃してくれるでしょう?」

「いや~……」


 どうやらペラペラ喋っていたのは、命乞いだったらしい。魔王は約束を守ってくれたのだから、通じると思って……

 ヘンリクもこのお馬鹿なヴァンパイアエンペラーをどうしていいかわからなくなって、オスカリに裁定を任せた。


「お前のせいで、こんなに苦労することになってんだよ。死んで罪を償え!」

「「「「「うんうん」」」」」

「ぎゃああぁぁ~!!」


 魔王に情報を流したならば、それはもう人類の敵だ。オスカリたちは容赦なく、ヴァンパイアエンペラーの命を刈り取ったのであった。

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