197 魔都4


「なんだ?」


 ヴァンパイアエンペラーを倒した瞬間、状況が変わる。上からレッサーヴァンパイアが降って来たり、地上にいるレッサーヴァンパイアも統率無く動き出したり。その光景に、ヤルモたちはキョロキョロしている。


「ひょっとして……エンペラーを殺したから、統率が無くなったのかも?」

「だな。リスト、合図だ!」

「おう!」


 オスカリが理由に気付き、賢者ヘンリクが同意したと同時に大魔導士リストの炎魔法が打ち上がる。すると、ヤルモが破った門の近くに配置したアルタニア兵が前進し、伝令で連れて来ていた兵が報告に走った。

 これでヤルモたちは一時休憩。レッサーヴァンパイアを倒すのが面倒になっていたので、誰からの反対は無かった。だが、たまに向かって来るレッサーヴァンパイアがいるので、じゃんけんで負けた二人が交代で倒している。イロナ以外。


 そうこうしていたら、アルタニア兵は帝都に雪崩れ込んだ。


「聞いているとは思うが、これは救済だ! 知人を早く眠らせてやるんだ!!」

「「「「「おおおお!!」」」」」


 伝令から報告を受けていたが、やはり勇者の言葉があると違う。オスカリの言葉にアルタニア兵は力強く返し、レッサーヴァンパイアと戦うのであった。



 アルタニア兵は数で押し、階段を駆け上がって外壁でも戦闘が始まったが、潮目が変わる。


「また統率された動きになって来たぞ?」

「上位ヴァンパイアだ! どこかにいるぞ。探せ!!」


 レッサーヴァンパイアの動きが変わると、勇者パーティと近くの兵士がキョロキョロし、一人の兵士が上を指差したので、ヤルモがお願い。


「イロナ。叩き落とすだけでいい。あとは俺がやるから頼めないか?」

「いいのだが……主殿で倒せるか? まぁいいか」

「ちょっ!? そんなに強いの!?」


 イロナは意味深なことを言って空を駆けて行ったのでヤルモは焦る。しかし、イロナが無茶をするのだから、焦っている場合ではない。


「中央だ! 中央を開けろ~!!」

「お前ら! ただちに離れろ~~~!!」


 ヤルモが叫ぶと、イロナが無茶すると気付いたオスカリや勇者パーティも続いたので、兵士は広場の中央から離れる。レッサーヴァンパイアはその場にいたのだが、空から降って来た物に何体か巻き込まれて潰れた。


「ぐっ……なんだあの化け物は……」


 化け物であるはずのヴァンパイアエンペラーの男は、空を見ながら立ち上がる。おそらく、イロナの強さに驚いているのだろう。


「一気に仕留めるぞ!」

「「「「「おお!!」」」」」


 そこに、ヤルモプラス勇者パーティの突撃。珍しくヤルモが指揮を取り、最大攻撃を繰り出す。

 ヴァンパイアエンペラーは空を見ていたので反応が遅れ、ヤルモや勇者パーティの攻撃を無防備に受けてしまい、体は半分以下に。その後も復活する度に斬り刻まれて撃沈となった。


「なんだ。主殿だけでやるんじゃなかったのか」


 そこに、空から降って来たイロナは合流。


「こんなの相手にしてたなら、先に言ってくれよ~」


 ヤルモの攻撃力では一撃で腕の切断とまでいかなかったので、泣き言。イロナと戦って弱ってもいないヴァンパイアエンペラーでは、勇者パーティと共にタコ殴りにしなければ、こんなにあっさり倒せないほど強敵だったから当然だ。


「あの嬢ちゃん……いったいぜんたいどうなってんだ?」

「わからん。しかし、これほど頼もしい味方はいない。味方のうちは……」


 オスカリもヴァンパイアエンペラーは強敵と受け取っていたのでヘンリクに振ると不穏なことを口走り、皆はコクコクと頷くのであった。



 ヤルモが泣き言を言ったがためにイロナからゲシゲシ蹴られていたが、魔王と戦わないのかと言ってなんとか止まった。


「では、進め!!」

「はっ!!」


 イロナのイジメは止まったけど、ヤルモ号は発進。体当たりでレッサーヴァンパイアを蹴散らしながら走り、イロナはその後ろを優雅に歩く。


「お、俺たちも続くぞ!」

「「「「おう!!」」」」


 その二人の行動に見惚れていた勇者パーティは、慌ててダッシュ。どうも、ヤルモが防御を捨てて突っ込んでいるのがいまだに信じられないようだ。


 レッサーヴァンパイアの密集地帯は、ヤルモのパワーのおかげで真っ二つ。スピードも落ちないので、ぶつかったレッサーヴァンパイアは吹っ飛ぶから綺麗に両側に押し倒される。

 そこをイロナと勇者パーティが続くが、起き上がったレッサーヴァンパイアがたまに襲い掛かって来るので、ヤルモのようにレッサーヴァンパイアを吹っ飛ばして後続にぶつける。



 ヤルモの大活躍で勇者パーティを引かせたが、ついにレッサーヴァンパイアの密集地帯を抜けることに成功した。しかし、そうは上手くいかない。

 ヤルモが足を止めると、イロナが横に立った。


「クックックックッ。デカブツはここを守っていたわけか」

「今まで見ないと思っていたら、こんなとこにいたのかよ~」


 大通りには、巨大モンスターの密集地。イロナは喜び、ヤルモはガックシ。


「嘘だろ……ダンジョンの最下層のモンスターだらけだ……」

「こんなに揃っていては、一時撤退しか……」


 一体や二体なら、勇者パーティでもビビることはないだろうが、何体いるかもわからないのでは、ヘンリクの判断が妥当だろう。


「確かにこうも多いと面倒だな。主殿、アレをやれ」

「アレって……アレ??」

「アレしかないだろう」

「いや、アレは……」

「やれ!」

「う、うん……」


 イロナも意外にも及び腰になっていたので、勇者パーティは逃げるのかと思ったが、ヤルモに何か命令していたのでオスカリが声を掛ける。


「逃げるんだよな?」

「いや、俺が無茶する。全部倒せるかわからないから、もしもの時は頼んだぞ」

「は?? 言っちゃあなんだが、お前の攻撃力は俺以下だろ。無理すんな。俺も一緒に嬢ちゃんに謝ってやるぞ。な?」


 まるでヤルモが大人に怒られている子供かのように説得するオスカリ。しかし一緒に謝っても、待っているのは地獄しかない。ヤルモは覚悟を決めて、変型する。


「戦車モードに移行」

『オッケーマスター。戦車モードニ移行シマス』

「「「「「なっ……ななな……」」」」」


 どこからともなく機械的な声が聞こえ、ヤルモの太ももにキャタピラが装着されて肩が角張って行くと、勇者パーティが声にもならない声を出した……


『戦車モード移行完了シマシタ』

「おお! それだそれだ!! でも、ドラゴンだけは傷付けるでないぞ?」


 イロナが興奮しているが注意事項を脅すように言って来たので、ヤルモは親指を立てて返事とする。


「ファイアー」

『ファイアー』


 ドンッ! ドドォォーンッ! ドドドォォォーーーンッ!


「「「「「なんじゃそりゃ~~~!!」」」」」


 そして、ヤルモからロケット弾等が発射されると、勇者パーティが声を揃えてツッコムのであったとさ。

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