141 合同チーム4


 地下60階のセーフティエリアでわいわい食事をしたヤルモは、イロナと共に自分のテントに入って横になっていた。


「どうした? 今日はヤラないのか??」


 ヤルモが一言も喋らず天井を見ていると、イロナが男らしいお誘いをする。


「ちょっと考えごとを……」

「考えごと??」


 まだ上の空のヤルモは、体を起こしてイロナを見る。


「最近の俺って、楽しそうに見えるか?」

「うむ。見えるぞ。最初の頃なんて、勇者に話し掛けることも少なかったぞ」

「そっか……楽しいのか……」


 ヤルモはドスンと倒れると、また上の空で天井を見つめる。そうしていると、視線をイロナの顔に遮られた。


「それでヤルのかヤラないのかヤルんだろ??」

「あ、ああ……頼む」


 イロナは質問しているが、ヤルモに決定権はない。なのでイロナに身を任せてから眠りに就くので……


「待った! それじゃない! ぎゃああぁぁ~!!」


 突如、予想していた行為ではない拷問のようなイロナの奉仕で、HPを減らしてから眠りに就くヤルモであった。



 翌朝……


 勇者パーティは寝不足。久し振りにヤルモから悲鳴が出たので、数人は悶々とし、また数人は怖くなって眠れなかったようだ。

 もちろんクリスタとオルガから声が大きいと注意を受けていたヤルモ。さすがに聞かれていたと知っては、申し訳なさそうに謝っていた。


 地下61階に下りた勇者パーティは『みんな頑張れ』。イロナだけは『ガンガン行こう』。ドラゴンが出た場合は奪い取られるが順調に進んでいる。

 戦闘では、勇者パーティにヤルモがいるおかげで安定感がある。パウリが崩れそうな時にはヤルモが支え、クリスタたちが一呼吸置きたい時には一切攻撃を後ろに通さない。


 パウリも頑張ってはいるが、地下70階ともなるとヤルモの手助けがあっても立っているのがやっと。お昼休憩では、一人、ズーンと気落ちしているので、皆から励まされていた。


「大丈夫、大丈夫。みんなこんなもんだったよ」

「そうですよ。中級なら、ある程度戦えたでしょ?」

「僕も全然役に立ちませんでした~」

「わたしもです。なんだったら、この辺からわたし、歩いてるだけでした!」


 クリスタ、オルガ、リュリュ、ヒルッカは、低レベルでありえないダンジョンに挑戦させられているので、一度は心を折られているから励まし上手になっているようだ。だが、空気の読めない者もいる。


「フンッ……その程度で主殿をマネしようとしていたのか」

「イロナ! シーーーッだ!!」


 鬼軍曹のイロナだ。せっかくパウリのテンションが戻って来たのに叩き斬るので、ヤルモが焦って止めていた。その後ろでは、クリスタたちがコソコソとパウリを励ましている。


「魔王の言葉なんて気にしちゃダメよ」

「あの人には人の心がないんですからね」


 イロナに対してかなり酷いことをクリスタとオルガは言っているが、パウリはイロナの戦いぶりを見て「マジ魔王」とか思っていたから、少しは気分が回復した。

 そこにヤルモからトドメ。


「俺が予備で持っていたS級シングルの盾をやる。いまのお前なら持てるだろ」

「し、師匠! ありがとうございます!!」


 パウリはもうヤルモのことを師匠としか見ていないので、予備の大盾でも貰えたら大はしゃぎ。本当は、前回の探索でSS級ダブルの大盾が出たから在庫処分なのだが……



 お昼休憩を終えて出発したら、テンションの上がったパウリは『ガンガン行こう』。大盾で防御力は上がったが、レベル差がありすぎてモンスターにタコ殴りにされている。

 ヤルモとオルガで守ってなんとか死にはしなかったが、地下80階のセーフティエリアに着いた頃には、一人だけズタボロ。軍から支給された鎧も、今にも崩れ落ちそうになってしまった。


「うっううぅぅ。自分だけ情けないッス」


 食事の席では、いつも通りパウリはテンション駄々下がり。今までの道中で掛ける言葉を全て使いきったクリスタたちは、ヤルモに任せっきりにしている。


「そうでもない。正直、ここまでついて来れると思っていなかったぞ。お前は凄い奴だ」

「ほ……本当でありますか?」

「本当だ。パウリは根性がある。次回には、必ず戦力となるはずだ」

「師匠にそう言ってもらえてありがたいッス!」

「ま、その鎧だと、ここから先ですぐ壊れるから、さっき出た鎧に変えておけ」

「ありがとうございます!」


 ヤルモが手に入れた鎧を手渡すと、パウリは嬉しそうに装備していたが、ヤルモは面倒くさそうにしている。

 男に「かっこいいッスか?」とか聞かれても、適当な返事しかできないようだ。しかし、また気落ちされても面倒なので、ずっと褒め続けている。


 その姿を見ていたクリスタは、頬を膨らませてオルガに文句を言う。


「ひどくな~い? 私の時なんか全然褒めてくれなかったのに~」

「男どうしの愛……尊い……」

「えっ……聖女様って、そっちもいけるの??」

「へ? 違います違います! 違いますからね!!」

「聖女様のエッチ~」


 ムッツリ聖女オルガが新しい扉を開いてしまったので、クリスタはからかうのが楽しくなって、ヤルモが褒めてくれない問題はどうでもよくなったようだ……

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